第五百五十五話 器の大きさ
「わたくしも随伴致します」
「はあ?」
「ラース、いくらなんでもそれは失礼よ……」
俺は相当嫌そうな顔をしていたのだろう、マキナが顔を赤くして肘で脇をつついてくる。
とまあ、先ほどのセリフはエリュシュ王女なんだけど、今日、出発になったこの時にあんなことを言い出したので当然だと思う。
「戦地でもあるんですから、それは止めておいた方がいいと思いますよ? 国王様はなんと?」
「アポス様が説得して、わたくしの安全を確実なものにしてくれるとおっしゃっていました。それで許可が下りましたの」
「怖くないの? ううん、怖くないんですか……?」
「そこは私と同世代のラース様やあなた方が居ますし、大丈夫かと」
「ううーん……」
クーデリカの質問にマキナが唸る。
軽い、あまりにも軽い考えだと思っているのだろう、俺もそう思う。
いくらアポスが守ると言っても、敵国と緊張状態の場所だぞ、それを許すだろうか……?
「ご安心を王女。このアポスが居る限りお守り致しましょう」
「ふふ、期待していますよ。それでは行きましょうか、ラース様とマキナ、クーデリカは私と同じ馬車へ」
「はあ……」
<仕方あるまい。酷なようだが、頑張ってくれラース>
「分かってるよサージュ。そっちも頑張ってくれ」
<ああ>
『……こちらへ』
ロザが答えて別の馬車へと乗り込んでいく。
その横には初めて見る十神者‟キムラヌート”が案内を務めていた。
俺の知る限り性質は【物質主義】で、悪魔はナアマだったかな。
物質主義と言っても比喩表現で、人間なら経済的、衣食住なんかを欲する心を指す。
名誉みたいなものは欲しがらないと思うので味方に引き入れるなら金銭などになるけど、悪魔が欲しがるかなあ……
それはともかく俺はマキナ、クーデリカとと共にエリュシュ王女とアポスが乗る馬車へ。
恰好がドレスのままであるエリュシュ王女はとにかく浮いている……
「ふふ、わたくしラース様が好きになってしまいましたの。マキナにクーデリカでしたわね? わたくしも恋人になりたいのですけれどいいでしょうか?」
「え!? よ、良くない! 良くないよ!」
「ま、まだ、狙っていたの? ラースにあれだけ言われたのに……」
「むしろそれだからですわ! 王女であるわたくしにあそこまではっきりとモノを言う人物は居ませんでしたもの。それに強いのでしょう?」
「……強いわ。だから私はそれに見合うため強くなりたいと思っているの。あなたにラースの隣に立つ資格があると思わないわ」
「そ、そうだもん!」
「う……ふふ、それでこそライバルですわ……」
おお……マキナが珍しく怒っている……クーデリカも拳を握るが、エリュシュ王女ではなくマキナの迫力の方に押されているな。後、一緒に恋人になるならライバルにはならないだろうに。
まあ、マキナには悪いけど牽制してくれるなら俺としてはありがたい。
その間に俺は目の前に座る男に話を聞くとしよう。
「……教主サマ、どうしてエリュシュ王女を連れてきたんです?」
「ふん、国王の奴が私を嵌めようとしたのでな」
「嵌める、ですか?」
答えてくれるとは思わなかったが、こいつのことを聞きだすチャンスかと思い続ける。
「ああ、お前達は知らぬだろうが、エバーライドを墜としたのは私とバチカル達、十神者によるものだ」
「……凄い、ですね。たったそれだけで?」
「ふふ、そうだ。力があれば国を支配することは可能だが、そればかりでは周辺国、さらには世界を相手どらねばならなくなる。まあ、勝てるのだが、それは些か面倒だ。だからベリアースを隠れ蓑にし、信者を増やしているのだよ」
「私達もそうなりましたが、信者が増えれば国を治めることもできるのでは……?」
一応、口だけはそれっぽいことを言っておく。
「まあ、君のような力を持つものが増えれば可能だろう。だが、それよりも優先してやることがある」
「それは……?」
「……入ったばかりだが、まあいいだろう。私の目的はレフレクシオン王国の王、アルバートを徹底的に貶めること。そのうえで殺す」
「……」
そう言い放ったアポスの表情は狂気に満ち、声には恨みがこもっていた。
そこまでのことをしたというのか? 俺には分からないが、どことなくこいつの言い草は覚えがあるような――
「おっと、すまない。話が逸れてしまったな。……まあ、国を墜とすのはデメリットの方が多い。だが国王、ギルガーデンはどうもイルファン王国を攻めないことに苛立ちを覚えているようでな。私の脛に傷をつけたいのか、ラース君と共にイルファン王国へ行けと来た。だからヤツにも負い目を作ってやろうとラース君に恋している彼女を連れてきたという訳だ」
「な、なるほど……」
ニヤリと笑うアポス。
なんという嫌らしい考えを持つのだろう。
レフレクシオン王国の前王がアポスを追放したことを知っているが、あれもこいつ自身の問題で、今回の件も身勝手な態度で嵌められようとしているのに、と、俺は別の意味で戦慄していた。
だけど、この手合いは小さなことをいつまでも根に持つ。
俺の前世の弟のように、賢いがためにプライドを傷つけられると執拗に攻めてくるのだ。
面倒な相手だが、こいつを倒せば少なくともレフレクシオン王国や俺達に平穏が訪れる。
スキルの正体も知りたいし、もう少し話しておくか――
◆ ◇ ◆
こちらもよろしくお願いいたします!!
二度目の人生も不遇な俺は、再び復讐のため世界を生き抜いていく ~全てを奪われたまま黙っていると思うなよ?~
https://kakuyomu.jp/works/16816700428550342490
魔王軍No.2の俺は目障りな大魔王を倒すため勇者との共闘を決意する ~歴代最弱の女勇者を鍛えていたら人間達にSランク冒険者として認定されたのだが~
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