第五百六十一話 交渉成立?


 金属音が鳴り響く。

 俺のサージュブレイドとブラームスの剣が火花を散らす。

 

 騎馬で警戒に動く彼に、俺はレビテーションで対抗し、幾度か切り結ぶ。

 マキナ達の様子も気になるが、アポスがどこで見ているか分からないので、手を抜くわけにもいかない。

 というより、結構な強さがある。


 俺が考え事をしていた瞬間、急激に加速して突いてくる。


 「さすがに速い……!」

 「まさか受けられるとはな。坊主、さっきのはどういう意味だ?」

 「おっと、聞いてくれる気になったのかな? ……手は止めないでくれ」

 「……なにを企んでいるか分からんが、お前も本気じゃなさそうだな?」


 ここでブラームスが裏切れば俺も危ないのでお互い様だと、剣を弾きながら口を開く。


 「俺はレフレクシオン王国の住人で、ガストという領地を治めている領主の次男なんだ」

 「ほう!」

 「くっ……! この!」

 「うお!?」


 油断なく剣をぶつけてくるので、俺は騎馬からブラームスを落とし地上へ降りた。

 そのまま上段、中段と剣を振って彼に迫る。


 「おっかねえ坊主だな」

 「真面目に話してるんだから聞いてください。……で、ベリアース王国が侵攻をしてきて、俺の住んでいたガストの町を荒らした。福音の降臨のことは?」

 「少しだけ。ベリアース王国が教主とやらに支配されているくらいか」

 「オッケー。実際、あいつが諸悪の根源ってところだ。十神者という部下が強力で、騎士団一つでは手に負えないほど強い。ああ、丁度あそこに居る男がそうだ」


 俺がキムラヌートに目を向けると、横薙ぎに剣を振りながら口笛を吹くブラームス。

 それを紙一重で避けながら裏拳で顔面を狙う。

 もちろんそれは回避される。ちょっと当てに行ったんだけどな。


 「それで?」

 「俺は福音の降臨を潰したい。そのため内部に入って教主を倒す。ただ、その後ベリアース王国も抑えておきたいんだ」

 「……エバーライドか」


 話が早い。


 「そう。アポスの逃げ道を塞ぐため、ベリアース王国を抑える。その人員はもう向かっていて、恐らく近日中に城は落とせるはずさ」

 「マジかよ。なら俺達はなにをすればいいんだ?」

 「……アポスはここで倒すつもりなんだけど、ここで抑えている間にエバーライドを目指して欲しい」

 「ベリアースじゃないのか?」


 その言葉を発しながら体をねじって斬り下ろしてくる。

 それを弾いて懐に潜ると、胸板に軽めのファイヤーボールをぶつけて爆発させた。


 「う!? いてぇなクソ!?」

 「本気で斬りかかってくるからだよ! アポスを仕留めそこなった場合、逃げた先のベリアースは抑えている。となると、次に逃げるのはエバーライドだろう?」

 「確かに……な!」

 「うわ!? 斬るよ!」

 「上等だ!!」


 そこからしばらく無言で演舞が続く。

 隊長だけあって剣筋は鋭い。これでも恐らく手加減していると思うけど……

 剣を自由自在に扱う様は武器種無視のティグレ先生とはまた違う強さがある。


 「それが本当なら乗ってやってもいい。ただ、陛下にも話は通さないといけないぞ?」

 「そこが問題だな!」

 「おっと……! どうする? このまま俺に捕まって連行されるってのは」

 「そこに居る仲間が心配だからそれはできない。撤退したふりをしてもらい、夜中、草原の中央で落ち合うのはどうだ?」

 「……ま、とりあえず静かに話したいし、いいぜ。福音の降臨もベリアース王国も気に食わねえからな」


 交渉成立だと俺達は剣をお互い叩きつけるようにして距離を取る。

 不敵に笑うブラームスが頷いた瞬間、予想外のことが起きた――


 「なんだ!? 白い光がぁぁぁぁ!?」

 「ド、ドラゴン……!?」

 「うおおおお!?」

 

 敵味方関係なく、白い閃光が草原を奔った。

 それは紛れもなく――


 「ラース、あれって!?」

 「ああ、ドラゴニックブレイズだ……一体誰が」

 「あ、あれ……!?」

 

 クーデリカが指した先に居たのはアポス。

 ヤツが笑いながら二発目を放っていた。


 「手ぬるいぞ、倒せない兵に用はない。まとめて消え去れ! <ドラゴニックブレイズ>」

 「あいつ古代魔法を使えるのか!? ブラームス、撤退するんだ! 下手をすると全滅するぞ」

 「ああ……! 夜中、待ってるぞ。裏切ったら承知しねえからな」

 「大丈夫だ……マキナとクーデリカはサージュを引っ張って砦へ!」

 「ラースは!」

 「俺は出来るだけみんなを治療する。トドメを刺すように見せかければなんとかなるか……」


 そうしている間にもドラゴニックブレイズが飛んでくる。

 撤退の合図を出しながらブラームスが俺達から離れていく。収束しないよう注意しろと告げて、俺も奔走を始めた。


 「めちゃくちゃするな……あいつめ……<ヒーリング>」


 あいつの視線から外れている兵士を治療し、イルファン側へ投げ捨てる。これでいくらかは救えたはず……


 やがて撤退したイルファン王国に満足したアポスの攻撃が止み、傷ついた兵士達が砦へと戻る。

 俺も一人、アポスの下へ。


 「……ドラゴニックブレイズが使えたんですね? 味方ごとはまずいんじゃないですか」

 「くっく、役立たずは死んだ方がいい。ドラゴニックブレイズはお前が手本を見せてくれたから出来るようになったのだぞ」

 「え!?」

 「私のスキルを教えたではないか。【天才】のおかげで魔法や剣術を見ればそれを使うことができるのだよ」


 なんだって……?

 となると俺がレビテーションなんかを見せたらそれを使えるってことか。これは……迂闊な真似はできないぞ。

 だけど、それは天才と言うのだろうか? なんか違和感があるんだけど、どうしてだ?


 「まあ、理解は難しいだろう。……昔、どうしようもない男が居たな。あれは滑稽だったぞ、なにをするにしても私には勝てず、両親には疎まれてただ金を運ぶだけの存在だった」

 「……両親?」

 「話が過ぎたな。戻るぞ」

 「……ええ」


 転生者、だったな。

 ずっと気になっていた物言い、態度。

 こいつ、まさか――

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