第五百三十一話 遠いベリアース王国


 テイマー施設の候補を決めた俺達は閉園時間になったので魔物の園を閉める準備を始めると、マキナが俺の袖を引っ張って広場へ呼ぶ。


 「そうだ、雪虎達の様子を見てあげてよ。久しぶりに会ったからかもしれないけど、子雪虎が物凄くはしゃいでたの。師匠がずっとデレデレしてたわ」

 「言わなくていいマキナ! ……可愛いんだから仕方ないだろ」

 「そういやファスさん家に居た時も結構構っていたよね、猫が好きなの?」

 「すばしっこいのがあたしに似てるからかなあ。子猫はか、可愛いしな。ほら、あたしのことはいいから行ってこい! ドラゴン達はこっちで相手をしておいてやる」


 ファスさんが俺とマキナの背を押し、後にヨグスがついてくる。


 「僕も見せてもらおうかな、色々な魔物が居るのはとても興味深い」

 「もちろん! 今日は助かったよ、夕飯も俺がご馳走するから家に来てくれ」

 「それは楽しみだ、ガストの町奪還作戦の野宿では世話になった」

 「ここだと材料もいっぱい買えるし、なにを作ろうかな」


 バスレー先生が嗅ぎつけて来るならハンバーグだろうけど、ビーフシチューもいいかもしれないな。ドラゴン達はやっぱり肉が好きだしでかい鍋で一気に……そんなことを考えているとヨグスが奥へ歩いていき、俺とマキナは雪虎達が居る冷えた厩舎へと向かう。


 「にゃーん♪」

 「ぐるる」

 「ぐおおん」

 

 俺に気づくと三頭が早速俺に近づいてきて頭を擦り付け、子雪虎は抱っこをせがむので抱え上げてやる。

 

 「おっとっと……元気にしてたか? あんまり来れなくて悪いな」

 「にゃん!」

 「よしよし、お父さんもちゃんとその体型を維持しているな」

 「がう!」

 

 俺が撫でてやると父雪虎は得意気に尻尾を振りながら一声吠えたその姿は一時期の体たらくに比べれば堂々としたものだと苦笑する。

 

 「また俺達は旅に出るからしばらく戻ってこれないけど、ちゃんとお客さんを怖がらせたり、楽しませてあげてくれよな」

 「ぐるる……」

 「にゃーん……」


 そこで寂しそうな声を出す母と子。俺は二頭に頬ずりをして安心させてやると、舌を出して頬を舐めて応えてくれた。


 「また帰ってきたらアイナ達と遊ぼうな。時間があったら出発前にまた来るよ」

 「ばいばい!」

 「にゃーん……!」


 とりあえず元気な姿が見られて良かったと厩舎を後にする俺とマキナ。子雪虎を降ろして扉を閉めると寂し気な鳴き声が聞こえてくる。


 「……ねえ、まだ王都に居るしチビちゃんだけでも連れて帰れないかな? アッシュとも会わせてあげたいし」

 「うーん、あんまり甘やかさない方がいい気もするけど……まあ一日くらいならいいか?」

 

 マキナが手を合わせて頼んできたので俺は頭を掻きながら扉を少し開けると、子雪虎が勢いよく出てきて俺の足にしがみついて来た。


 「にゃん♪」

 「連れて行くけどいいか?」

 「ぐる」

 「がう」

 「いいみたいね♪ それじゃ、お店が閉まらない内に行きましょうか」


 魔物の園は子供が出来たら一緒に過ごすし、たまには夫婦だけの時間というのも必要かもと自分を納得させて子雪虎を抱いてヨグスを探しに歩きだす。

 

 「あ、いたわ」

 「おーい、ヨグスどうだ?」


 「……むむ、この炎は魔力で出し入れできるのか……」

 「がうがう」

 「脱皮した皮は魔法に耐性があるんだな、だけど見つけるのは至難の業だぞ」

 「ギチ……」

 

 あちこち移動しながら魔物を【鑑定】しているようで、なんか面白いことを呟いていた。俺達には気づいていないようなので近づいて肩を叩くと珍しく満面の笑みでヨグスが振り返った。


