第五百三十二話 最後の調整へ
――ベリアース王国へのアプローチをする指針が決まり、予期せぬ混乱を招くところだった魔物の園もルシエラという心強い味方のおかげで事なきを得ることができた。
なので次の行動はリューゼ達との打ち合わせをするため、昨日はあちこちを回って主要人物に声をかけて回り、今から城へと向かう予定となっている。
ちなみにエバーライドへ行くためにノウハウを教えて貰うため探しているレオールさんは少し前に王都に居たらしいんだけど、俺がガストの町へ行っていると聞いて一度去ったらしい。一度話をしておきたいから出発前に会っておきたいんだけど、数日後にまた王都に来るらしいからその時かな。
「さて、それじゃそろそろ行こうか」
「うん! 先手必勝ってやつをするなら、早く動いた方がいいもんね。バチカル達もそう言っていたし」
「ああ、エバーライドはベリアース王国と距離が近いらしいし、なにかあったらあたしが行くからな! とは言ってもラースは強いから心配はしてないけど」
「まあ、油断しないようにするよ。……レッツェルもバチカル達も完全に信用しているわけじゃない」
俺がそう言うと、マキナとファスさんは神妙な顔で頷いた。いくら俺でも彼らをはいそうですかと受け入れるには確執がありすぎる。
例えばリリスに対するバスレー先生は言い過ぎだったりやりすぎのように見えるけど、サンディオラが混乱したのはアイーアツブスとして暗躍していたリリスのせいなのだから仕方ないと思う。
<こいつは連れて行くのか?>
「くおーん♪」
そんなことを話しつつ三人で準備をしていると、庭からアッシュを抱っこしたロザが話しかけてきたので、俺は庭に顔を出して声をかける。
「アッシュは悪いけど今日もお留守番だよ。連れて行っても城の中まで入れられないからね。我慢できるよなアッシュ?」
「くおーん……。くおん!」
「アッシュが分かったって言ってるよ!」
「よし、いい子だ! 美味しいものを買って帰るからな」
セフィロが笑顔で代弁し、俺が撫でてやると短い尻尾をピコピコと動かしながら鼻をすり寄せてきたのでロザから引き取り話を続ける。
「ドラゴン達も行くなら早くしてくれよ、みんなを待たせるわけにはいかないし」
<うむ。わしらはもう大丈夫だ>
<行こうではないか>
木に引っかけていた上着を羽織ってボーデンとジレがそれぞれ声を上げたので、俺は苦笑しながらアッシュを降ろして庭から外へと向かい鉄柵を閉めるとアッシュとシュナイダーとラディナが見送ってくれ、俺達は城へ向かって歩き出した。
「ま、ボーデン達は用意するものもないか」
<うむ、そのまま来たからのう。それより、アイナ達が遊びに来んではないか>
「アイナはガストの町だから仕方ないよ。あまり自由にここへ来させると、色々大変になるから父さん達が止めていると思うよ」
「ラースとアッシュが大好きだからむくれているかもしれないわね。サージュが居るから大丈夫だと思うけど」
<まあ、これが終わったらその町へ行けばよいではないかボーデン>
<いつになるやら……>
ボーデンが肩を落とすのを見て、俺はふと思ったことを口にする。
「サージュがロザと夫婦で俺達についてくるなら、ガストの町が手薄になるか。ボーデンにはガストの町に居てもらうのもいいかもしれないな……」
<え、わしはそれでもええぞ。敵地に潜入するお主らは気になるが、まあラースじゃしなんとかなるだろ。ジレとロザ、ヴィンシュも行くからジジイは孫と遊ぶわい>
「いや、ボーデンの孫じゃないからな……?」
俺は当然のことをボーデンに言うが、本人はどこ吹く風のようだ。
だけど、教主がこちらの意図に気づいてこちらの説得に応じない悪魔をこちらに寄こすことを考えると、ドラゴンを残しておくのは正しいかもしれない。王都は強い人もいるけど、ガストの町の冒険者だけだと圧倒的に数が足りない。
