第五百五十一話 駆け引きの行方
「レッツェル様がお見えになられました」
「入れ」
国王……ギルガーデンというらしい。
話を聞くため謁見の間へ入っていくと、レッツェルが膝をつき、俺達もそれに倣う。
「連れてきました」
「ご苦労だったなレッツェル。話というのは他でもない、そこに居る福音の降臨に入信した者達に依頼だ。お前達にはイルファン王国との国境付近で展開している部隊の救援に行ってもらいたい」
話としては先ほどレッツェルが言ったことの繰り返しなのでそこはいい。
問題はなぜ俺達を使うか、だ。
「どうして我々のような新人にそのような重要な役割を?」
国境付近ということは当然隣の国と行き来を監視している。そしてベリアース王国はあちこちの国にちょっかいを出していると聞いたことがある。
となると、戦闘が発生する可能性が高い場所だ。
もちろん兵士がいるので戦うことはほとんどないと思うが、急な新人をつけると現場が混乱するというのは会社などでよくあることなので理解ができない。
「重要だからこそ、だ。ラース君と言ったね? 君が私に見せた魔法はとても強力だからだ。君達に行ってもらいたいイルファン王国とは緊迫していて、いつ戦いになるか分からない。現状、援護に回るなら能力が高い人間が好ましい」
「うむ。アポス殿に聞いたが凄まじい魔法を持っているようだな? 我が国の兵士を守るためお願いする。これは強制だ」
「受け入れられない場合は?」
「その時はこの国の奴隷として拘束させてもらう。レフレクシオンの人間をみすみす返すわけにはいかないからな?」
……疑いは持っているということか。魔法で牽制したつもりだが、それを逆手に取るつもりだな?
さて、どうするか? 別に行くこと自体は構わないけど、アポスから目を切ることになるのが面白くない。
バチカル達の動向が分からないのでなおのことだ。
かと言って戦力を分散させるのも――
<それは全員か? 我とロザだけで向かうことは難しいか?>
俺が色々と考えているとサージュが口を開く。
あまり考えたくない戦力の分散。それを口にした。
「……それはできんな。いや、正確には構わないがラース君には国境付近へ行ってもらいたい。君達はどれほどの強さがあるか分からないしな。女達が心配なら置いて行ってもいいが?」
<むう>
「いいさ、サージュ。承知しました、私達は国境へ向かいましょう。全員で。レッツェル殿やバチカル様は着いて来てくれるのでしょうか?」
「そこは安心したまえ、私が行こう。レッツェルとバチカルはこの国の防衛に回す」
「「!?」」
目を細めて驚愕のことを言い出すアポスに俺達は息を飲む。
まさか教主自らそんなことを言うとは……一体なにを考えている? バチカルに聞いてみたいがどこに居るのやら。
「私の他に、十神者も連れて行く。話は以上だ、出発日は追って説明する。後は現地で説明する。以上だ」
それだけ言われてさっさと追い出され、俺達は急いで町の広場へ集まる。
「……思ったより早かったかな?」
<このままなにも無いよりは良かったのではないか? それより本当に行くのか?>
「行かない訳にもってところかな。まあ、戦闘は回避するよう努めるけど、アポスが一緒に来るのが気になる」
「私達のことバレちゃったのかなあ」
「迂闊なこと言わないのクーデリカ。バレてはいない。けど、測りかねているのは確かね」
マキナの言う通り、アポスが俺達という人材を訝しんでいるのは間違いない。
まあ、そのために国王の言葉に逆らったり、ドラゴニックブレイズで脅しをかけて『動く』ように仕向けたのだから。
福音の降臨に入信、というだけではアポスの正体は見えない。特に戦闘能力においては。
なので、あいつの言うことを否定し、俺はこれくらいできるのだとあえて見せてやった。
プライドは高いと聞いていたから、黙ってはいないだろうなという意図があったしね。
「とりあえずバチカルと話をしたいんだよな。十神者がついてくるらしいけど……」
「くおーん」
「くすぐったいよアッシュ。レッツェル、リースでもいい。なんとかコンタクト取れないか」
「バチカルさん達のある部屋はアポスと十神者しか入れません。向こうから来るのを待つしかないでしょうね」
あの塔で居住している訳じゃないらしい。意外とセキュリティはしっかりしているようだ。
「場所が分かればインビジブルで行くんだけど」
「今は止めておいた方がいいよ、むしろ十神者を一人しか連れて行かないなら遠征先でアポスをやるチャンスかもしれないし」
リースが首を掻っ切る仕草をしながら眼鏡を光らせる。
俺はため息を吐きながら、仕方ないと首を振る。
すると――
『すまない、やっと外に出ることができた』
「きゃぁぁぁぁぁ!? で、出たぁぁぁぁぁぁ!!」
『ふぐ……! やるな、いい拳だ』
――いきなり木の上かぶら下がるようにバチカルが出てきて場が騒然とする。そしてその直後ゴーストだと勘違いしたマキナにいいのを貰っていた。
「嫌な出方をするなよ……」
『すまない、あまり姿を出すわけにはいかなくてな。お前達がイルファン王国へ行くと聞いて追いかけてきたのだ』
「話が早いね。どの十神者がついてくるか教えてくれるのかな?」
『うむ。キムラヌートという者だ』
「……物質主義、か」
『やはり知るか、ラース。やつは掴まらなかった……話をしたかったのだが、間に合いそうにない』
<お前もすらも警戒していると?>
ロザの言葉に頷くバチカルは続ける。
『やはり引っかかるのはガストの町を制圧せずに帰ってきたところだろう。とりあえずそこの警戒を解くためお前達との接触を避けることにする』
「ああ、それがいいだろうね」
『重要な情報が無くてすまないな、健闘を祈る。良かったらその子グマは預かるが?』
「いいよ、連れて行っても困らないからな」
「くおーん♪」
『そうか……』
「なんで残念そうなんだろう……後、鼻血を拭いた方がいいと思うんだけど……」
『そうだな、では、また会おう』
それだけ言って引っ込むバチカル。
あんなにコミカルな奴だったとはちょっと驚いた。動物好きなのだろうか?
<流されるまま、か。ただ、アポスを外に連れ出せたのは大きいかもしれんな>
「うん。そろそろリューゼ達もエバーライドに到着しているころだろうから、会いに行きたかったけど、どうするかな?」
「今夜抜け出してみる?」
「そうだな……」
エバーライドとの距離を掴むため、一度向かってみるか――
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