第五百五十七話 十神者・キムラヌート


 「状況はどうだ?」

 「これはアポス殿……!? どうなされた、こんな辺境に。……ん!? あれはエリュシュ王女ではないか!?」


 いよいよというべきか、俺達はイルファン王国とベリアースの国境付近に到着した。

 国境は長い城壁がそびえ立っている。

 その壁のおかげでベリアース側に入ることができないようできていて、草原へ続く見晴らしのいい場所に砦が立っていた。

 しばらく進むと大地の裂け目のような崖があるので、実質この草原を通らなければベリアースを攻略することは難しい。


 そんな道中で聞いた話を思い返しながら、俺はマキナやクーデリカと一緒に馬車に乗せてきた物資を降ろしていく。


 「ふふ、皆の者ご苦労様です。物資を持ってきたからひと時の休憩をするといいですわ」

 「おお、姫様自らとは……! 勿体ないお言葉です!」



 「エリュシュ王女はさすがに挨拶周りみたいね」

 「そうだねー! 馬車は狭かったからいいようにラース君に近づかれたけど、もう近づけさせないもん」

 「まあ、それどころじゃなくなるだろうけどね」

 

 マキナとクーデリカが口を尖らせて兵や騎士に労いの声をかけて回っていた。ああいう姿はきちんと王族なんだなと少しだけ感心する。破天荒な性格ながら、領民からの信頼は厚いようだ。


 まあ、俺が言うことでもないけど『こういうお国がら』というものであれば特に気にならないものなのだと思う。

 レフレクシオン王国がたまたま国家間の戦争とは無縁というだけで、侵略はこの世界であってもおかしくないことなのである。許容できるかどうかは、また別だけども。


 <……意外と人が多いな>

 「一触即発ってことは、小競り合いも多いんじゃないか? 俺達が入って来た反対側の出口にある草原は国境間らしいし」

 <ドラゴン状態なら倒すのは難しくないが、全方位に散られていると対人間は少し面倒だな>


 ロザが不敵に笑いながらそんな物騒なことを口にする。

 そこで俺はキムラヌートが離れているのを確認してから、声を小さくして四人に告げる。


 「イルファン王国について少し考えがある。休める時間になったら集まってくれ」

 <承知した>

 「とりあえず、兵士達に罪は今のところないし、さっさと倉庫へ運んじゃいましょうか」

 「そうだね!」


 マキナとクーデリカが箱を移動し始めたので俺も着いていこうとした矢先、サージュに腕を掴まれ引き寄せられる。


 「どうしたんだ、びっくりするじゃないか?」

 <……キムラヌートという悪魔のことだ。ヤツはクーデリカを狙っている>

 「ん? 悪魔がかい?」

 

 俺が小声で訝しむと、ロザも神妙な顔で俺の耳に顔を近づける。


 <らしいよ。行動を起こすかもしれないから、気を付けてあげないといけない>

 「……悪魔が女を好むのは有り得そうだけど、バチカルは説得できなかったのか」

 <自身の考えで協力するかどうかを決めるそうだ。ああ。それと【物質主義】は欲しいものが多ければ多いほど力を増すらしい>

 「キムラヌートのスキルか。俺の知る悪魔通りだな」


 俺がキムラヌートを見ると、奴も俺に気づき不敵な笑みを浮かべた後、クーデリカの背中を見つめていた。どうやら本気らしい。


 「……クーデリカは大事な仲間だ、絶対に渡さない」

 <うむ。我も手伝うぞ>

 

 サージュとキムラヌートを睨みつけていると、マキナ達が振り返り俺達に声をかけてきた。


 「あれ? ラース、どうしたの」

 「ラース君、これを運んだらご飯だって! 早く行こう! サージュとロザも!」

 「ああ、ごめん!」

 <さて、いつ仕掛けてくるか――>


 不穏なスタート。

 そんな言葉が脳裏をよぎるが、好転材料もあるのでまだ状況は五分というところだろう。

 

 とりあえずアポスはこの砦の責任者らしき太った男と話しているので、エリュシュ王女と共に一旦放置でいいだろう。


 ……しかし、荷物を運びながら周囲を見渡すと負傷者が多い気がする。今回の物資で包帯やポーションといったものも用意しているが足りないんじゃないだろうか?

 

 「ふむ……」

 「怪我人は気になるけど、回復魔法を使うのはまだ止めておいた方がいいわよ」

 「わ!? なんでわかったんだよ」


 俺が箱を置きながら考えていると、マキナが顔を覗き込みながら片方の眉を上げて口を開く。

 

 「ラースの考えていることは分かるわよ。気になるけど、まだ死んでいない。あの人達が牙を剝いてくるかもしれないからギリギリまで手を出さない!」

 「……だな」

 「まあ、師匠なら言いそうだなって。それにラースの、こ、恋人だし分かるわよ。……ま、教主サマがやれって言うなら手伝った方が怪しまれないと思うけどね」


 苦笑しながら俺の手を引いて他の場所に荷物を置いているクーデリカのところへ行き、食事を摂る。

 その日はそれ以上アポスもエリュシュ王女も絡んでくることが無かった。


 その後、アポスも忙しいのか俺達に構う暇はないとばかりに砦の責任者と話を続けていた。


 そして三日目の夜――



 ◆ ◇ ◆


 『……』


 「……どこに行くんだい?」

 『……! お前は……』

 「ラース=アーヴィング。行先はクーデリカとマキナの部屋、ってところか」

 

 砦の無機質な石の通路をひたひたと歩くキムラヌートを呼び止め、ライティングで通路を照らす。

 俺はサージュから話を聞いてから夜中はずっと見張っていたのだ。


 『まあ、そういうことだ。そろそろ我慢ができなくなってきた』

 「【物質主義】お前の名は――」

 『待て。その名を口にするには早い。……あの娘達が大事か?』

 「当然だ」

 『では、その覚悟を見せてもらおう。飛べるんだろ? 表に出るぞ』

 「……いいだろう」


 俺達はガラスの無い空いている窓に手をかけ、草原へと向かう。

 まずは悪魔からか。

 こいつの強さはどんなものかな……?

















◆ ◇ ◆


こちらもよろしくお願いいたします!!

二度目の人生も不遇な俺は、再び復讐のため世界を生き抜いていく ~全てを奪われたまま黙っていると思うなよ?~

https://kakuyomu.jp/works/16816700428550342490


魔王軍No.2の俺は目障りな大魔王を倒すため勇者との共闘を決意する ~歴代最弱の女勇者を鍛えていたら人間達にSランク冒険者として認定されたのだが~

https://kakuyomu.jp/works/16816700426704207344

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