第五百四十八話 覚悟を持って断ち切る
塔から降りて地上へ。
マンションのような形状をした信者の家を眺めながら俺は一言呟く。
「……それにしても人が見えないな、この区画」
「くおーん」
「そうですね、信者は殆どこの住宅に引きこもっているか勧誘のため外に出ているので」
「そういえばクーデリカは勧誘を見たのよね、どうだった?」
「えーっとね、なんかローブを着た人が町の広場で声をかけてかな。で、ボランティアだって言いながら困っている人を助けていたかな? それで信用を得ようとしたって感じ?」
「まあ、基本的な信者の特徴ですね」
レッツェルは十神者や幹部クラスでない信者は雑用が多いと言う。
さっきの薬で洗脳を濃くすれば制御しやすいとかで、時期によって変わってくるのだそうだ。
グラスコ領主の妻だったソニアや冒険者として活動していたオリオラ領で捕縛したケルブレムといった信者も薬は飲んでいるらしい。
ただ、遠方での活動なので徐々に効果が切れるのは否めないらしい。
「プラス、逃げられないため刺青か」
「覚えていましたか、洗脳度が高い人間には施さないのですが、遠征する人間にはやります」
「お前は?」
「僕はほら、不死身ですから」
<むう、一度逆らったことでもあるのか?>
レッツェルがシャツをめくりあげると、心臓の部分に大きな傷跡があり、サージュが冷静に質問をする。
「まあ、私が死なないということを証明するためにですね。イルミとリースはあくまで僕の仲間ということを主張しているので刺青はありません」
「チッ、先に言ったら面白くないだろレッツェル」
「お尻を見せたら引っぱたくわよ?」
「お、おう、やるか……!」
マキナが笑顔で指を鳴らすと、リースは腰が引けた状態でボクシングのようにパンチを出して威嚇する。
そんな調子で城へ入り、そのまま町へと繰り出そうと正門に向かう
昨日の夜の出来事から嫌な予感がしたけど、それが当たって俺は顔を顰める。
門の近くにはエリュシュが立っていて、俺達に手を振っていたからだ。
<王女のようだな、随分笑顔だが>
「昨日の夜ちょっとね……マキナ、クーデリカ、喧嘩は避けてくれよ」
「分かってるわ、昨日は……ちょっと……ごめんなさい……」
「スカっとしたけどね」
そこでアルバトロスが立ち止まった。
「それじゃ俺はここで戻るぜ、ヒッツライトの旦那と話があるからな」
「ん、ありがとうアルバトロス」
「町はレッツェルとリースに任せるぜ」
踵を返して手を上げて立ち去るアルバトロス。交代するかのようにエリュシュがこちらへやってきた。
「ごきげんよう皆さま。サージュ様とロザ様は夕食以来ですわね」
<ごきげんよう姫様。どうされましたか? 私達は町へ行くのですが>
「そうでしょうそうでしょう。そこでわたくしも連れて行っていただきたいのです」
「いや、王女様が平民と歩いているのはマズイですよ?」
珍しくリースが肩を竦めていいことを言ってくれ、俺は感心する。
しかし敵も手ごわく、諦めが悪いようだ。
「福音の降臨に入信されたのでしょう? でしたら、お客人です。何の問題もありませんわ」
「でも……」
「大丈夫ですから! くまちゃんも!」
「く、くおーん……」
これは手ごわい……甘やかされて育つとこうなるのだろうか?
アイナも我儘に育たないようにしないといけないかと思いつつ、俺はわざとため息を吐いてから、マキナの腕を掴んで引っ張るエリュシュの前に出る。
「エリュシュ王女、申し訳ありませんが私達は福音の降臨です。王女様がお客と言っていただけることは光栄ですが、なにかあってからでは遅いですし責任が取れませんので、ここはお引き取りください」
「ラ、ラース様……」
「私達に好意を持ってくれることはとても嬉しいですが、時と場合、それと立場を考えてください。行こう、みんな」
「くっく……ラース君は手厳しいですよ王女。今回は諦めた方がよろしいかと」
「レッツェル様……」
あまりの言い草に呆然とするエリュシュを置いて俺達は正門をくぐる。アッシュを抱いたクーデリカがチラリと後ろを振り返って口を開く。
「まだ立っているよ、なんかちょっと可哀想だったかも」
「いいんだよクーデリカ。あんまり一緒に居られたら話もできないだろ?」
「あ、そっか」
<これで敵意を剥きだしてくるようならそれはそれということか>
「ああ、むしろ今後を考えるとそれくらいがちょうどいいんだけどね」
「まあ、ラース君の対応でいいと思いますよ。国王や王妃になにか言われれば城から出てもいいでしょうしね。では、中央広場から見ていきましょうか」
レッツェルが先頭に立って俺達を誘導し始める。
城は町のほぼ中央に存在し、周辺を深い堀で囲っており正門以外からの侵入は難しいみたいだな。俺なら空を飛べるけど、通常の兵士や騎士は待ち構えている城へ突入しなければならないので犠牲はついてくるだろうな。
正門に続く道も跳ね橋なので、さらに要塞がかるはず。
逆にいえば懐……城に反逆者が居て、それがティグレ先生ファスさんのような達人の場合逃げ道を自ら塞ぐ形になる。
「……使えるかな?」
「どうしたのラース?」
「いや、また後で話すよ。ここが広場か、綺麗だなガストの町ほどじゃないけど」
さて、町の散策スタートだ。
とりあえずルシエールとリューゼ達が来るまでに出来る限りはするかな。エバーライドにも行ってみたいけど――
◆ ◇ ◆
<正門前>
「ふ、ふふふ……おーっほっほっほ!」
「うわ、びっくりした!? 姫様、いきなり横で笑わんでください」
ラースが去った後、立ち尽くしていたエリュシュが不意に高笑いを始め、近くにいた門番があくびを止めて飛び上がる。
「あら、これは失礼」
「それにしても生意気なヤツでしたね。福音の降臨の連中はいけ好かないんですが、あいつも……痛っ!?」
「ラース様の悪口は許しませんわよ。今までわたくしを窘める者などいませんでした……しかし、ラース様は毅然とした態度で『空気を読め』と……面白い……面白いですわ」
「あらら、姫様って逆に火が付くタイプだったのか。陛下が黙っていませんぜ」
「大丈夫ですわ。……さて、あの二人を取り込むか排除するか……決めなくてはいけませんわねえ」
――――――――――――
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魔王軍No.2の俺は目障りな大魔王を倒すため勇者との共闘を決意する ~歴代最弱の女勇者を鍛えていたら人間達にSランク冒険者として認定されたのだが~
https://kakuyomu.jp/works/16816700426704207344
二度目の人生も不遇な俺は、再び復讐のため世界を生き抜いていく ~全てを奪われたまま黙っていると思うなよ?~
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