第五百四十一話 まずは休息を


 「はー、緊張したねー……でも、ラース君大丈夫?」

 「どう、ラース?」

 「うん、落ち着いてきたよ、ありがとうマキナ」


 ――謁見の間で俺とアポスの具合が悪くなり、両陣営ともその後の会話は続かないと判断して早々に打ち切って各々部屋へと誘導された。

 ただ不幸中の幸いで、俺の看病という名目を使いヒッツライトがマキナとクーデリカを同室にしてくれたのでまずは潜入成功といったところだ。

 サージュとロザの夫婦は隣の部屋に居るため、なにかあればすぐに駆けつけてもらえる。……のはいいんだけど……


 「なんで二人とも俺を挟んで潜り込んでいるんだ……?」

 「だ、だって心配だもん」

 「マキナちゃんがいいよって」

 「うう……」


 お風呂上りでいい匂いのする二人はマズイ。

 俺は目をぎゅっとつぶって体を強張らせる……左には巨大な武器をもったクーデリカ。右には恋人のマキナが居るので、理性が危ない。


 「だ、大丈夫? 熱、上がってない?」

 「わ、ホントだ」

 「だ、大丈夫だから動かないでくれ!?」

 

 こういう時は別のことを考えてやり過ごそう……


 さて、初対面した国王は可もなく不可もなくと言ったところで、確かに少し詰めれば弱気になりそうな印象を受けた。ヒッツライトが騎士団長ということで騎士全体の実力も多分悪くない。

 それでも俺達が暴れれば逃げ出すくらいは恐らく簡単だ。

 後は懸念している、ヒッツライト達がさらに寝返ることだけ注意しないといけない。


 そして教主アポス。

 同じ転生者だからか、顔を合わせた途端強烈に嫌な気分になった。次に出会った際にも同じようなことが起きるのであれば少し考えなければならないかな……?


 「……ラース、落ち着いたみたいね」

 「ん、目を瞑って考え事をしていたら少し楽になったよ。とりあえずマキナとクーデリカは国王に気を付けて欲しい」

 「うん! 一瞬すっごく嫌らしい目を向けてきた!」

 「背筋が寒くなったわね」


 流石というか二人とも気づいていたらしいのでそこは一安心だな。


 「うん。平気で別室にしようとしていたから狙ってくると思う。王子は居なかったけど、そこも注意だな。必ず二人で行動、出来れば俺かサージュが一緒ならいい」

 

 これはレッツェルやバチカルに言っていないが、女性陣は念のためベリアース王国に関わる者とは同行させるつもりはない。ロザも同様。危険はなるべく回避するに限る。

 

 「とりあえずこれからどうするの?」

 「まずは待ちでいい。俺達を招き入れたあいつらの動向を確認するまではね。城にどれだけの人間が居るのか知りたいかな。兵士やメイド、大臣といった数の把握は絶対必要だ」

 「ヒッツライトさんに聞く?」

 「騎士と兵士は彼がいいと思うけど、それ以外の人は『いつもの行動をしているところ』を見るのが大事だから、なにかと理由をつけて散歩させてもらうよ、ジョニー達の様子もみたいし」

 「オッケー! ふふ、久しぶりに腕がなるわね」

 「まあ、二人とも疲れたろうから食事までゆっくりしなよ。俺にくっついていないでさ」


 夕食は俺が【簡易鑑定】すればいいし、とりあえず一日は旅の休息をするべきだと俺が上半身を起こそうとしたところで、部屋の扉が開いた。


 「お薬ををお持ちしました。……あ!」

 『調子はどうだ? ……すまない、邪魔をしたな。元気そうだ』

 「そ、そうですねバチカル様……」

 「待って!? 俺、別に変なことをしてないから!?」


 メイドと一緒に入って来たのはバチカルで、薬を持ってきてくれたらしいが妙な気を遣ってそそくさと出て行こうとしたので慌てて引き留めた。

 

 とりあえず薬をもらってメイドさんには下がってもらうと、今度はきちんと鍵をかけてからベッドに腰かけて口を開く。


 「変な気を使うなって……」

 『なにを言う、悪魔は契約者との約束はきちんと守る律儀な存在なのだ。気を遣うくらい訳はない』

 「なんの自慢かしら……。でも、ラースのために薬を持ってきてくれたのね」

 『いや、これは口実だ。ラース君にあの時なにが起こったのかを聞くためにな』

 「ま、そうだろうな。といってもあまり言えることは少ないけど……気分が悪くなったり頭痛が起こったくらいだ」


 俺がそういうと、バチカルは少し考えた後に口を開く。


 『私はあの後、教主様と一緒に部屋に戻ったのだが、同じことを言っていた。転生人同士なにかあるのかもしれんな』

 「そういえばラース君ってそうだったよね。あんまり気にならないけど」


 クーデリカが微笑む。

 ただ、バチカルも『異世界からきた』というのは同条件のはずなので初対面のアポスというのも変な話だとは思う。


 けど――


 「――どちらにしても始まったばかりだ」

 

 ――そう、やるべきことは始まったばかりなのだ、考えを巡らせるより行動だな。明日からの予定として考えていたことをバチカルに投げかける。


 「とりあえず城の案内なんかを頼んでいいのか?」

 『いや、私は教主様と一緒に居る必要がある。ガストの町の一件を聞きたいらしい。十神者がやられることは想定していなかったということと――』

 「ことと?」

 『私自身、残りの十神者とコンタクトを取りたい。すまないが城についてはレッツェルかリースを頼ってくれ』

 「分かった」


 そこで扉がノックされ、俺達は一斉に視線をそちらに向ける。


 「すみませんバチカル様。お夕食の時間になりました、お客様もご一緒にお願いします」

 『ああ、分かった。ご苦労。……では、行くとしよう、恐らく色々聞かれると思うが、適当に流しておけ』


 バチカルが椅子から立ち上がり俺達に目線を向けて言ったことを飲み込み頷く。

 

 さて、悪魔達がアポスのところへ行くなら、言う通り頼るのはレッツェルとリースになりそうだけど、どうなることやら……

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