第五百四十二話 王子と王女と王妃とラース
<食事か>
<そのようだな、長旅だったから楽しみだ>
「こちらです」
隣の部屋に居るサージュとロザにも声をかけてメイドの後を歩いて案内された食堂はウチの屋敷とは違いとても広く、ずらりと壁に並んだ騎士や兵士とメイドが圧巻の一言だった。
「(天井が高いー)」
「(お城ってみんなこうなのかしら……? これじゃ気になって食事に集中できないかも)」
「(マキナ、ダメだよ)」
俺達はひそひそとバチカルの後ろで会話をする。確かに騎士が食堂に、それもこの数は異常だと思う。
レフレクシオン王国の食事会に呼ばれたことが無いから、こういうものなのかもしれないけど、マキナの言う通り気になって仕方がない。
「陛下、お連れしました」
「ご苦労。バチカルと一緒だったか」
『はい。……教主様は?』
「アポスのやつは具合が悪いといってここには来なかった。さ、座ってくれ、謁見の間ではお前達の話を聞く間も無かったからな。まあ座るといい」
「お招きいただきありがとうございます。失礼します」
「し、失礼します……」
俺が一礼して着席すると、マキナとクーデリカも続いて座る。そこでレッツェルとリースも入って来た。
「おや、僕達が最後ですかね」
「やあやあ、待たせたかな? ってラース君の隣が埋まっている……!?」
<当たり前だろう>
「ボクだってラース君を愛する女の一人だよ? たまには貸してくれてもいいじゃないか」
「俺はモノじゃないからね?」
「そうだよ! わたしだって久しぶりなんだもん」
「あの、私の目の前でよく言えるわね?」
俺のところへ来て嫌な笑みを浮かべて俺の肩に手を置くリースにクーデリカが噛みつく。すると、国王の近くに座る女の子がコロコロと笑いながら俺達に目を向けて言う。
「ふふ、面白い方たちですこと」
「あ、申し訳ありません、騒がしくしてしまって」
「構いませんわ、いつもは静かなものですから」
「ふん」
「よさんかお前達。紹介しておこう、私の娘エリュシュと息子のイーガル、それと妻のオリヴィアだ」
彫りの深い陰気な顔をした国王だけど、奥さんの王妃、王女、王子は端正な顔立ちで王妃によく似ている。パーツを見ると国王の面影はあるけど、血は奥さんの方が濃いらしい。
「よろしくお願いしますわね。ほら、イーガルも」
「なんで俺が信者に挨拶をしないといけねえんだ。ま、そこの二人は可愛いからいいけどよ、イーガルだ。男は舐めた真似したら即首を刎ねてやるからな? ひひひ」
俺とサージュを見て親指で首を掻っ切る仕草をしながら舌を出して笑うイーガル。話の通り女好きってのはよく分かった。
それと王女はおっとりしているけど、
「まったく……信者を拾ってきて歓迎会とは。会う必要があるとは思えませんね」
王妃は性格がきつそうだ。
まあ、直接被害が無ければ嫌味くらい大したことじゃないと、俺達も自己紹介をする。
「私はラースと言います。こっちは恋人のマキナ……と、クーデリカです」
「マキナです」
「クーデリカです!」
「恋人のリースです!」
「へへ、二人とも可愛いな! って、おい二人とも恋人ってどういうことだ?」
「ボクを無視するんじゃない!?」
即座にイーガルが絡んできて、口を尖らせながらフォークを突き付けてくる。というかリースはよく怒られないな。
「うるせえぞリース、俺はそいつに聞いてんだよ!」
「えっと、ですね。私はガストの町領主の息子……いえ、次男なので継承権はないのですが、一応貴族という立ち位置だったので妻は多くということで」
「貴族……レフレクシオン王国のか?」
国王が訝しむと、バチカルが静かに口を開く。
『レフレクシオン王国ですな。しかし彼はこの度の戦いで国王や領民に矢面に立たされて窮地に立たされました。優秀な戦士として私の前に立ちはだかりましたが、私に敗れると、恋人共に亡命を申し出てきたのです。その二人も腕に覚えがあり、イーガル様より確実に強いでしょうな』
「マジかよ……」
「まあ、ラース様は貴族なのですね! 後でお部屋に行っていいでしょうか? 同年代の方とお話するのはあまり無いので」
「ふむ……容姿は悪くない、わね?」
「……!?」
王妃が目を細めた瞬間、背中に悪寒が走り、見れば王妃と王女がニヤリと笑みを浮かべていた。
俺は愛想笑いで目を逸らすと、今度はサージュ達が挨拶をする。
<私はサージュと申す者、お見知りおきを>
<ロザだ、サージュとは夫婦なのでよろしく頼む>
「あら、こちらはイケメンね……」
「ほう……先ほどはしっかり見れなかったが、美しいな……」
<お上手ですな>
<褒めてもなにも出ない。私達もバチカル様に助けられた身で、福音の降臨へ入信することになっております>
サージュは涼しい顔であしらうと、国王と王妃が顔を見合わせた後に咳ばらいを一つしてグラスを掲げて高らかに言う。
「まあいい、福音の降臨は我等の国民と同等。能力は後ほど見せてもらうとして、今日のところは歓迎するぞ。乾杯!」
「ありがたき幸せ……乾杯」
<乾杯>
その間に【簡易鑑定】を使用し、料理と酒に細工されていないか確認してみるが、特に問題は無さそうだ。俺にも分からない毒でも入っていたらアウトだけど、それらしいものは『視えない』ので俺はマキナ達より先に酒と食べ物を口にする。
「……うん、美味しい。マキナ達も食べなよ」
「いただきます」
「お腹空いてたんだよねー、長かったし……」
「ふふ、たくさんあるから食べてくださいねラース様♪」
「え、ええ、いただきます」
「「む」」
「姉貴はカッコいい男が好きだからなあ。ま、俺ほどじゃね……いてえ!?」
イーガルが肉を切りながら鼻を鳴らしていると、席から立ったエリュシュに小突かれ、そのまま俺のとこに彼女がやってくる。
「イーガルは黙っていなさい。ささ、お酒もありますわ」
「そ、それは恐れ多いですよ……」
「お父様、ダメですか……?」
「う、むう……」
嘘泣きだ……
肝の小さいと言われる国王は目を潤ませるエリュシュに困惑しながらグラスに口をつけ、小声で「好きにしなさい」と返していた。
……うーん、国王とアポス、王子に気を付けるよう言われていたけど、この王女が一番面倒くさいんじゃないか……?
怖い顔で笑うマキナとクーデリカを見ながら俺はそんなことを考えていた。
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