第五百五十三話 エバーライドに集合する一行


 露店許可はギルドで貰うことができたのだけど、これが意外と時間がかかった。

 なにを売るのか? 何人でやるのか? 武装しているのか? 外国人にはそういった審査が必要だった。


 で、特にこのエバーライドはベリアースが奪った国なのでクーデターや反対勢力の入国を厳しく審査しているため、到着して三日後にようやく開店することが決まったの。


 「いらっしゃいませー」

 「お、可愛い子だ、仕事が終わったら俺とデートしない?」

 「申し訳ございません、私には恋人がおりますので……」


 「僕の恋人になにか?」


 直後、偽カップルとして演技をしてくれているヨグス君が前に出てくると冒険者の男性は顔を顰めてお金を出して立ち去る。


 「ちぇ、残念」

 「ありがとうございましたー。ヨグス君、ありがとうね」

 「一応、恋人だしね。でも大丈夫そうだったかな」

 

 笑顔でナンパを躱す私にヨグス君が苦笑する。

 こういうのはお店でもあったから返し方は慣れたもの。なので彼の推測は合っているかな?


 「……それにしても、予想より平和な感じがするね」

 「うん。エバーライドの人とベリアースの人の区別がつくのはありがたいけど……」


 お店を開店するまでみんなとあちこち歩いてみたけど、占領国の特権という感じかベリアース王国の兵士たちの態度があまりよくない。

 果物をひったくってお金を払わなかったり、酔った勢いで喧嘩をして因縁をつけられた方が連れて行かれるのだ。


 人は多いけど、ひっそりとした町は半分くらい死んでいると言っていいほどで、活気はあまり良くないと感じていた。


 「ったく、魔物退治なんてやる必要あるのかねえ」

 「ベリアース王国様のためにってか? まったく、この国はどうなっちまうのか……俺達冒険者はまだ待遇がいいけど……」


 「不満の声はやっぱり多いね」

 「……うん。商売もするつもりで来たけど、エバーライドの人たちの仕事を奪っちゃったみたいで心苦しいかも」

 <それはあるかもしれませんが、ここは割り切りましょうルシエール>

 「あ、シャルルさん。ジャック君も」


 私達の仕事は三つ。

 この移動式馬車店舗での売り子、町の散策、冒険者ギルドの情報収集をしているの。

 ローテーションで各カップル、偽カップルで必ず動くので先ほどのようなナンパをしてくる人にも対応ができる。

 レオールさんだけは基本、この馬車に残っているけどね。


 「なにか情報が?」

 「ああ、冒険者ギルドに行ってきたけど、リューゼ達が来たぜ。国境で相当揉めたみたいな話を俺達に聞こえるようにくだまいてた。明日から向こうも色々やるつもりみたいだ」

 「そうか。ファスさん達も居るからこれで荒事にも心強いね。合流予定は計画通り?」

 <ですわね。わたくしたちが泊っている宿はそれとなく紙を渡しておいたので後からチェックインするでしょう。そこで、意気投合……と言う形が好ましいですわね>


 シャルルさんが得意気に笑いながら順調だと暗に言う。

 

 「これで後はラースの動向だけか。こっちに来ると言っていたけど、いつ来るかわかんねえからなあ」

 「まあ、僕達がここまで来るだいたいの日数は分かっていると思うし、気長に待つしかないね。教主とやらを討てば終わると思いたいけど……」

 <サージュが来ればわたくしかヴィンシュが気づきます。とりあえず今は仮初の生活を楽しみましょう。ほら、お客様ですわ>

 「いらっしゃいませー!」


 ということでリューゼ君達が到着したという情報を得た私達。

 昼間の業務をとにかくこなし、持ってきた商品を捌いていく。動きが軽くなればいざという時有利になるからとレオールさんも張り切っていた。

 この辺りは商売人だなあとみんなで苦笑していたりする。


 ――そしてそれから二日後の夜


 「……ふう、お疲れさん」

 「こんばんはリューゼ君、ナルちゃん」

 「おう」

 「こんばんは、ルシエールさんに皆さん」


 私達は宿の部屋にリューゼ君とナルちゃんを招き入れた。

 この二日で冒険者組が調査した情報とのすり合わせのためだ。


 ……聞くところによると、まだ優遇されている冒険者達もフラストレーションが溜まっているらしく、そのうち国を出ていく可能性があるとのこと。

 

 「まあ、優遇っつってもベリアース王国の兵士に睨まれないのと、報酬が高いくらいか。結局その報酬は町の人から徴収した金で支払われるから、高い税金で町の人がきつくなるだけなんだよな」

 「ええ。魔物退治は兵士がやればいい、ということで冒険者が出ていくことを考えているようです」

 

 うーん……それでいいのかな……結局ベリアース王国の兵士さんが魔物退治をし始めたら今度は『守ってやってるんだ』とか言いだして搾取されそうな気がするんだよね……


 「エバーライドの住人は監視をされていてクーデターも難しい。元凶はベリアース王国に居るからな。たとえこの町に居るベリアースの人間を追い出しても、今度は大軍で返り討ちってのが怖くて手を出せないって感じだな」

 <根本的に叩かねばならんということですわね>

 「そう考えるとライド王子とライムはよく生活していたよな……」


 今はレフレクシオン王国で匿われている人を思い出し苦笑する。

 誰も気づいていないみたいだけどあの人は――


 <……! みんな、静かに。サージュが来たみたいだ>

 「え、本当? なら、ラース君も!」


 私の考えごとを打ち消すようにヴィンシュさんが口を開く。

 サージュが来たということはラース君も居るはず。

 しばらく待っていると窓を叩く音が聞こえ、私達はそちらを見る。


 「みんな、久しぶり」

 「ラース!」

 「ラース君!」


 そこには笑顔のラース君が居た。

 レビテーションで空を飛んでいるようで、サージュも掴まっていた。すぐに窓を開けて中に入れると、一息ついたラース君は立ったまま口を開いた。


 「いやあ、結構遠かったよ。サージュが真面目に飛んで一時間くらいかかった」

 <流石に隣の国というところだな。それより、ちゃんと合流したようだな>

 「うん。ファスさん達も違う部屋に泊っているよ。そっちはどう?」


 私がラース君に飲み物を渡しながら尋ねると、難しい顔をし、私達を見渡した後に言う。


 「……ちょっと面倒なことになってね。イルファン王国へ遠征することになった」

 「え? そ、それはどうして?」

 「それは――」


 ラース君が話し始めた内容はとても……そう、とても衝撃的な内容だった――

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