第五百四十六話 忘れものとアポス
朝食をさっさと済ませて、アルバトロスの先導で廊下を進む俺達。
「教主サマや福音の降臨の信者は別の建物になるから一度外に出るぞ」
「オッケー」
「そういえばアッシュはどうするの?」
「え? あ、そういえばアッシュどうしたんだっけ……?」
ふとマキナにそう言われて、そういえば愛らしい子グマの姿が見えないことに今更ながら気づく。
「謁見が終わったら迎えに行くってレッツェルさんがメイドさんに預けてたよね」
「ああ、そうでしたね。ラース君が倒れたのですっかり忘れてましたよ」
そうだ! 頭痛と怒涛のイベントの連続で忘れていたけど、首輪をつけて入り口に置いて来たんだった!
「さ、先にアッシュを迎えに行くよ!」
<下手に動けなかったから仕方ない、アッシュも許してくれるだろう>
マキナもクーデリカも俺に付きっきりで、食事などに行ったため回収する余裕が無かったから確かにそうなのだが、餌も与えていないだろうしあの寂しがり屋がしょんぼりしている姿を思い起こすと辛い。
早足で入り口まで迎えに行くとそこには――
「このクマお利口さんよね」
「よく躾けられているわ、可愛い~」
「くおん、くおーん♪」
「ほら、これもお食べ」
「くおーん!」
――メイド達が群がり、めちゃくちゃ可愛がられていた。
「アッシュ!」
「くおーーん!」
「元気そうで良かったわ」
俺が声をかけるとがしゃがしゃと檻を揺らして喜ぶアッシュ。
預かった鍵で檻を開けると尻尾を揺らしながら、メイドさんには目もくれず飛び込んできた。
「くおーん♪」
「ごめんな、ちょっと俺の具合が悪くなって来れなかった」
「くおん!」
大丈夫と言わんばかりに吠えた後に俺の顔を舌で舐めてきたので、とてもくすぐったい。
そこへメイドさん達が声をかけてくる。
「あ、ご主人様ですか?」
「ええ、すみません。食べ物を分けていただいたみたいで」
「いいえ、とても可愛かったので大丈夫です! その、撫でてもいいですか?」
「どうぞ」
「「やった!」」
メイドさん達がわしゃわしゃと差し出したアッシュを撫で回し、なぜか誇らしげな顔をしているアッシュであった。
「それじゃ行くぞー」
「あ、ごめん。行こうか」
「わたしが預かるよー」
「くおん」
クーデリカにアッシュを手渡すと、クーデリカはアッシュのぴこぴこと振ってメイドさん達に別れを告げる。
「ばいばーい!」
「またねー」
「飼っているのはあの男の子かな? カッコよかったね」
「む」
「む」
「ほらほら、行くよ」
<くっく……忙しいねえマキナとクーデリカも」
振り返る二人の腕を引いて先を急ぐのをロザがからかってきて、二人は頬を赤くして大人しくついてきた。
「まあ、若いというのはいいこと、ということで」
「100歳越えている人間の言うことは重いな」
後ろをついてくるリースがやれやれと肩を竦めながらそんなことを言う。レッツェルは歳の割にはって感じもするけどな。
アッシュを回収した後はもう一度城の中へ入り、中央から左右に分かれている建物の内、東側の方へと歩き出す。
一応、攻められた時の緩和としてホールには一枚大きな壁が設置されていて突き進むのが難しくなるよう工夫していた。戦争を仕掛けるくらいだからその他にも階段の折り返しが多かったりと、防御面はよく考えている。
そこから裏にある壁に囲まれて隔離された区画に出ると、大きなマンションかアパートのような家屋と、塔が建っているのが見えた。
「……さ、ここからが福音の降臨の敷地だ。城の人間はメイドでも滅多に入らなくて、そっちの扉から直接町に出られるようになっている」
<迷路のようになっているのだな>
「そういうこった。教主サマは塔のてっぺんだ、急ぐぞ」
アルバトロスが表情を強張らせながらそう言うと前へ出る。
