~幕間 17~ ラース旅立ち後②


 「ルシエール達も行っちまったか。後は俺達だけだな」

 「どっちが先でもいいんけど、情報収集はお客さん相手の行商人組が上手いと思うし、装備も受け取らないといけなかったからね」


 ルシエール達を見送ったリューゼがウルカと話をしながら町中へと戻って行く。一番人数の多かった行商人偽装のメンバーが居なくなったので、あとは冒険者のリューゼ達だけになっていた。


 <装備は十分か?>

 「ルシエールの拾った鉱石で作成したのが配られているからオッケーだぜ。ジレは……必要ないか」

 <見た目は人間だが、かなり強度に変化はない。そうそう気づくことは無い>

 「オオグレさんとラース、後は全力のマキナとロザさんの大剣をもったリューゼくらいだもんね」

 「あたしもな」

 「ごめんなさい、ファスさんもだった! セフィロは?」

 

 後ろからついてくるファスさんが目を細めて笑いながら肩を叩くと、ウルカは飛び上がって驚き、セフィロに話題を変える。


 『ボクもスキルを使えばお腹に風穴を開けられるよ!』

 「物騒すぎるだろ……」

 「ラース君についてくる子ってみんな強さがでたらめよね」


 ナルがリューゼの顔を覗き込みながらそういうと、ファスが難しい顔で腕を組み、応える。


 「まあ、あたし達みたいな力を誇示する人間には『強者は強者に引かれる』って言葉があってな。ラースはそれを突き進んでいるって感じだね」

 「あいつは小さいころから強いし、分かる気はするぜ。俺も追いつくために必死だけど、スキルの差かねえ」


 リューゼが後ろ頭に両手を組んで空を仰ぐと、ファスが首を振りながら立ち止まって言う


 「ラースは転生者というのもあるし、スキルも性格にあっているから正直なところ規格外だとしか言えないね。あいつは謙遜するけど、今、何でもアリで戦ったらあたしでも10回に2回くらいだと思うよ」

 「マジか……」

 <その女の言う通り、我等ドラゴンが元の姿でかかっても難しいだろうな。だが、あの男は優しい故、必要以上に相手を傷つけないから無意識にセーブしていると思うが>

 「うん。子供のころ、レッツェルさんに殺されかけたリューゼとブラオさんを助けたのを聞いているよ。あのころなら見捨ててもおかしくなかったのに」

 「う、うるさいな!? もう俺も親父も蟠りはねえよ。ま、だからこそラースなんだけどな! 俺はあいつのためなら死ねるぞ。それくらいの借りがある」

 「死ぬなんて言わないでよ……」

 <そのあたりのことは俺は分からんが――>


 真顔で語るリューゼにナルが不安げに手を握る。そんな二人を横目に、ジレはファスと目を合わせて口を開く。


 「本気のラースを見たい」

 <本気のラースを見たい>


 同時に放たれた言葉はまったく同じもので、セフィロがファスに抱き着きながら首を傾げる。


 『お兄ちゃんの本気?』

 「ああ、バチカルと戦っていた時もそれなりに本気だったけど、まだ底は見せてねえはずだ。あいつが本気になったらどうなるのかと思ってんのさ」

 <……憶測だが、悪魔や教主とやらでもラースは止められんと思っている。アレが悪人でなくて良かったと考える程度にはな>


 世界でも有数の力を持つファスにドラゴンのジレがため息交じりに口にするのを見て、リューゼとウルカはゴクリと唾を飲みこむ。


 「なら、今回の騒動もすぐ終わるかもしれないわね」

 「まあ、順当に行けばね。さっきも言ったけどラースは優しい。故に人質を取られたり、嘘の命乞いなんかには弱いんだ。サンディオラで覚悟は決めたみたいだけど、人を殺すのもためらいがちだし」

 「ラースが人殺しか、あんまり想像つかねえな」

 「そうね、不可抗力でってことならありそうだけど」


 ナルがリューゼの手を振りながら同意見だと口にする。そこでファスが頷きながら言う。


 「まあ、あたしもそう思うぜ。だからラースが本気を出す時ってのは、マキナになにかあった時だろうな。ま、なにも無いのが一番だけどな」

 <まったくだ。ラースが世界を亡ぼすなど見たくはないな。さて、私達も準備に漏れが無いか再確認だな>

 「ああ、修行しながら旅だな。エバーライドか……楽しみだ」

 「僕もミルフィに挨拶してこないとね、出発は三日後でいいんだっけ」

 『そうだよー! 戻ってきたらアイナちゃんとティリアちゃんと遊ぶ予定だから、早く帰らないとね。ティリアちゃんはエバーライドへ先に行ってるけど』

 「あー、ベルナ先生もよく連れて行ったよな……」


 そんな話をしながらリューゼ達は町中へ戻り、三日後出発を果たす。しかし、その二日後――


 「さぁて、アタシ達も出発ねえ♪」

 「うん! まさかオラ達も行くとは思わなかったけどー」

 <アイナはわしに任せておくのだ、気を付けてな>

 「はい。父さん、母さん、行ってきます」

 「ああ、陛下にはあくまでも影でと言われているから、無理は絶対にするなよ」

 「うん。ラース達の方が危険だし、新婚旅行だと思って楽にやるよ」


 ――極秘裏に動いていたヘレナ達がガストの町を出発する番になっていた。


 「ま、デダイトもノーラも学院時代では成績が良かったし、本格的な戦争じゃなければなんとかなると思っているけどね。それに……」


 マリアンヌが馬車の荷台に目を向けてため息を吐いてから続ける。


 「……あの人達が居れば安心は安心かしら?」

 「あはは、まあね。僕もノーラもヘレナさんも装備はいいものをもらっているし」

 「オラ、こんなに鎧とか着けたの初めてだよー! デダイト君もカッコイイー」

 「アタシも、サージュ装備以外にもらったしラディナ達も居るからその辺の雑魚は相手にならないわよう♪」

 「ぐるう♪」

 「わん!」

 「ノーラのテイマー資格があっさり受理されるのも驚いたけどな」


 ローエンが苦笑しながらラディナを撫で、すぐに真顔になりデダイトとノーラを抱きしめた。


 「……必ず戻ってこい。死んだりしたら許さんからな」

 「うん。それじゃヘレナさん、行こうか」

 「はぁい。おじさま、おばさますみません、お二人をお借りします!」


 そしてラディナの引く馬車はゆっくりと進みだす。目指すは……ベリアース。ラースとマキナの居る場所へ。


 「……ヘレナさんはどうしてこんな危険なことを?」

 「うーん、やっぱりラースに恩返し、かな? アイドルの切っ掛け、衣装、サンディオラ……色々と借りは多いしねえ」

 「実は好きだったのー?」

 「……さあ、どうかしら♪ 戦いは頼むわねえ」


 ノーラの問いを誤魔化すように、荷台の奥に座る人影に声をかけると、


 「……」

 

 人影は小さく頷いた。

 

 ――こうして、使命をもったメンバー達は全員旅立つ。波乱となる、他国での戦いへ……

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