 「楽しそうだねヨグス」

 「ああ、ラース! いやあ、ここは凄いな! どの地域の魔物もちゃんと飼育されていて、人間に懐いている。僕としては他の地域に行くのも難しいし、凶悪な魔物を鑑定できるのが嬉しいね。このキングビートルが脱皮した皮は魔法防御に優れているらしい、ローブに縫い付ければ――」


 ヨグスは上機嫌で興奮気味に俺とマキナへ鑑定した結果を口にし、短い時間ながらメモを取りまくっていたらしく俺の【簡易鑑定】程度じゃ分からない知識を披露してくれ、楽しんでもらえてよかったと思う。


 その後、商店街方面で食材を買い、ドラゴン達にお金のことなどを説明しながら自宅に戻って夕食を食べて解散……となるかと思ったらドラゴン達はウチの庭で寝転がって休むと言い出した。


 「にゃーん♪」

 「くおーん♪」


 「庭で寝泊りするくらいなら島に戻ればいいのに……」

 <この風呂、なかなかいいではないか。私達用にファスの小屋みたいなのを作れないか?>

 「この時間は無理だしラディナとシュナイダーのスペースが無くなっちゃうよ。というか裸でも気にしないのはやっぱりドラゴンなんだなあ」

 <なんじゃ?>

 「こっちの話。とりあえず時期的に寒くはないから野営セットを出すか。リビングでもいいし、部屋あるんだけど、本当に庭で寝泊りするのか?」

 

 アッシュと子雪虎がじゃれ合っている庭をチラリと見ると、ヴィンシュが笑いながら口を開く。


 <僕はリビングに行きますよ。ドラゴンは巣を作りますが家を持ちませんから、こんなものですって>

 「うーん、ドラゴンが庭で生活か……」


 まあ、本人たちがいいなら大丈夫かと俺はテントを用意してその日は終わった。

 ヨグスもベリアース王国についてくると言い出したけど、色々話した結果、リューゼ達エバーライド組に入ってもらうことになった。


 それはさておき翌日。

 木陰やテントで若干正体を出して寝ているドラゴン達を置いて俺とマキナはガストの町へ行き、ルシエラとご両親に話しをすることに。


 「――というわけで、魔物の園で働いて欲しいんだ。給料はこれくらいで、王都行きの通行料はこっちで持つ」

 「私が? ルシエールじゃなくて」

 「ああ、ルシエールのスキルは商人としての能力だけど、ルシエラの【増幅】は応用が利くし、お金と気が強くて魔物を怖がらない商売人の娘だからいけると思うんだ」

 「ラース君にそこまで言われるなんて、お姉ちゃん凄いね!」


 ルシエールが手を合わせて喜ぶと、ルシエラは腰に手を当てて鼻を鳴らして口を開く。


 「ふふん、まあ私ならそれくらい容易いけど!」

 「それじゃお願いできるかな?」

 「いいわ、明日からでいい? 今日はちょっと品出しを手伝うから」

 「ああ、今日はヨグスが手伝ってくれているから大丈夫だ」


 まだ見たりないとかでタンジさんに頼むらしい。

 それならヨグスが、とも思うがエバーライド行きが決まっているためここはルシエラが安定だろう。一応、ルシエラも休みは欲しいと思うので、予算に余裕はあるから他にも手伝いたい人が居たら声をかけてと言ってある。


 「ふう……」

 「良かったわね、引き受けてくれて」

 「まあね、でもソリオさんにはまいったよ……」

 「ふふ、まさか『姉妹を嫁にしてくれるのかと思った……』とか言われるとは思わなかったわよね」

 「ああ……」


 最初にそわそわしていたからどうしたんだろうと思っていたけど、本当にびっくりした……ルシエールは苦笑いでルシエラは顔を赤くして頬を膨らませてソリオさんを叩いていた。


 さて、とりあえずこれで後は国王様に話をするだけかな? リューゼ達も呼んで細かい日程調整を行わないといけない。ベリアース王国

 劇場にも挨拶をしたいけど、ヘレナがついてくると言い出しそうだから顔を出さないでおこう。


 そう思っていたんだけど――

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