第五百四十九話 戦略調査


 さて、エリュシュ王女を振り切った俺達は町中へと繰り出していく。

 まあ、家屋の違いはあれど、住人などはそれほどレフレクシオンと変わらない。

 サンディオラのような気候環境が明らかに違うような地域ではないのでそれはそんなものだろう。


 「あ、屋台があるわよ」

 「本当だ。広場にあるのは珍しいな、串焼きに焼きたてパンか、いい匂いがするな」

 「朝食は食べたけど、パンは美味しそうだよ! 串焼きは……ラース君の料理の方が美味しいからいいかな」

 <違いないな>

 「もうラースの料理がないと満足できないもの。バスレー先生はもう中毒だし」


 マキナとクーデリカが嬉しいことを言ってくれたので、俺は財布からお金を出して焼きたてパンの屋台へ向かう。


 「すみません、七つください」

 「いらっしゃいませ! パパ、朝から七つだって!」

 「こら、はしゃぐな。すみませんね、娘が。一つ60セルスだよ」

 「あ……」


 しまった、意気揚々と買いに来たものの通貨が違うことを知らされる。

 サンディオラの時は直前で換金していたけど、今回は忘れていたな……


 「僕が出しましょう。500セルスです、お釣りは取っておいてください」


 そこでスッと横からレッツェルが出てきてお金を出してくれる。

 すると屋台の親父さんがびっくりした顔で口を開く。


 「おや、レッツェル様ではありませんか、お戻りになられていたのですね」

 「ええ、この方々を連れてきたのです。しばらくここに居るので、またよろしくお願いしますよ」

 「わーい、レッツェル様ー! はい、お兄ちゃんクロケの実のパンだよ」

 「ありがとう。また来るよ」

 「うん!」


 マキナ達の下へ戻り、パンを配って再び歩き出す。


 「ありがとうレッツェル。すっかり忘れていたよお金……」

 「構いませんよ、パンくらい。あの親子はいつも朝と夕方にパンを売っているんです。この朝はパンしかないんですが僕は結構好きでしてね」

 「ふうん、レッツェルさんって冷徹な感じするけどこういうのは好きなんですね」

 <ふん、頭がおかしいだけだぞマキナ。下手をしたらラースと我が出会わなかった未来もあるのだぞ? >

 「あ、そこは根に持ってるんだ」

 <それはそうだろうクーデリカ。今までの行動を聞いている限り、ここにこうして私達が集まっているのは、ほぼラースのおかげと言ってもいい>


 さっきからむずかゆいな……


 「まあ、あの時俺がレッツェルに負けていたら父さん達も兄さんも貧乏なままで町を出ていたかもしれないしなあ……思えば確かに俺の無茶で状況が好転したこともあるな」

 <我は直接的感覚としてはノーラやデダイトもだが、その二人もラースが居なければどうなっていたかわからないだろう? ベルナもな>

 「学院にラースが居なかったら聖騎士部のまま騎士になっていたのかな、私」

 「対抗戦が全然楽しく無さそうだよねー」

 「恐らくボクのクラスがトップだったに違いない」

 「ずるいもんねリースちゃん」


 そんな俺が居なかったらというif話をしながらクロケの実パンを食べ歩く。

 

 ギルド、商店、居住区といった場所をレッツェルの案内で回ること数時間。

 街並みというものが頭に入って来る。


 一番いいと思ったのは居住区で、正門から北西に家が固まっていて、城から比較的遠い場所に存在する。もちろんその限りでない家もたくさんあるけどいざ戦闘になった場合、被害は抑えられるはずだ。

 

 正直な話、国王をさっさと抑えるのが一番早い気がするな、やっぱり。

 ただし現時点でお問題点は二つ。

 残りの悪魔がこちらの味方になるかどうか。

 もう一つはアポスの力が未知数であること。


 ドラゴニックブレイズを防ぐような相手ならリューゼ達が来る前に戦いの狼煙は上げられない。


 「……バチカル次第か」

 「別行動にさせられた理由はやっぱり警戒しているからかしらね」

 「だと思う。バチカルとエーイーリーならガストの町を占拠するくらいはおかしくないし、逃げ帰ったという部分に疑問があるんだと思う」

 「そこでしょうね。ただ、僕が失敗しているという前提があるのでそこを上手く伝えるのではないかと思います。あの時放ったラース君のドラゴニックブレイズは先ほど教主様に放ったものより強力でしたから、復活に時間を要したんですよ」

 「そうなのか……」


 ん? 待て、今おかしなことを言わなかったか?


 「あの時の方が強かっただって? 十歳だったんだから、今の方が修行しているしそんなはずは……」

 「いえ、あの時放ったものは威力が相当でした。僕はあれから数か月復帰できませんでしたからね」

 「ええー……?」


 嘘を吐くメリットはないから多分本当なんだろうけど、そんなことあるだろうか? となると超器用貧乏がなんらかの作用を起こしている? 今度レガーロに聞いてみるか……


 <む、ここまでか。空からの攻撃は想定していないな、我とロザが強襲すれば城は簡単に落とせそうだが>


 ぐるっと一周したところでサージュが冷静に判断を下す。

 空の魔物が襲ってくることが無いのか、城壁に人の姿は見えない。そもそもドラゴン相手を想定している人間は居ないだろうからこの国が悪いわけではない。

 戦力はヒッツライトさんがトップだし、だいたい分かる。さすがに全員を相手にするわけにはいかないし、直前でヒッツライトさんが別の場所へ先導してくれるらしい。


 さっきの女の子と親父さんみたいに、普通に生活している人もいるから巻き込みたくはないよな。

 こんなことをしなければいいとも思うけど、根は断ち切らなければならない。


 「後はもう少し慣れたら城を散策だな」

 「エリュシュ王女を惚れさせて味方につけた方がいいと思いますけどね」

 「うーん……」

 「だ、大丈夫だよマキナ、そんなに険しい顔しなくても……」


 という訳で、信用を得る必要はあるだろうとレッツェルは国王になにか依頼を聞いてみるそうだ。

 だけど、予想外の言葉に俺達はおろか、レッツェルも驚く事態になる。








◆ ◇ ◆


こちらもよろしくお願いいたします!!

二度目の人生も不遇な俺は、再び復讐のため世界を生き抜いていく ~全てを奪われたまま黙っていると思うなよ?~

https://kakuyomu.jp/works/16816700428550342490


魔王軍No.2の俺は目障りな大魔王を倒すため勇者との共闘を決意する ~歴代最弱の女勇者を鍛えていたら人間達にSランク冒険者として認定されたのだが~

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