第五百四十七話 出方を伺うラース
「さて、信者になりたいということだったな」
「はい。バチカル様の強さに憧れました。アポス様も強いと聞いております」
「ふふ、正直だな? いや、あの強さを持っていれば謙遜か? ……良かろう、入信を認めてやろうじゃないか。ただし、条件がある」
「なんでしょうか?」
ソファに座り、開口一番入信を認めると言ってくれたアポス。だが、不穏な空気を醸し出すような言葉を発する。
「そちらの女性達は私の側近になってもらいたい」
「ええと、それはお断りします」
「な……!? そ、それでは入信できないぞ」
あっさりと断った俺に焦るアポス。どれほどの力があるか分からないが、本質的にはベリアース国王と変わらないような気がする。
「俺は仲間であり、恋人である彼女達を傍から離す気はありません」
<うむ、我もロザを渡すのは不本意だ>
「そういう条件をつけるのであれば、俺達はバチカル様と個人的につながりを持っておけばいつか復讐できましょう。それでは。行こう、マキナ、クーデリカ」
「うん」
「そうだねー。教主サマって意外と余裕ない感じー?」
さて、クーデリカの煽りがいい味を出しているが、どう出る? レッツェルとリースは静観を決め込んでいるので助け船は出さないつもりらしい。
「……チッ、いいだろう。お前達の入信を認める。ただし、教主である私の言葉は絶対だということは覚えておけよ」
「分かりました、ありがとうございます。レッツェル殿とリース殿は入信しないと活動内容を教えて貰えないと聞いています。そのあたりのご説明は?」
「もちろんしてやる。今後のこともあるしな……その前にこれを飲んでもらおう」
そう言って錠剤を差し出すアポス。
俺達はそれを受け取り、手のひらに乗せるとアポスは言う。
「これが忠誠の証だ、信者になるというのだそれくらいはできるだろう?」
「……」
「どうした? ……まさか私を謀っているのではないだろうな? いや、バチカル達がそれをさせんか?」
「(ラース、これ……)」
「(分かっている)」
マキナの声に渡された錠剤の正体はレッツェルに聞いていて、こっちの世界では馴染みがないけどどうやら『麻薬』の類らしい。
薬草知識のあるブラオが利用されていたのはこの部分もあるらしく、ケシの実で作られているらしい。
……俺の居た世界でもあったがアヘンやヘロインといった類のものだ。
レッツェル達にそこまでの知識は無いので『やばい薬』という共通認識程度。そもそも作る工程は結構面倒だったはず。
で、信者になればこの薬を飲まされ、徐々に量を増やしていくことにより依存症になり、奴隷化ができるという話らしい。
リース曰く――
「ボクが開発しそうだけど、あれはアポスが作ったものだ。ただの実から幻覚や依存度の高い薬を作れるとはね?」
と、怪しい発言をしていた。
さて、もちろんこんなものを言われたまま飲むわけにもいかない。
「俺から飲むよ。……ん」
と、いうフリをして俺は錠剤をポケットに転移させる。こういう時に覚えておいて良かったと感じるな、ありがとう師匠。
「ほら、みんなも」
「……うん」
<よし>
<これが忠誠の証というのであれば飲むとしようか>
サージュとロザはそういうのが効かないらしいのでそのまま飲ませ、俺はマキナとクーデリカが口に入れる瞬間、転移させて俺のポケットに入れる。
「……フフフ、よろしい……今日から君たちは福音の降臨のメンバーだ。では、活動について話しをしようか?」
さて、この笑みは俺の魔法に気づいたか、泳がせておくつもりか。
結果はまだ先になりそうだが、ひとまず難関をひとつ越えたと胸中で微笑む俺だった。
「さて、福音の降臨の活動内容としては様々あるが……まずは信者を増やすことだな。そして……レフレクシオンの領地を獲得すること。上手く取り入るか、伴侶になるよう仕向けるのだ」
オリオラ領などを占領しようとしたことだ、と俺は黙って聞く。実際いくつか潰してはいるが、あのままだったら結構面倒なことになっていたのは今だからこそ思う。
「それで周りを落としてからレフレクシオンを落とす、ということですね?」
「そうだ。だから強者を引き入れることが特に重要でな、女は特に必要なのだよ。今のところレッツェル達のおかげで領地が取れていないのが現状だが、な?」
「申し訳ございません、教主様」
悪びれた様子もなく言い放つレッツェルに目を細めるアポス。そこでサージュが手を上げて質問を投げかけた。
<しかし、バチカル殿やベリアース王国という後ろ盾があるのに、どうして回りくどいことを? 失礼ながら、歳を召されているようだ、もっと直接的にやれば良いのではと思うのだが>
「ふん、それは耳が痛いことだ。しかし、これは意地だ。私を排除した者達に思い知らせるにはあの国を……城だけ孤立するくらいに追い詰めねば気が済まない」
「憎んでおられるのですか?」
「……喋りすぎたな。そういうわけで、勧誘とレフレクシオンに対しての仕掛けが主な任務。それと――」
俺を見て、続ける。
「――傭兵だな。バチカルがガストの町へ救援に行ったように、ベリアース王国のために戦いに参加する必要がある。ただ後ろ盾をしてもらうだけでは信用も得られんからな」
「なるほど。そのための強者でもあるんですね」
「力なら任せてよ! ……えい! えへへ」
「……!?」
クーデリカがあらかじめ用意していたダガーを人差し指で曲げると、アポスが目を見開いて驚いていた。
手を出したらこうなるという牽制も込めていたが効果はあったようだ。
「……頼もしいな、これなら――」
<なんだ?>
「いや、話はこれくらいにしておこう。また必要な時に呼ぶ。レッツェル、リース、頼むぞ」
「ええ、心得ていますよ」
「ラース君は任せておけ!」
アポスは終わりだと俺達に退室を命じたので出て行き、階段を降りながら俺は深呼吸をする。
「ふう……とりあえずいったん終わりだね」
<もうあいつにドラゴニックブレイズを撃ちこんで良かったんじゃないのか?>
「それも考えたけど、俺の魔法が出来上がる瞬間、あいつもなにか右手に魔力を集中していた。カウンターだった場合危険だと判断した」
俺が首だけ振り返って言うと、マキナが小さく頷いていた。
「なるほどね。無茶はできないし、色々話を聞いておきたいものね。後はこれでどう出るか、か」
「うん。とりあえずこれからどうする、レッツェル」
「そうですねえ。町にでも繰り出しますか、地図を頭に作っておいた方がなにかと便利でしょう」
「そうだね、ご飯足りなかったし……」
顔を真っ赤にするクーデリカに苦笑しつつ俺達は町へ向かうことに。しかし、そこに――
◆ ◇ ◆
こちらもよろしくお願いいたします!!
二度目の人生も不遇な俺は、再び復讐のため世界を生き抜いていく ~全てを奪われたまま黙っていると思うなよ?~
https://kakuyomu.jp/works/16816700428550342490
魔王軍No.2の俺は目障りな大魔王を倒すため勇者との共闘を決意する ~歴代最弱の女勇者を鍛えていたら人間達にSランク冒険者として認定されたのだが~
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