第五百五十六話 【天才】
さて、情報を引き出したいがどこから攻めたものか。
転生者らしいけど、そこは今あまり重要じゃない。なんでもいい、ボロを出してくれると助かるんだけど……
「……それで、今から行くイルファン王国の情勢はどういう感じなんですか?」
「あまり良くはない。というのも近隣のエバーライドを我々が占領したからだがな」
「というと?」
「エバーライドとイルファン王国は友好国で、交易・貿易が盛んだったがベリアースが奪ってからそれが途絶えた。貿易は完全に切っているからエバーライドを奪おうと必死というわけだな」
「どうして貿易を……」
「それは簡単なことだ、その内ベリアースの近くにある国は全て手に入れる。そのためには疲弊してもらっていた方が楽だろう?」
陰湿な……
だけど、国を攻める方法としては悪手ではないあたり頭はそれなりに回るようだ。
兵糧攻めのような感じだろうけど、長い期間が必要でもある。
「その、お言葉ですが教主サマはお年を召しておられます。それほど悠長にしている時間は無いのではと思うのですが?」
「……言うじゃないか。まあ、確かにもう何十年かすれば体は動かなくなるだろうな。子も居ない。まあそのあたりは考えてある」
「出過ぎたことを聞きました。申し訳ありません」
「良い。お前は生意気だが、レフレクシオン王国を倒す目的は同じ。その力、あてにしているぞ」
「……ええ」
言葉に含んだものはない、か。
ただ、自信は相当あるようで俺が裏切るところももしかすると折り込んでいるのかもしれない。
ま、ここまで来たら一番知りたいところを尋ねてみる。
「そういえば教主サマの【スキル】ってなんですか? 私は【器用貧乏】というハズレたスキルなんですが」
俺が困った顔の演技で俯きながらそう言うと、アポスは目を見開いて俺を見た後、大笑いを始めた。
「ふ……ははははは! 器用貧乏……器用貧乏か! ハズレスキルとは珍しいな!! いい魔法を使えるのに残念だな? くく……あの男を思い出すな」
本当におかしいと言わんばかりに俺の肩を叩くアポス。
かなり大声で笑っていたので、言い争いをしていたマキナ達もこっちを向いてきょとんとしていた。
これは使えるか?
俺は冷静だが、あえてむっとしてアポスへもう一度聞く。
「……ハズレで悪かったですね。努力してドラゴニックブレイズを使えるようになったからいいんです。そこまで笑うなら教主サマはかなりいいスキルなんでしょうね?」
「くっく……生意気を言う。だが、楽しませてもらったからいいだろう、私のスキルを教えてやろう。スキルは【天才】、あらゆる物事を把握する能力に長けているし、剣や魔法も得意だ」
「……!」
天才……俺にとっては嫌な言葉のスキルを持っているようだ。
そういう意味ではこの自信は納得がいく。
だけど違和感がぬぐえない。
……いや違うな、俺はこの感覚を知っている。もう遠い過去のことに感じるが、前世の弟がそうだった。
天才の通り名の通り、勉強・スポーツ・娯楽。
ありとあらゆるものに対して水準以上の結果を出すことができていたのはまだ記憶にある。
が、それと同時に脇が甘いことも多かった。
自信がある故に裏を考えないということがあるので、ミスをすることがあるのだ。
弟の件で行くなら、彼女ともう一人浮気をしている女性が居て見つかると思っていない、それと見つかってもなんとかなると思って近場でデートを繰り返し修羅場になった、というようなもの。
他には基本的には勉強ができるからと適当に挑んでセンター試験はC判定という問題が残る結果となったりなどがあった。
センター試験のように後から受験で首席合格を果たすようにリカバリーがきくものならいいが、先の交際は取りかえしがつかない。
結局切り替えて別の女の子と付き合うようになるが、そもそもの話として『失敗をしている』ことは間違いないのだ。天才といえど隙はある。
とりあえずイルファン王国とのことはなんとかなると考えているようだけどそうだろうか?
戦争、人間……色々な要因が重なれば個人の思惑などあっと言う間に消え去ってしまう。
それはあの収穫祭の時、身に染みて分かった。
恐らくだが、レッツェルにとっても誤算だったはずだ。
逆に考えてみよう。
アポスは自分の考えが上手く行くと信じて疑わない。ならば出来るだけ沿う形に協力する。
そして最後に背中を斬る……
うん、悪くないかもしれない。
となると、今ざっと考えて必要なのは二つ。
・アポスの戦闘レベルの実力を図ること
これは以前から言っていたことなので引き続き調査する。
【天才】のスキルであれば実力は確かにありそうなので、これは慎重に。
それともう一つ。
・イルファン王国を味方につける。
閃いたのがこれだ。
もし、国ひとつが味方になってくれればレフレクシオン王国と共同で攻めることは可能。少なくともアポスと十神者、福音の降臨という組織を孤立させることはできそうだ。
「ラース様ぁ、難しい顔をしていますわよ、ささ、わたくしの胸に……」
「私の方が大きいもん!」
「……死にたいの二人とも?」
さて、どうアプローチするかだな……
こういう時ルシエール達がイルファン王国に行ければ変わるかもしれないんだけど、あいにく連絡を取る手段がない。
宿に入ればサージュを使えるんだけど、どうするかな?
◆ ◇ ◆
<……随分無口なのだな?>
『……喋ることに意味を見出せないだけだ』
<面白くない男だな。バチカルやエーイーリーはもう少し話が分かる者だったぞ>
<そうだな、意外とお茶目さんだったぞ>
サージュが乗っていた馬車内がずっと静かだったため、適当に話してみるかと声をかけるが取りつく島もなかった。
ロザがバチカルを比較対象で様子を伝えると、眉根がぴくりと動いてサージュ達に目を向けるキムラヌート。
『……バチカルから話は聞いている。教主様を倒したいそうだな』
<ほう、話していたのか>
『ああ。だが、俺はお前達の実力を測りかねている。あっちに乗ったラースという子供が期待できそうだと言うが、俺は目でみたものしか信じない』
<アポスに報告はしないのかい?>
『お前達が俺の眼鏡に叶わなければそうなるだろう。……俺とてこんなところで使い潰されるのはご免だ。俺のスキルは【物質主義】欲しいものが手に入ればその分力が増す。クーデリカという娘は中々好みだった。欲しいところだ』
<ちょうどいい、ラースの前でそう言ってみろ、本気で戦えるぞ>
『ふん、面白い……』
そしてまた馬車は静寂に包まれる。
舞台は、イルファン王国との国境付近へ――
◆ ◇ ◆
こちらもよろしくお願いいたします!!
二度目の人生も不遇な俺は、再び復讐のため世界を生き抜いていく ~全てを奪われたまま黙っていると思うなよ?~
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魔王軍No.2の俺は目障りな大魔王を倒すため勇者との共闘を決意する ~歴代最弱の女勇者を鍛えていたら人間達にSランク冒険者として認定されたのだが~
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