第五百四十四話 クーデリカの主張


 「びっくりしましたわ」

 「はっはっは、ボクはいつも通りだ! おぶ!?」

 

 ベッドに突き刺さったエリュシュ王女と、ついでにリースを寝かせて念のため回復魔法を使うと、すぐに二人は目を覚ましてベッドの上に鎮座。

 とりあえずクーデリカがリースをもう一度沈めてくれたので話を進める……


 「申し訳ありませんでした……!!」

 「俺……私からも謝罪します。申し訳ありません」


 マキナの罪は俺の罪。

 リースのせいとは言え、手を出したのはこちらなので脇に立って頭を下げる俺とマキナ。するとエリュシュは口元に手を当てながらころころと笑い出した。


 「うふふ、構いませんわ。本当にラース様を愛していると分かりましたし、障害が多いほど燃えますわ!」

 「はあ……」

 「お父様に言いつけたりしませんからご安心を。ラース様のことは追々ケリをつけるとして、ここへ来たのはお願いがあったからですわ」

 「お願い?」


 とりあえず機嫌は損ねていないことにホッとしながら、エリュシュの言葉を待つ。すると、両手を合わせながらにこやかに首を傾けて言う。


 「わたくし同年代の友人というものが居なかったのでお友達になってもらおうと思いまして! ほら、女性も多いですし」

 「ボクがいるじゃないか」

 「あなたはしょっちゅう居なくなるから面白くありませんわ。リースと同じ福音の降臨に入信というのが気に入りませんが、お茶などをしていただけると嬉しいんですけども」

 「それは……」


 と、マキナとクーデリカが俺を見て言葉を詰まらせる。あの仕打ちをしたのに笑顔で申し出るあたり、これを断っても咎めることはないかと思う。あるとすれば今のことを告げ口すると脅してくるくらいか。

 

 しかし、口ぶりから福音の降臨にいい感情がない言い方をするな、とも思う。情報を仕入れるなら引き入れておくのもアリかもしれない。


 「非礼を働いた私達にそのようなお言葉、ありがとうございます。恐れ多いことですが、もし許されるなら友人にしていただければ光栄です」

 

 そう言って二人に目配せをすると、


 「私も光栄です」

 「わ、わたしも!」

 「まあ、よろしいんですの! こちらこそありがとうございます。では今からお茶でも……と言いたいところですが、夜も遅いですしこれくらいにしておきましょう。扉も直さないといけませんしね」


 エリュシュが指を鳴らすと、どこからともなくメイドと執事らしきスーツを着た人間がわらわらと集まり、あっという間に扉を直していく。


 「それでは明日から楽しみですわね! ラース様達の冒険話を聞きたいです!」

 「あ、はい、おやすみなさい」


 ウインクをしながら去っていくエリュシュ。

 とりあえず扉に近づいて、聞き耳を立てていないか気配を探るが足音が遠くへ行ったので問題無さそうだ。


 「……ふう。で、お前はなんで残っているんだ?」

 「いいじゃないか。ボクだってお話をしたいよ。ま、そういうことであの姫はあんな感じだから退屈はしないと思うよ。それに、聞いた通り福音の降臨を嫌っているしね」

 「そうみたいね。でも、私達も肩書上は信者なんだけど……」

 「どちらかと言えば嫌われそうだよね、リースちゃんはなんでお姫様を連れてきたの?」


 クーデリカの疑問は俺達も持っていたのでリースの考えを待つ。


 「最悪、仲良くなっておけばアレを人質にできるだろう? ややもすれば誘拐されたと気づかれないくらいスムーズに連れだせる」

 「なるほど……。いや、だけどあまり関わるつもりはないよ」

 「どうしてだい?」


 リースが寝転がって頬を両手に乗せながら上目遣いに聞いて来たので、俺は椅子に座りながら口を開く。


 「……どう転ぼうと国王一家は今の椅子から必ず引き下ろされることになると思う。ヒッツライトやティグレ先生、バスレー先生の恨みは強いからな。そうなった場合、エリュシュ王女もどうなるか分からない。裏切る前提があるから、仲良くするつもりはないよ」

 「うん。利用するだけするのが策なんだろうけど……せめて裏切られたと思われない方がいいかな」

 「わたしはどっちでもいいけどね。リューゼ君だって最初はラース君といがみ合ってたし? 親が悪いかもだけど、エリュシュ王女はそこと関係あるのかなあ」

 「……うーん」

 

 意外なことにクーデリカは気にしないらしい。ノーラもここに居たら同じことを言いそうな気がするな。

 

 「言いたいことは分かるけど、友達になった子が処刑されたりしたら嫌じゃないか?」

 「助けてあげようよ! ラース君はそんなに冷たい人じゃないよ?」

 「……まあ、考えておくよ。今日のところは寝ようか、二人とも疲れたろ」

 「三人じゃない……!? ラース君、ボクにも優しくして欲しい……」

 「ややこしいことをしたお前は廊下へ行くのだ」

 「うわあああああ、嫌だぁぁぁぁ! ボクはラース君と一緒に居るんだぁぁぁ」

 「うるさ!? ラース、なんか監視しといた方がいいんじゃない? 吊るしておけばいいでしょ」


 この手合いには慣れたものだと、マキナは手早くリースを簀巻きにしてベッドへ潜り込む。

 初日からアポス、食事会、エリュシュ王女とイベントが目白押しだったな……もっと様子を見たかったアポスだが、明日は顔合わせできるだろうか?


 「ラース……」

 「ラースくーん……」

 「ボク……リベンジ……」

 「……俺も寝るか……」


 その日、俺は珍しく……いや、この世界に来て初めて、前世の夢を見た――



 ◆ ◇ ◆


 『お呼びですか教主様』

 「うむ。本当に悪魔が三人がやられておめおめ戻って来るとは思わなかったがどういうつもりだ? それに信者だと? レフレクシオンの人間を信者にしろと?」

 

 『到着した時はすでに……それと勘違いされているようですが、我等の力はそれほど差はありませんので、アレら三体倒せる相手に私とエーイーリーだけでは二の轍を踏むだけかと。故に報告を優先しました。それとあの人間達はなかなかに強力な力を持っています、お役に立てるかと』

 

 「ほう……それにしてもあの金髪の小僧……何者だ? 見た瞬間、酷い頭痛と吐き気がした。世界が回っているのかと思ったぞ……」

 『それについてはなんとも言えませんな。田舎貴族の次男ですぞ』

 「まあ、明日顔合わせをしよう。そこで同じ状況なら距離を置く、それでいいな?」

 『はい』

 「今日は休む。下がれ」


 ――バチカルはアポスに言われるまま下がり、部屋を出てから廊下を歩く。


 『……ふん、残念だった、くらい言えないものか。さて、顔合わせの前に他の十神者に声をかけておくか――』

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