~幕間 17~ ラース旅立ち後①
――ラース達が旅立ってから三日が過ぎ、ルシエール達の準備も着々と進んでいた。
「ルシエールちゃん、わたしの薬草も持っていこうと思うんだけどぉ」
「あ、いいですね! ラース君が出発したから私達も急がないとですね。レオールさん、馬はお任せしていいんですか?」
「いいよ、それにしてもみんなカップルや夫婦として行くんだね、ははは、羨ましいなあ」
メインの行商人になるルシエールとレオール、それと大人であるベルナが馬車に荷物を積みながらそんな話をしていた。
後から合流したレオールは行商人組の頭取ということで話が決まっていたが、ペアが多いので冗談を口にする。
「レオールさんはいい人いないんですか?」
「うーん、僕は各地に自ら足を運んで売り買いをしているから一緒になってくれる人が中々ねえ。誰か居たら紹介して欲しいよ」
「難しいわねぇ。知っている人で独身っていたかしら?」
「他のクラスの子ならいるけど……」
「ははは、気にしなくていいよ。まあ、どこかの国で見つけられるかもって感じで旅をしているのもあるし」
「不謹慎だけど、エバーライドで見つかるといいわねぇ。お馬さん、よろしくね」
「おうまさんいっぱいだねママ!」
ベルナとティリアはレオールの特殊な馬車に荷物を積み込んでいく。積載人数に問題は無いがとにかく重いため馬は四頭用意していたので、ティリアは両手を上げて喜んでいた。
そこへジャックとシャルルが合流する。
「よう、遅くなっちまったけど俺も手伝うぜ!」
<ごきげんよう、皆さま>
「あ、シャルルちゃんにジャック君! お願い、まだ木箱が残っているの」
「オッケー! ……って、この車輪についているのってゴムか?」
「そうだね、ラース君が急ピッチで悪いけどって言ってたけど『タイヤ』って言うらしいよ。これがついていたら馬車がスムーズに動くらしい」
レオールが『これも売り物になるよ』と苦笑しながら言う横でジャックが荷物が詰まっている荷台部分を押す。
「おお、簡単に動くな……」
<本当ですわね、これなら馬でも苦労が少なそうです>
「あいつ馬とか魔物にも優しいから、荷物が多いってんで考えたのかもな」
「あは、それがラース君のいいところだもん」
「……そうね、だからルシエールはラースが好きなんだもんねえ?」
「ひゃあん!? ヘ、ヘレナちゃん?」
タイヤの動きを確かめていると、ヘレナが耳元で囁かれたルシエールが飛びあがって驚いていた。
「はぁい、ルシエール達もそろそろ出発かしらぁ?」
「びっくりしたよ、もう……。うん! 明日には出られると思う。……ラース君に言われているから一応釘をさしておくけど、連れて行けないからね?」
「うふふ、大丈夫よぅ」
「はは……」
ヘレナは一瞬レオールに顔を向けて微笑むと、レオールが困った顔で肩を竦め、そそくさと積み込みに戻っていった。それを見ながらヘレナは目を細めて続ける。
「気を付けてねぇ? 戦える人は多いみたいだけど他国って色々わからないこともあるし」
「ま、戦いはベルナ先生やウルカとオオグレさん、それにヴィンシュで、折衝はレオールさんかルシエールって役割を決めているからボロが出ないように気を付ければいいんじゃねえかな。リューゼ達は戦力抜群だし」
「うんうん、無事に帰ってくるまでが潜入だものねぇ」
「いや、遠足じゃないんだから……っと、そういえばウルカは?」
「ミルフィと会っているわよぅ、だから出発日が分かったんだけど♪ それじゃ、アタシの代わりにこれを持って行って」
ヘレナはバスレーのようなことを言ってジャックから呆れられるが気にした風もなくルシエールに髪飾りお渡す。
「これ……!?」
「アタシがAクラスを離れるときにみんなで買ってくれた髪飾りよぅ。お守り代わりに、ね?」
「……うん、ありがとう! 絶対無事にみんなで帰ってくるから!」
「ったく、お前もちゃんとアイドルしながら待っていろよ?」
「ええ。それじゃ、アタシ行くわねえ。ここに居たら行きたくなっちゃうし」
「お姉ちゃんはいかないの?」
一歩下がるヘレナにティリアが声をかけると、ティリアの頭を撫でながら柔らかに笑う。
「うん、ティリアちゃんは行くのよねえ。誘拐されないよう気をつけてねえ」
「はーい! 知らない人についていったらダメだもん!」
「うふふ、ティリアはちゃんとわたしとティグレが教えていますからねぇ!」
「さすがベルナ先生ね♪ それじゃ、戻るわ。ウルカにも言っておくわねえ」
「よろしくな! ……それじゃ、続きを――」
作業に戻るジャック達に顔を少しだけ振り返らせ、目を細めて笑うヘレナは――
「……さて、レオールさんは大丈夫みたいだし、後は強い人を探さないとねえ。誰か居ないかしらあ?」
――レオールと共に国王へ出立することを許可してもらい、ヘレナは独自で行動することにしていた。
しかし、同行を依頼する人間を考えると戦闘に長けた者が欲しいと顎に手を当てて考えていて、誰がどこへ行くのか調査しているのだった。
「手の空いていそうなのはもう居ないわねえ……ノーラ達夫妻は強いし、ラディナ達も連れて行けるけどもう一声欲しい……」
顎に手を当てたヘレナがそう言うと、建物の影から声がかかる。
「へい、そこのお嬢さん! なにやらお困りの様子。このわたしに話してみちゃいかがですかね!?」
「あ、あなたは!?」
そして――
「まさか陛下の命令で旅立つことになるとは思わなかったよ」
「オラびっくりしちゃった……」
「バックアップがメインだから大丈夫だと思うけど、気を付けてね」
「うん、ノーラがテイマーの資格を持ってるからラディナとシュナイダーも行くし、他にも強い人を連れてくるらしいよ」
「ヘレナちゃんもアイドルのお仕事があるのによく決めたよなあ」
アーヴィング家ではヘレナのお願いでエバーライドへ行くことになったデダイトとノーラが準備を進めながそんなことを話していた。
ヘレナが国王へと進言したのは、ラース達も知らない部隊をひとつ作ってバックアップできないかというものだった。
彼女はサンディオラでの惨劇が福音の降臨であること、そしてそのせいで父親が死にかけたことを無視しておらず、確実に教主と組織を潰すために協力を申し出たのである。
「城の大臣が一人ついてくるって言ってたし、ヒッツライトさんはエバーライドなら旅人にはそれほど悪い待遇じゃないらしい。福音の降臨にだけ気を付ければ大丈夫そうだけどね」
「テイマーとダンサーだから旅芸人っぽいけどねえ」
マリアンヌが困ったように言ったところで、庭に知った声が響いた。
「こんにちはあ♪」
「あ、ヘレナちゃんー!」
「こっちは準備オッケー、リューゼは明日旅立つから、アタシ達はその次の日に出ましょうかあ」
「分かった。それじゃ、直前でラディナ達を迎えに行こう。アイナが寝ている間にね」
その言葉にヘレナは笑顔で頷く。これで準備は整った、と。
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