第五百五十四話 勝率の良い賭け?
――数週間ぶりに見るリューゼやルシエールが元気そうでなによりだと思いながら部屋を見渡す。
イルファン王国へ遠征すると言われた夜、俺は城を抜け出してエバーライドへとやってきた。
一応伝達をしておかないとこのまま待たせることになるのは心苦しいし、いつバレるか分からないからね。
「お前だけか? マキナ達は?」
「怪しまれるから俺だけ来た。用件を伝えたらすぐに戻るつもりだけどね」
「えっちな人が居るって……」
「ああ、そこはロザとリースが部屋に常駐しているから安心だよ」
心配ではあったけど、鍵をかけてドラゴンを置いて来れば抑止になる。
エリュシュ王女が来る可能性もあるけど、キツイ言い方をした後は来ていないからきっと大丈夫だろう。
さて、本題に入る前に最大戦力に話をしておきたいんだけど――
「えっと、ファスさんを呼んできてもらえるかな? ベルナ先生、ティグレ先生の位置はわかる?」
「パパ? 多分外にいるよー」
「え?」
ティリアちゃんが俺の入って来た窓に寄ると、眼下の植木がもぞもぞと動いていた。
「パパ―」
「……おう」
「居たんだ……」
顔だけ突き出したティグレ先生に呆れつつ、引き上げる。
その間にリューゼがファスさん達を呼びに行き、狭い部屋に勢ぞろいする。ルシエール達と知り合いだと思われるのが嫌なので必要最小限の人数にしてある。
「わーい! ラースお兄ちゃん♪」
「はは、元気そうだなセフィロ。ティリアちゃんと仲良くしてるか?」
「うんー!」
久しぶりに甘えん坊なセフィロが抱き着いてきて俺は苦笑する。そこでティグレ先生が俺に声をかけてきた。
「……で、俺達に話ってのはなんだ? 教主はどうなってんだ?」
「うん、それなんだけど――」
俺は入信できたことを伝え、さらにイルファン王国へ遠征をすることを詳しく話す。
「あそことは冷戦状態だ、戦争まではいかないと思うが前線送りみたいなもんだぜ、それに教主もついてくるだと?」
「そんな……。なんでラース君達が?」
「分からない。けど、俺はこれをチャンスだと考えたんだ」
「へえ、チャンスってどういうことだい?」
ファスさんが壁に背を預けて眉を顰めて口を開く。
俺は小さく頷いてから、イルファン王国へ行くのと同時に思いついたことを口にする。
「……あの国の脅威となりうるのは教主アポスと十神者だ。だけどアポスは俺達と一緒に遠征をする。残りはバチカルとエーイーリー以外の悪魔達のみ。そしてその内一人は俺達と来るから残り三人がベリアース王国に残ることになる」
「まさか……!」
「多分ジャックが思っていることと同じだ。俺達が向こうへ行っている間に、こっそり城を制圧して欲しいんだ」
「「!?」」
大胆かつ不遜な作戦。
これが今朝、俺達がイルファン王国行きを告げられた後に考えたことだ。
バチカルとエーイーリーはベリアース王国に残って援護をしてくれるとのこと。……正直なところ裏切られる可能性もあるので作戦としては少々心もとないが、それを試す意味でも行動することにした。
確実に味方をしてくれるヒッツライトとアルバトロスが牽引役になるだろう。
もちろんいざという時の保険は残していくけど。
「というわけで、エバーライドにはルシエールやレオールさん、ヨグス達が残って欲しい。戦闘要員としてジャックとシャルル、ヴィンシュ。それとウルカも」
「ウルカは城制圧の方がいいんじゃないか?」
「いや、いざという時アンデッドを大量に呼び出せるウルカがエバーライドに居た方が混乱を呼べる。国と国の間はさっき言った通りかなり遠いから援軍は簡単に来れない」
「なるほど……オオグレさんも強いしいいかもしれねえな……しかし、城落としか……」
リューゼがごくりと喉を鳴らし、汗をぬぐう。
「もちろん無謀だと思えばやらなくてもいい。ただ、全面戦争じゃなくてあくまでもこっそりだから」
「ま、まあ、そうよね……」
<ふうん、面白いじゃない。わたくしが留守番と言うのは気に入りませんが……>
「ま、派手に暴れる作戦じゃないし、俺達は留守番でいいぜ。にしてもどうやって制圧するんだ?」
「国王を拘束するのが一番早いだろうね。ヒッツライトは本気でクーデターを起こしたいと思っているから、案外簡単かもしれない。福音の降臨というイレギュラーが居なければ上手くいくと考えているよ」
この辺りは急いで話をつけたので、こちらとの連絡相手を向こうへ連れて帰る手はずになっている。
「連絡役で最適なのはファスさんとヴィンシュかな、ヒッツライトの顔も知っているし。ヴィンシュと一緒にベリアースへ一度来てくれ」
「オッケー」
<いいよ、面白くなってきたね。ラース達はいつ発つのかな?>
「二日後だ。エバーライドを通るけど、ここは国境とずれているから立ち寄らない。だから、また顔を合わせるのはいつになるかって感じだ」
「……気を付けてね……マキナちゃんもクーちゃんにも」
「うん」
俺は俺でアポスを倒すために仕掛けるつもりだけどそれは言わないでおく。
問題は十神者だけど、残り四人の能力は微妙に戦闘向きじゃないのでアスモデウスほど苦戦しないと踏んでいる。
「ま、仕方ない。早く行動するに越したことは無いしな。ナル、お前も残っていいからな」
「私も行くわよ。あんただけじゃ危なっかしいし」
「ふん」
「ふふ、二人も気を付けてね。ドラゴンで行くの?」
「ああ、本当に遠いから夜中に出て、次の夜中まで潜伏。そこからヒッツライトと合流して国王たちを押さえる、そんな感じになると思う。もちろん殺さずに、こちらの要求を突きつける」
「……自信がねえな」
「ティグレ」
悪態をつくティグレ先生にベルナ先生が困った顔で肩に手を添えた。
気持ちは分かるけど、そこは我慢して欲しい。
「話は分かった。大胆な作戦を思いついたもんだな……一歩間違えれば死ぬぞ」
「転移魔法陣の紙を渡しておくよ。後はドラゴン達が全力で撤退って感じでお願い。レフレクシオン王国は戦いの準備をしているし、アポスと十神者を止めれば俺達の勝ちだ」
「了解だ。あのクソ国王に借りを返すチャンス、逃さねえ」
ティグレ先生が拳と手のひらを合わせて怖い顔をさらに怖くする。
これで準備は整った……というには急ぎすぎだけど、とにかく時間が無い。【超器用貧乏】でスキルを磨く暇もないが、アポス相手ならなんとかなると、思いたい。
あまりうるさくするのもマズイかと、俺はファスさんとヴィンシュを連れてベリアースへ戻る。
打ち合わせも問題なし。後は出発するだけとなったのだが――
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