第五百四十三話 女性だらけの寝室戦争


 「うーん……疲れたよー……」

 「クーデリカ、だらしないわよ? この後、王女様が部屋に来るって言ってたからしゃんとしないと」

 「えー、あれって方便じゃないの? わざわざ来るかなあ」

 「……来る、と思う。ラースを見ていた目がちょっと怪しかったし」

 「はは……」


 程なくして食事会が終わり、俺達は部屋へと戻って来ていた。

 まだ判断するには早いけど、国王は王妃の尻にしかれているイメージは聞いた通り。癖がありそうなのは王妃の方だと思う。サージュに目を付けていたっぽいから国王とお互い浮気性なのだろう。

 

 で、王子のイーガルはずーっとクーデリカの胸を見ながら口説こうと必死だった。女好きという事前情報どおりで、クーデリカを囮とする作戦は上手く行った。けど、あいつ見すぎだろうと苛立ちを抑えきれなかった。

 最後に王女のエリュシュだけど、あまり話はしていない。リースとは仲がいいようでお互いため口で話していたことを思い出す。俺を見る目が熱っぽいけど、リースのそれに近いのが怖いかな……とりあえずリースが失礼すぎるんだけど、あれでいいのだろうか……?

 

 レッツェルとバチカルは国王にガストの町攻防戦について聞かれていたけど、二人とも当たり障りのない話で濁していた。


 「……とりあえず、だ」

 「どうしたの?」

 「うん?」

 「国王たち一家は警戒すべきだけど脅威になるほどじゃなさそうだからアポスの動向に一番注視するのが良さそうだ」

 「結局、謁見の間以降姿を見せてないわね。あ、頭痛はどうなのラース」

 「それはもう大丈夫だよ。……次に会った時にどうなるか分からないけどね。クーデリカはイーガル王子に気を付けるんだよ?」

 「はーい! ラース君と一緒に居るから安心だよ! 明日からの予定は?」


 クーデリカがきちんと偵察のことを口にし、俺とマキナは頷いて続ける。


 「レッツェル次第だけど、アポスに入信の手続きを取ってもらうつもりだよ。それ以外だと、特にやることが無いから町の様子を確認しておきたいかな?」

 「今のところは流されるままってことか。歯がゆいわね」

 「国王を拘束したところで目標であるアポスを逃がしたら意味が無いから我慢だよ。でも実際やることが――」

 「ラース様、いらっしゃいますか?」


 と、三人で適当に話をしていると扉の向こうで王女エリュシュの声が聞こえてきた。

 本当に来たんだ……王女という立ち位置の人は今までの旅でも会ったことないけど、普通は平民の、それも男がいる部屋には来ないと思う。

 一体なんの話があるかとベッドから降りると、扉に行くより先にマキナが口を開いた。


 「ラースはもう寝ていますよ! だからまた明日にでも!」

 「え!?」

 「うん、私達も今からラース君の隣で寝るの!」

 「な!?」


 マキナとクーデリカはしめし合わせたかのように扉に向かって言う。確かに下手に招き入れない方がいいかとベッドに戻る。


 「まだ寝るには早い時間ではありませんか?」

 「長旅で疲れているんです、申し訳ありませんが……」

 「あら、そう言えばそうでしたわね。ではまた――」

 「……ホッ」


 クーデリカが胸を撫で下ろした瞬間、それは起きた。


 「なんて言うと思いましたか! リース!」

 「くっく……ここはボクが……さあ、ラース君! 愛するボクのためにここを開けてくれ!」

 

 何故かリースも一緒に居るようで、寝言をほざいていたが俺達は沈黙を貫く。


 「開かないではありませんか」

 「おかしいな……」

 「おかしくないよ!? リースちゃん頭がいいのにラース君のことになると壊れるのはなんでなの!」

 「天才となんとかはほら……」

 「うるさいぞデカ乳と貧乳! 最初からこうすればよかった!」

 「あ!?」


 珍しく怒声を出したリースが叫んだ瞬間、部屋の扉が吹き飛んだ!? 


 「ラース様!」

 「ラース君!」

 「うわあああ、来たぁ!?」

 「はい、そこまでです。王女様、僭越ながら……夜に男性の部屋に来るのは、はしたないと考えますが?」

 「あなたはマキナさん、でしたかしら。ふふ、ラース君の恋人とおっしゃっていましたわね。いいのですよ、お父様から許可は得ております」

 「でも、ラース君はわたし達のだよ!」


 俺はベッドの上で正座をして固唾を飲み見守る。

 マキナとクーデリカが仁王立ちで駆け寄って来たエリュシュ王女とリースを阻み、にらみを利かせていた。

 できれば目立たず動きたいんだけど、向こうから突っ込んでこられたら元も子もないな……


 「ふふ、甘いですわね。男は略奪するものとお母様は言っていました……それに倣うものでしょう? それに、わたくしに逆らうならこの城から追い出しますけど?」

 「別にいいわ。ラースも出て行くことになるけどね?」

 「あの王子様もエッチそうだから、そっちの方がいいかもー?」

 

 ああ、挑発しまくっている……

 

 「あ、あの、マキナ、クーデリカそれくらいに――」

 「ラースは黙ってて」

 「て!」

 「う、うん」


 怖い。

 さっきまでアポスをどうするか話していたのに、修羅場みたいな空間に変わったんだ?


 「まあまあ、ボクに免じて仲良くしようじゃないか? みんなラース君を愛する者、敵は居な……ぶふう!?」

 「邪魔よリース」

 「ごめんねー、そりゃ!」

 「な、何故ボクばかり……ガク……」

 

 憐れ、リースはクーデリカにバックドロップをくらってマットならぬベッドに沈む。

 というかこいつもイマイチわからないんだよな……接点は学院以外で殆んどなかったし、卒業までの期間もたまに挨拶をする程度だった。アプローチはあったけど、冗談だと思ってた。

 レッツェルに協力してオーガ薬なんかを作っていたみたいだけど、他に裏がありそうな気もするから適当にあしらっている。下手をするとレッツェルより信用がない。


 「ふ、ふふ……面白いですわあなた達……このエリュシュ、障害があるほど燃える女……いざ、勝負!」

 「来る……!」

 「マキナちゃん!」


 凄い気迫でマキナに襲い掛かる! やはり戦争を嗾けるような国、王女も鍛えているのか!

 だけどマキナ相手は流石に厳し――


 「てい!」

 「ふぎゃ!?」


 ――いよな、やっぱり。


 エリュシュ王女は繰り出した手をマキナに掴まえられ、あっさり宙を舞い、ベッドに突き刺さっているリースの隣に、同じく頭から突き刺さり勝負が決まった。

 ……どうするんだ、これ……?

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