第五百四十五話 国王と教主
――国王・ギルガーデン私室
「昨日の者達は入信希望らしいな」
「ええ、そのようですな。バチカルの奴の独断です。この後話をしますが、追い返す予定ですよ」
「ふむ、まあそう急ぐ必要もあるまい」
ギルガーデンがアポスへそう言うと、急に冷静さを失い激昂する。
「何を言うか! レフレクシオンの人間だぞ……! そんなものを受け入れるつもりはない! アルバートのことだ……罠の可能性が高いと思わんのか? 貴様は黙って私の言うことを聞いていればいいのだ!」
「く、苦しい……き、さま、国王に向かって!」
「ふん、十神者が減ったとはいえその戦力がどれくらいのものか分かっているだろう? それに今のエバーライドは私のものと言って差し支えないだろうが『俺』は王だ!!」
「むう……」
憎んでいるという話を聞いてはいたが、まさか国ごと……さらにここまでとは、とギルガーデンが喉を押さえながらアポスを睨む。
「しかし、あのラースという男は娘が気に入っていてな。もし必要がないならこちらで引き取ってもいい。取り巻きの女も美人揃いだ、逃がすには惜しい」
「……下らん」
レフレクシオンの女など抱けるかと考えながら吐き捨てるように一言呟いた後、場が静かになる。
しかし、本題はそこではないとギルガーデンが口火を切った。
「とりあえずそのエバーライドに関してだが、狙っている国があると報告があった」
「ほう、命知らずな国がまだあったのですな」
「イルファン王国だ。鉱物資源が少ないから手に入れたいのだろう」
「確かに、あそこは山が少ないから鉱物資源が少ない土地ですからな。ベリアースとは真逆にある国ゆえに狙いやすいと」
「そう言うことだ。エバーライドは反乱させないよう兵士の数は少ない。念のため十神者を置いておくべきではないか?」
「そうですな……ふむ、承知した。それについては考えておこう」
「……ああ」
ギルガーデンは去り際に見せた嫌な笑みに不安を感じながらも、逆らうには重いアポスを見送るしかなかった――
◆ ◇ ◆
「……いつの間に……」
「んー、ラース……」
「ラース君……えへー……」
大変な人に目をつけられたものだが、時間は過ぎていく。
そしていつの間に潜り込んだのか分からないマキナとクーデリカを起こさないようにベッドから抜け出そうとするが、ズボンや上着を掴んで離さないので苦戦していると、見知った顔が入って来た。
<おはようラース、良いベッドだった。家に帰ったら我もこれくらいのが欲し――>
<ふむ、お楽しみだったか>
「ち、違う! 誤解だから!」
「んー? ラース、抱っこ……」
「ごめんマキナ、起きてくれ……」
「ぐー……」
抜け出そうとする俺のパジャマズボンがずるりと引き下げられ、下着が丸見えになったあたりで諦めて起こすことにした。リースは吊るされているのに熟睡していて、バスレー先生に似てきたなとちょっと思う。
「ふあ……凄くいい気分! 一緒に来て良かったあ」
「クーデリカは恋人じゃないんだから自重しよう?」
「えー、ここだとそうなんだからいいじゃない。怪しまれるよ?」
「そうね……ここはクーデリカが正しいかも」
マキナまでそんなことを言いながら神妙な顔で廊下を歩いていく。
そういえば昨日寝る前に、久しぶりにクーデリカと話していたけどなにか吹き込まれたのだろうか……? これが終わった後のことが怖いが、今は下手に言わない方がいいかと黙っておく。
それはともかく俺達は朝食へ。
流石に国王たちと同じというわけではなく別々で、この朝食の後にアポスと入信についての話をすることになっている。
レッツェルを呼びに行ったリースと合流し、朝食を食べながら話をする。メイドさん達が居ないのを見計らってサージュが口を開く。
<さて、我としてはラースが心配だが、必要か?>
「ええ、ラース君はこの作戦の肝ですから教主殿のことを知ってもらわねばなりません。しかし、あまり酷いようなら医者として下がらせますけどね」
「ヤブ医者の癖に……まあ、サージュの心配はありがたいけど言い出しっぺは俺だ、ちゃんと役目は果たすよ」
「無理はしないでね」
マキナが心配そうな顔で言うので俺は笑顔で頷いておく。
恐らく先は長いので無理はできないとは確かにそうなのだけど、この戦いは『そういう類』ものだ。無理をせず得られるものは無いとも思っている。
<フォローは私達がすればいい、そのために来たのだろうサージュ>
<確かにそれもそうか。しかし、アポスとか言う者、昨日見た限りだと異質な感じがしたな>
サージュの言葉に、俺は小声で返す。
「あまり言いたくないけど、別世界からの転生者だ。どこから来たか分からないけど、妙なスキルとか持っていると考えていい。レッツェルはそのあたりを知らないんだよな」
「ええ、残念ながら。幹部クラスの十神者でも知らないと思います。もし知っていたらバチカルが教えてくれると思いますよ」
「となると、信用を得る方が早いか。でもどうする? 信者でも増やせばいいのかな?」
「そうですね町で信者になりそうな人を連れてくる、それが一番いいでしょう」
レッツェルが優雅にパンをちぎって口にしながらそう言うと、クーデリカが眉を顰めて口を開いた。
「あ、そうそう! ガストの町にも居たよ! でも信者にしてどうするんだろ」
「声が大きいよクーデリカ。でも確かに気になる話だな……」
「まあ、一番は駒でしょう。福音の降臨というブランドをまき散らすための広告みたいなものですよ。ロクなことをしていなくても『あの集団』という認識をつけることができます。それにレフレクシオンの領地確保事件もそうですが、活動家が増えれば町ひとつ落とすのはそう難しくありません」
なるほど、悪い意味で『箔をつける』というやつだな。
心無い男のようだし、自分が死ななければ手駒はどうなってもいい、という感じか……どこかでそんな――
「食事は済んだか? ……教主サマがお呼びだぜ」
俺がなにかを思い出しかけたその時、アルバトロスが食堂へ入って来て声をかけてきた。俺は深呼吸をしてからフォークを置いた。
◆ ◇ ◆
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二度目の人生も不遇な俺は、再び復讐のため世界を生き抜いていく ~全てを奪われたまま黙っていると思うなよ?~
https://kakuyomu.jp/works/16816700428550342490
魔王軍No.2の俺は目障りな大魔王を倒すため勇者との共闘を決意する ~歴代最弱の女勇者を鍛えていたら人間達にSランク冒険者として認定されたのだが~
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