「ま、あたしとしてはボーデンをガストの町に残すのはアリだと思うぜ。ジレとヴィンシュはあたしと行くか王都に残る、どっちかだね」
<やっぱり他の国や町も見たいし、同行したいと思うけど>
ヴィンシュが周囲を見渡しながら素直な意見を口にしたので、ボーデンだけ残って貰うことになりそうだなと苦笑する。
「やあやあ、皆さんお揃いで! 一緒に行きましょうか!」
「あ、バスレー先生。待ってくれてたんだ」
家の前で待っていたバスレー先生に声を掛けられ、後ろに立っていたレッツェルとバチカルも口を開く。
「さて、今日は最終調整といったところですかね?」
「ああ、主要メンバーはほぼ全員集めているから、ベリアース王国へ行く日程は決められると思う。問題はエバーライドだな、レオールさんに行商人に扮するためのレクチャーをお願いしないといけないし、ドラゴンが来たから実際誰が行くか選定をし直さないといけないんだよ」
『ふむ。まあ、メインはベリアース王国だからまずは我々のことが決まればいいのではないか?』
『いやあバチカルよ、エバーライドは半分教主サマが入り浸っているから抑えられたら面倒になるぜえ? ラース達を受け入れた後、ベリアースに置くかエバーライドに置くかは帰ってみねえと分からねえ』
『なるほど』
エーイーリの言葉にバチカルが顎に手を当てて考え始めると、リースが俺の背中を叩いて来た。
「ボク達も居るしなんとかなるさ。バスレー先生は来ないんだっけ?」
「ええ、それよりもリースちゃんとイルミは残っていてもいいんじゃないですか? 戦闘能力で見ればそれほど強くありませんし、いざってときに人質になられるのはちょっと面倒だと思うんですよね」
「ああ、イルミはお留守番だよ。色々あってね」
「色々……?」
「うるさいわね、いいじゃない足手まといが居ない方が」
俺が尋ねるとイルミはバツが悪そうな顔で口をへの字にして無言を貫いていたため俺達はそれ以上込み入った話は聞かなかった。
なんだかんだでイルミとリースには仲間意識があるみたいなのでレッツェルが止めたんだろう、不思議とは思わない。イルミはミズキさん達冒険者を抑えるくらいの実力はあるけど、搦め手が得意なだけなので正面からの打ち合いはそれほどじゃないしね。
『私はどうするべきかしらね、正体を出しちゃっているからどこにも行けないわよ?』
「それは考えてあるから大丈夫だ、とりあえず到着したし会議室へ行こう」
「ああ、あれね」
マキナが珍しくほくそ笑むのを見ながら、俺達は城へと入っていく――
◆ ◇ ◆
――一方ラース達が家を出て少ししてから……
「おっはよ~♪ ……って誰も居ないのぉ? まさかもう出かけたとか? ううん、ウルカは二日前劇場に居たし、まだ出ていないはずよねぇ」
「くおーん?」
「あ! アッシュじゃない、アンタがここに居るってことはまだ出ていないわね♪」
――ヘレナがお忍びでラースの家を訪ねてきていた。以前話していたエバーライド行きを諦めていないらしく、アイドルであるミルフィの彼氏であるウルカの動向を探りつつ同行する機会を狙っているのだ。
さらに訪問者が現れる。
「わーい、アッシュ!」
「あれ、ヘレナだー。どうしたのこんなところでー?」
「ノーラじゃない、あんたこそどうして?」
「オラはサージュとお義父さんが城に行くからって来たんだよー。アイナちゃんが泣くからとりあえずアッシュと一緒にって。デダイト君に鍵は預かっているからおうちにはいるー?」
「フフ、そうねぇ。お邪魔させてもらおうかしらぁ」
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