第五百四十話 対面
「ここがベリアース王国……」
「綺麗ね、地面もお洒落だわ」
「人も多いね」
「ああ、城下町は中々活気があるだろう? 王都ベリアルがこの国の中枢だ。……この人数を連れては目立つな、さっさと報告を済ませよう、こっちだ」
町に入るとイルミネートと遜色がないくらいきれいな街並みが目に入り、マキナとクーデリカが感嘆の声を上げるとヒッツライトが得意気に笑う。だけどすぐに真顔になり、そびえ立つ城へと足を進める。
俺達の後ろにはボロボロのエバーライド兵がついてきていて、町の人がひそひそと話しているのが遠目からでも分かった。
まあ、俺達もかなり汚いし臭いので仕方ないと思う。ちなみに服はいつも着ているやつではなく、わざとボロボロにするため別に用意したものを着込んでおり、魔物の返り血なども浴びているので雰囲気は相当ある。
<まあ我等は元の姿なら服を着ないからな>
<でも、おしゃれな着物はいいと思う。ね、あなた?>
<う、うむ……>
『あまり喋るな、そろそろ謁見だが……』
『教主サマは居るかねえ?』
夫婦感のあるサージュ達を諫めながらバチカルとエーイーリーが周囲を警戒しながら口を開くと同時に、謁見の間へ続く扉が開き俺達は黙ってその時を待つ。
まずはヒッツライトが。そしてアルバトロス、バチカル、エーイーリーが続いた後、俺達が。そして最後にエバーライドの兵士が勢ぞろいしたところで玉座に座っていた陰気な男……恐らく国王が口を開く。
「戻ったかヒッツライト。して、この度の遠征はどうだった? ガストの町は落とせたのだろうな?」
「……報告します。残念ながら、五千はいたエバーライドの兵を三千人強を失い、敗走した次第です」
「なに……!?」
予想外だったのか、驚いて立ち上がる国王にバチカルが追い打ちをかけた。
『さらにこちらから出した戦力であるシェリダー、アクゼリュス、ツァーカブも戦死。私が駆けつけた時には勝敗が決しており、深追いは禁物と判断して戻って来た』
「馬鹿な!? 貴様等十神者が負けるだと……?」
「ええ、申し訳ありません陛下。抵抗しても良かったんですが、この事実を告げないと死ぬに死に切れませんで、ええ」
上手い。
アルバトロスが敗走の理由をさりげなく伝えるのを聞いて俺は思わず胸中で頷く。国王が逃げ帰るとは忠誠心が足りん、みたいな言葉を出す前に『国王のために逃げ帰った』とあれば無下にもできない。
その前にバチカルも深追いをしない方がいいと発言したのも功を奏している。強者である十神者が三人やられた上、トップのバチカルが戻って来たとなれば脅威が伝わりやすいからだ。
「……レフレクシオンはそれほどの強者を抱えているのか? ま、まさかこちらに攻めてくるのではあるまいな!?」
「ご安心ください、敗走はしましたがバチカル殿によって打撃は与えております、すぐに攻めてくることはありますまい」
「そ、そうか……しかし十神者が倒されるとは……」
「切り札はどの国にもある、ということでしょうな……申し訳ありません、お役に立てず……私の首で気が済むのでしたらなんなりと」
「ヒッツライト、さん!?」
ヒッツライトが一歩前へ出てそんなことを言い出し、俺が慌てて声を出すが国王は席について頬杖をついてから首を振る。
「いや、よい。お前を処したところで私の気分は晴れるかもしれんが貴重な戦力が減る。もし奴らが攻めてきた時に盾になってもらうぞ」
「はっ……」
「して、その者達は何者だ? レッツェルはともかく、見たことがない者達がいるな?」
そこで俺達に、いや正確にはマキナとクーデリカに目を向けた国王がそう言い、ヒッツライトが小さく頷いてから俺達を前に出して口を開いた。
「彼らはレフレクシオンの戦いで巻き込まれた者達で、我等がガストの町を攻め、当然町は戦火に包まれました。その際、町人を肉壁にしてたてついて来ました。それに嫌気が指して見限り、我々に協力を申し出たのです」
『逃げ出すための逃げ道を作ってくれたのも彼らですな』
「ほう、それは心強いな。逆に言えば隙をつくこともできるか」
「はい。見ての通り汚れ、疲労があります。報告は以上ですが、下がってもよろしいでしょうか。彼らを休ませたく思います」
「……ふむ、そうだな。女たちは城の風呂を使わせてはどうだ? 部屋も用意してもいいが」
険しい顔をしているが鼻が膨らんでいるので期待を込めている、というところだろう。だが、ヒッツライトがあらかじめ打ち合わせていた言葉で牽制する。
「もし問題なければ彼らは夫婦や恋人なので、一緒であれば……」
「む、そうか……」
声色が残念だが、どうする?
別に俺達は城の外で過ごし、たまにバチカル達に招かれるという体でも構わない。そのあたりのシミュレーションは出来ている。
そして国王は少し考えた後、ヒッツライトに向かって言う。
「……よし、許可する。男達も風呂、それと着替えを出してやれ。部屋は任せる」
「ありがとうございます。私の名はラース、寛大な処置に感謝いたします」
「うむ、殊勝なやつだな。活躍すれば報酬やそれなりの地位を約束してやるぞ。エバーライドの兵もご苦労だったな、僅かだが報酬を出してやれ」
「かしこまりました。大臣と折衝させていただきます」
そして俺達が下がろうとしたところで――
「申し訳ない、遅くなった」
「おお、アポス殿。ちょうど終わるところだったが、丁度いい。お前の部下が戦死したらしい」
「なんですと? バチカル、どういうことだ? アクゼリュス達が死んだとでもいうのか」
『教主殿の推察通り、先に放った三人は散りました』
「……なるほどな」
『……? なにか?』
「いや、なんでもない。そいつらは?」
『向こうで拾ってきた者達です。十神者に勝るとも劣らない強さを持っていますから、後釜に良いかもしれません』
バチカルがそう言うと、奥の扉から出てきたアポスが俺達の下へ歩いてくる。
こいつがアポス……見た感じ普通のおじさんって感じだけど――
「この子供が……う!?」
「くっ……!?」
「ど、どうしたのラース!?」
「ラース君!」
『どうされた、教主殿』
「い、いや……」
なんだ……? アポスと目を合わせた瞬間、強烈な頭痛と嫌な気分が沸き上がり俺とアポスは同時に膝をつく。
見たことが無い男なのに『こいつは危険だ』と脳が警鐘を鳴らす。
だがやることは変わらない、教主アポスを倒す。そのためにここまで来たのだから――
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