俺達はいよいよかと、お互い頷いてから塔を上っていき、三階建てのビル程度の高さに来たところでアポスの部屋へと辿り着いた。
「アポス殿、連れてきましたぜ」
「……入れ。ご苦労だったな、アルバトロスは下がっていいぞ」
アポスの声が中から聞こえ、アルバトロスはここまでだと言い放つ。当のアルバトロスは踵を返してから、俺達へ言う。
「俺はここまでらしい、後はレッツェルに任せるぜ」
「ええ、承知しています」
「ありがとうアルバトロス」
「ふん、礼を言われるようなこっちゃねえ。……気をつけろよ」
アルバトロスが階段を降りていくのを見届けてからレッツェルが扉を開ける――
「教主様、お連れしました」
「……ああ、お前も居たのかご苦労だったな」
「……」
そう言いながら椅子に座ったまま俺に目を向けてくるアポスに俺も無言で見返してやる。
ちなみに今の俺は昨日ほどではないけどこの部屋に入ってから気分悪い。ヤツが目を細めて俺を見ているあたり、向こうもそうなのだろう。
それでも教主として話はせねばならないのだろう、席を立つと俺達の前に立ってから話を続けた。
「昨日は無様な姿を見せたな。信者になりたいと聞いているが本当か?」
「はい。俺達は先の戦いで国を追われ、そこでバチカル様に助けられました。そんな彼が居る福音の降臨に興味が湧いたのです」
「私達はガストの町出身で、あの国でも強力な力を持ちます。ですが、戦争になると騎士や兵士の盾になることが多かった……あまり回してもくれませんでしたし……」
「だから助けてくれたバチカル様とエーイーリー様についてきたの!」
「くおーん」
「ふむ」
マキナとクーデリカが俺の援護射撃を行ってくれ、顎に手を当てて一言呟くアポス。さらにサージュが続けた。
<我と妻も引き裂かれそうになった。置いてはもらえぬだろうか?>
<ええ、信者の勧誘でもなんでもやるぞ>
「というわけです、アポス殿。僕はいいと思いますがね? 特にここに居るラース君はかなりの強者です、十神者を失った分の戦力増強としては十分な力がありますよ」
ダメ押しにレッツェルが俺の肩に手を置いて説明すると、アポスは少し考えてから口を開いた。
「アレに匹敵するのか……? レッツェルよりも強いと?」
「ええ、間違いなく」
「ボクの将来の旦那だからね」
「それは弱そうではないか」
「どういう意味だね!?」
冗談なのか本気か分からないアポスの言葉に憤慨するリースをよそに、アポスは見下すような目つきで俺に向かって尋ねてくる。……この目……どこかで……
「ふん、いいだろう。そこまで言うならなにか力を見せてみろ」
「少々荒っぽくなりますけど、いいですかね?」
「やってみろと言ってい……!?」
俺はアポスに手をかざし、魔力を集中させていく。少し、強めなヤツを出しておくか。
「<ドラゴニックブレイズ>」
「!?」
ガゴォオンという轟音を立てながら『俺の右側の壁』を粉々にしながら光の竜は空の彼方へと飛んで行った。……もちろん、撃つ直前に手の向きを逸らしてやったが。
「どうですか? 残りも強いですよ?」
「面白い、着席しろ話をしてやる」
冷や汗をかきながら、笑みを浮かべるアポスに促されて俺達は席について話しを続ける――
◆ ◇ ◆
こちらもよろしくお願いいたします!!
二度目の人生も不遇な俺は、再び復讐のため世界を生き抜いていく ~全てを奪われたまま黙っていると思うなよ?~
https://kakuyomu.jp/works/16816700428550342490
魔王軍No.2の俺は目障りな大魔王を倒すため勇者との共闘を決意する ~歴代最弱の女勇者を鍛えていたら人間達にSランク冒険者として認定されたのだが~
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