第五百五十八話 人の皮を被った悪魔
この辺りでいいか。
ギリギリ砦の灯りが見える距離で着地すると、キムラヌートも次いで着地。
向かい合って睨みつけると、涼しい顔で武器を装備する。
「……トンファーって珍しいね」
『まあな。俺の【物質主義】はなにも欲しいもので力を増すわけではない。金を得る、名声を得る、いい女を得る。その中には、実際にぶん殴る、という物質的なものも含まれて……いる!』
「……! 右か! <ファイヤーボール>!」
不意打ち気味に踏み込んで来たキムラヌートだが、大丈夫見えている。
俺は即座にその場を離れ、立っていた場所に魔法をぶっ放す。
『ふん、様子見だったが見えているようだな』
「トンファーで弾いた!? おっと!」
踏み込みが速い。
だけどマキナやファスさん、ティグレ先生ほどではない。
右フックをかがんで回避し、至近距離で魔法を炸裂させる。
魔法は<ファイアランス>を選択。悪魔相手なら手加減は必要ないだろう。
『フッ! そんな魔法で!』
「チッ、やっぱり魔法は耐えるか。なら近接だ!」
俺はファイアランスを打ち出すと同時にサージュブレイドを抜いて切りかかる。
居合のような形で刃が走ると、トンファーで受け流された。
バランスを崩す……と見せかけて左手でファイヤーボールを地面に放ち追撃を防ぐ俺。
次いで、足でアースブレイドを使いトドメに移る。
『……! 手練手管といったところか!』
「スウェーでアースブレイドを避けるあんたも凄いけどな! たぁぁ!」
『む……! こいつ!』
「くっ……!?」
もう一歩、踏み込んで両手で握ったサージュブレイドで右から袈裟懸けに叩き斬る。
俺の攻撃はざっくり右肩から胸のあたりまで切り裂いた。
だが、構わず突っ込んで来たキムラヌートの左拳を顔面に受けてしまう。
脳が揺さぶられる……!
落ち着け、近接の相手はとにかく近づいてくる。俺はそれを逆手に取り、サージュブレイドを手放してキムラヌートの首を掴む。
『なに!?』
「驚いたか? <バーストフレイム>!」
『ぐお……!?』
俺の手を外そうと手を伸ばした瞬間、爆発と火炎流を巻き起こすバーストフレイムキムラヌートを燃やし尽くす。これで倒せるとは思えない、即サージュブレイドを回収してレビテーションで空へ。
『くっ、上か!』
「ジャンプでここま飛んだ!? 痛っ!?」
流石は悪魔か、俺の位置をすぐに見つけ俺より高く飛び上がり、回し蹴りを繰り出してくる。咄嗟にガードしたけど、剣が折れるんじゃないかという位の衝撃を受けた。
負けじと剣を横に薙ぐと、胸のあたりに食い込む。
怯んだところに俺は脳天にサージュブレイドを振り下ろし、鈍い音と共にキムラヌートを地面に叩きつけることができた。
『ぐう……なるほど、バチカルの言う通り実力は相当なものだ』
「まあね。お前も強いよ、けどあの三人と戦ってから俺達も修行を進めたからな。バチカルも協力してくれたよ。どうする? 真の姿で戦うか?」
まだ俺は全力を出していない。
それはあいつも同じことだろう、納得がいくか死ぬか、この戦いはそういうものだと思い聞いてみる。
だが、キムラヌートはトンファーをしまいながら口から血を吐いて言う。
『ふん、合格だ。バチカルと訓練とは笑えん。お前、真名を口にした俺を相手にしても勝てる自信があるのだろう』
「まあ、それはな。じゃなきゃ一人で来ない」
『戦ったことがない相手でもその自信……面白い、教主は気に入らないのは俺も同じ。手伝ってやろう』
「いいのか? 別に手を出さないだけでも助かるんだけど」
『まあ、直接手は下せないから、そういう形になるだろう』
「……クーデリカにも手を出すなよ」
『お前のものだろう、惜しいが他を探そう』
回復魔法でお互いの傷を回復しながらそんなことを言う。
「いや、俺のって訳じゃない」
『ならどうして怒る? そうなるとクーデリカと俺の問題だ、口を出す必要はあるまい』
「い、いや、クラスメイトだし……」
『ふむ、向こう側の人間の転生体らしい考え方だな。……この世界はこの世界。よく考えるのだな、手に入るものであればできるだけ手に入れるべきだ』
「……?」
なにが言いたいのか分からないが、キムラヌートはそれだけ言うと空を飛び砦を目指す。
……ま、とりあえず俺の勝ちってことでいいらしい。
『ああ、早く戻った方がいいか? もしかすると教主がお前の仲間を狙うかもしれん』
「ん? なんでだ?」
『お前達は‟刺青”を入れていないだろう。しかも色々と問題があるやつらだと言っていた、秘密裏に植え付けるかもしれない』
「……!? 早く言えよ! 戻るぞ!!」
◆ ◇ ◆
「……」
暗い通路を歩くアポス。
目指す場所はラース達の眠る部屋だった。
生意気な小僧達と思いつつも戦力としては使えると確信したアポスは制約をつけるため、裏切らないため、裏切れば死に繋がるあの刺青を入れようと考えていた。
だが――
「アポス様、こんな夜更けにどこへ行かれるのですか?」
「……エリュシュ王女、それはこちらのセリフだな。そこをどいてもらえるかな?」
「お断りします」
「……」
はっきりものを言うエリュシュに、アポスは眉をピクリと動かし目を細める。父親は裏で画策するタイプだが、この王女はハッキリと物を言う。面倒な相手だとアポスは考えていた。
「ラース達になにかすることはこのわたくしが許しません。あれは伴侶にします」
「ギルガーデンは許可しないだろう」
「何かご存じで?」
「……いや」
「そうであれば黙ってくださいませ。福音の降臨のメンバーからラース達は抜けてもらうことも考えています」
「ふん……」
ギルガーデンが王女をここに来ることを許可したのはなにかあると考えていたが、王女の伴侶にするつもりだったかと首をひねる。
「(しかし、ギルガーデンもラースを伴侶にするのは難色を示していたはず……。なにを考えている? ならば泳がすのもアリか)」
「どうしました?」
「いえ、王女は勘違いされていると思いましてね。私はトイレに行くだけですから」
「……そうですか」
「はい」
そういってアポスは踵を返し部屋へと戻る。
「(始末をしておくのはラース達ではなく王女の方かもしれんな? さて、攻めてくれると助かるのだが――)」
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