第五百六十話 無視出来ない個人戦力
「<ウォータージェイル>!」
「ぐっ、この程度……うお!?」
「ごめんねー!」
「鎧が!? ぐあ!?」
「悪いけど、少し寝てて!」
後方支援として俺がウォータージェイルを使って足止めをし、前衛二人が狩り取っていく。
ケガをすれば回復できる態勢なので、安心して見ていられるのもいい。
サージュとロザは別でタッグを組んでいるので、少し離れたところを見ると――
<ふん! はぁ! ふははは、我の前に出るなら覚悟するんだな!>
「こいつ……! お、なんだ!? 攻撃が届かない!?」
<オートプロテクションの魔法だ。我にダメージを与えたくば、もう少し力をつけるべきだ。残念だったな>
「ぐお!?」
サージュはマキナと同じく徒手空拳。
と、見せかけてインパクトの瞬間に爪を伸ばして叩きつけていたりする。
ただ、ファスさんとも稽古をしていたので、今の兵士を吹き飛ばしたように蹴りも扱えるのだ。
<私の剣に触れたら火傷じゃすまないよ!!>
「な、なんだこの女!?」
「じ、地面を火が走るだと……うぎゃ、熱い!」
<だらしないぞ、それでも訓練された兵士か!>
「め、めちゃくちゃだこの二人!? か、囲めえ!」
ロザは……うん、なんか嬉しそうだけど問題無さそうなので放っておこう。
こっちはこっちで相手の指揮官を探さないと。
「小娘が調子に乗りおって!」
「二人がかりで行くぞ!」
俺が視線を周囲に配らせていると、クーデリカへ兵士二人が襲い掛かる。反応が遅れたと思ったが、彼女は斧で剣を受け止める。
「っと……! やるね、おじさん!」
「なに!?」
「っと、凄い力だな嬢ちゃん! スキルか!」
「その通り! たぁ!」
大きな斧を軽々と振るい、兵士が一人、丸めた紙屑のように後方へ転がっていく。だが、もう一人は踏ん張ってさらに斬りかかってくる。
「俺も身体強化のスキルでな、もらうぞ!」
「なんのぉ!!」
「ぐぬおおお!」
あのおじさんやるね、それでもクーデリカの一撃は重いらしく渋い顔で打ち合う。
イルファン王国の兵士達は決して弱くはない。
けど俺達の訓練相手は達人クラスばかりなので、アレと比べたら申し訳ないが平凡な動きに見えてしまう。
特に――
「はあああああ!」
「う! 剣を弾くのかよ!?」
「腕が……痺れる……」
「抵抗するなら戦うまでよ! 指揮官はどこ!」
マキナはファスさんの教えを直で受けているので動きは段違いだ。
三人がかりでも掠らせない足さばきはさすがの一言。
技を繰り出さないのは……手加減もあるのかもしれないな。
「隊長狙い!? 教えるかよ!」
「俺がやる!」
剣を落とした若い兵士が叫び、まだ軽傷だった男が斬りかかる。
狙いは胴。
だけど、マキナに半歩引いてそれを回避する。
「まだ……!」
「!」
そこは兵士も織り込み済みだったか、そのままもう一歩踏み込み突きを繰り出す。
だが、マキナはそれを左の裏拳で弾いて、顔面に右ストレートをぶちこんだ。
「ふが!?」
「いい手だけど、読みやすいわ」
「くっ……なんなんだこいつら……今までと違って随分強いぞ……」
ウチの彼女は頼もしいなあ。
まあ、範囲内に居ればオートプロテクションが発動するのでそうそうケガをすることは無いんだけどね。
俺から離れれば離れるほど効果は薄くなるから楽観視はできないが、守りの一つとしては使える。
「必殺! デッドリークラッシュ!」
「うおおお!?」
「【カイザーナックル】!」
「「「ぐわ!!?」」」
……使えるけど、その必要はないかなってくらい強いな二人とも。サージュもロザもバッタバッタとなぎ倒すし、遠くで軽快なステップを踏んでいるキムラヌートの周囲も倒れた兵士がいる。
さて、小競り合いはこのくらいでいいとして、そろそろ指揮官らしき人間を把握したい――
「――!? <ファイヤーボール>!!」
一瞬、背筋が寒くなり目を向けると槍が飛んできていたので慌てて魔法で迎撃。
恐らくだが、オートプロテクションでは防げないと本能で悟った。
爆発を起こし、腕で目を庇うと蹄の音が近づいてくるのが聞こえた。
「……! <ファイアアロー>!」
「チッ、やるな! まだ若いがいい判断をしている!」
「いつの間にこんな近くまで!?」
「私達を避けてラースに仕掛けた……? おっと!」
マキナが随伴してきた騎馬の攻撃を避けながら呟くと、旋回しながら俺を狙った男が笑う。
「はっはっは! 君が一番面倒くさそうだと思ったんだよ、なかなか優秀な魔法使いのようだ。それに、私を探していたのだろう?」
「くっ……ということは!」
馬の機動力を活かし、走りながら俺に斬りかかってくる。
見えなくはないが、反撃するのが難しい。というのも、俺が魔法を撃てばマキナやクーデリカに当たるかもしれない場所へ移動するからだ。
そしてあの口ぶり、恐らく……!
「この部隊の隊長か!」
「その通り!」
再度突っ込んでくる男に、俺はレビテーションで浮いてからサージュブレイドで受け止める。
鍔迫り合いになったところで不敵な笑みを浮かべた男が口を開いた。
「……驚いた、まさか古代魔法を使えるとは。私の名はブラームス。イルファン王国騎士団長だ」
「やっぱりか、俺はラース。ベリアース王国は福音の降臨の信者」
「ふん、狂信者か。こりゃ期待外れか」
「……だけど、あなたに話したいことがある。ベリアース王国打倒のために」
「は?」
ブラームスは『こいつ何言ってるんだ?』という顔で変な声を上げた。
まあ、そりゃそうか……
だけど、この機会は逃すわけにはいかない……!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます