第五百五十二話 エバーライドとルシエール


 「行商人か、なかなか珍しい馬車だな」

 「ええ、特注でして。遠くから積み荷を運ぶには盗賊と魔物両方に対処しないといけませんので。通っても?」

 「ああ、構わん。ここはエバーライドだが、ベリアース王国が支配している。実質第二のベリアース。だが……本国に戻れない人間も多くストレスが溜まっている者も多い。珍しいものがあれば気を引けるはずだ」

 「ありがとうございます。儲けさせてもらいますね」


 御者台から下に居る兵士さんに笑いかけるレオールさんの様子を黙って聞きながら愛想笑いを浮かべる私。

 あっさりと入り口を通過して

 

 「とりあえずこれで懐にはいれたわねぇ。長旅だったから疲れたでしょティリアも」

 「面白かったよ! アイナちゃんとトリム君も一緒だと良かったのに」

 「あはは、流石にそれはねえ。でもオオグレさんを見て驚かないのは偉かったよ」


 エバーライド城下町へ馬車を進ませていると後ろからヨグス君やベルナ先生の楽しそうな声が聞こえてくる。

 ……すごいなあ、ヨグス君も冒険者として活躍しているって言うし、この中で私だけ戦いというものに縁がなく過ごしてきたから敵地の中で笑えるのは素直に驚いてしまう。

 学院では剣も魔法もやっていたし、お姉ちゃんが攫われた時に危ない目に合ったけど今回の遠征は比べ物にならないんだよね……。


 ラース君の役に立ちたいのとガストの町をめちゃめちゃにした国に一泡吹かせたいという理由でここまで来たけど、場違いかなって気もする。


 <どうしたんですのルシエール?>

 「あ、シャルルさん」

 <ボーっとしてましてよ? レオールさん、ルシエールが疲れているみたいです、早く宿へ行きましょう>

 「そうだね。でもここまで魔物の相手をしてくれたからとても助かった。通常の行商でも欲しい護衛だよ。あ、ルシエールさんは荷台で休んでていいよ」

 「ありがとうございます、レオールさん。そうそう、凄かったですよね、シャルルさんとヴィンシュさん」


 私は御者台から荷台の方に移動し輪に加わる。とりあえず後はレオールさんだけで宿に


 「まあ、正体はアレだからなあ」

 <アレとはなんですか!>

 「まあまあ」


 ジャック君が濁すのをシャルルさんが怒り、私は苦笑する。

 ヴィンシュさんとシャルルさんはドラゴンだから、知られるわけにはいかないのでそれも仕方ない。

 

 「二人とも仲いいよね、羨ましいな」

 <ジャックはぶっきらぼうに見えて優しいですもの>

 「一言多いんだよ……ルシエールはやっぱりまだラースのことを?」

 「えーっと……あはは……」


 未練がましい女だと思われるかもしれないけど、やっぱりまだラース君が好きなんだよね。

 初めて会った時にリューゼ君から助けてもらい、レッツェルさん、誘拐犯……ラース君には助けられてばかりで頭が上がらない。

 それと同時に恋心が膨らんでいくのは仕方がないことだと思う。


 だってかっこいいんだもん……


 「そういえばクーちゃんもラース君が好きなのよねぇ」

 「うん。クーデリカもまだ好きみたいだし、ちゃっかりしているよ。まあ、真面目なラースが曲げるとは思えないけど……」


 ヨグス君が困った顔で笑い、肩を竦める。

 そうなんだよね。貴族だから多妻でもいいし、三人とも娶って欲しい……


 <新しい恋というのを探すんだよね。人間は寿命が短いから、どんどん次に行くって>

 「言い方はアレだけど、ヴィンシュの言うことも一理あるかなあ。僕みたいに勉強ばかりしている人間はもしいい人が居たら掴まえておかないといけないくらい。だからラースは羨ましいよ」

 「意外な発言だ。そういやリューゼもウルカも彼女がいるからお前だけいねえな!」


 ジャック君が笑いながらヨグス君の背中を叩き、ヨグス君が顔を顰める。

 彼も顔は凛々しいので、出会いがあればすぐにできそうな気がするんだけどな?


 <まあ、出会いはいつ起こるかわかりませんからヨグスさんも諦めないで欲しいですわね。どちらかと言えば今はルシエール、あなたですわ>

 「え? え?」

 <あなたはもっと積極的に行くべきです。ラースとマキナが相思相愛なのは分かりますが、クーデリカくらい節操なく食い下がりましょう!>

 「う、うーん、どうだろう……ラース君あれで結構頑固なんだよ?」

 <それは分かります。ですが、彼は甘いところもあります。押し切れば頭を縦に振るかもしれないですわ>


 暴論だ、とも思っていると……


 「それはあるかもしれないわねぇ。家に押しかけたら困るかもしれないけど、断れないだろうしねぇ」

 「ラース兄ちゃんは優しいよ!」


 ティリアちゃんが興奮気味に両手を上げ、続けてジャック君がニヤリと笑って口を開く。


 「転移魔法陣もあるし、これが終わったらやってみようぜ? ああ、先にマキナを説得か……?」

 「も、もう、止めてよ! レオールさん宿はまだですか!?」

 「ははは、ごめんよ、初めての町で道がわからないんだ」


 みんな好き勝手言うんだから……

 はあ、でもクーちゃんは羨ましいなあ。私も向こうが良かったけど、派手な戦闘になった場合本当に足手まといになる。こっちはこっちで頑張らなくっちゃね!


 そんな調子で敵地の中なのに緊張感の無い会話をしながら進んでいく私達は、宿で久しぶりのベッドを使ってゆっくり休んだ。


 そして翌日から情報収集のため行商を開始する――







◆ ◇ ◆


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