第五百二十六話 久しぶりの自宅


 「ただいまー」

 「おかえりなさいラース。アッシュも」

 「くおーん♪」

 

 両親に報告をした日の夕方、俺は王都の自宅へ戻り玄関で声をかけるとマキナが出迎えてくれ、足を拭いてやったアッシュを抱っこすると後から誰も続かないことに気づいて首を傾げて尋ねてくる。

 

 「あれ、アイナちゃんは?」

 「向こうに居るけど? 屋敷が無事に戻ったんだから向こうで過ごしているよ」

 「そうなんだ、アッシュが帰ってきたから一緒だと思ったのよ。大丈夫?」

 「……まあ、遊び疲れて寝ている間にこっちに来たんだ。後から大変なことになるかもしれない。けど、サージュも向こうに居るし、なんとかしてくれるよ」

 「大丈夫かなあ。あ、師匠、ラースが帰ってきましたよ」

 

 リビングに行くとファスさんが飲んでいたお茶を置いて俺に手を上げて笑いかけてくれる。ソファにあぐらをかいているので少々行儀が悪い気がするけど……。


 「おう、戻ったか! ガストの町が片付いて良かったな。まあ、みんな帰って寂しくなっちまった気もするけど。おー、アッシュおかえり」

 「くおん!」

 「父さん達や友達がいっぱい来てたからね。騒がしかったと思うけど、居なくなると寂しい気はするよ。それよりその口調、直らないんだ?」


 ファスさんがアッシュをマキナから預かって撫で回しているのを見ながら尋ねると、ファスさんはアッシュの背中に顔を埋めてため息を吐いてから言う。


 「ああ、まだ興奮状態が続いているらしいね。自分では気分を落ち着かせているつもりなんだけど、まだまだあたしも修行が足りないよ」

 「年相応だから私はいいと思うんだけどね。技も鋭いし」

 「まあ、若返った分まだ強くなれそうだからいいっちゃいいけどね!」

 

 そう言って笑うファスさんに苦笑しながら俺も椅子に座ると、お茶を持ってきたマキナが今度は俺に尋ねてくる。


 「はい、ラースの分ね。……とりあえずベリアース王国に行くことは決まったけど、すぐにアポスを懲らしめるの?」

 「そうだね……って、物騒すぎるよマキナ!? まあ、その話をバチカルとするため夕方だけど戻って来たんだ。向こうではエバーライドとベリアースの距離を確認するのと戦力、他の十神者について調査するつもりだ」

 「距離を?」

 「うん。ベリアース王国で騒ぎを起こすと、エバーライドから援軍が来る可能性があるだろ? だから先にエバーライドを取り返すか、援軍が来る時間を計算しておきたいんだ」


 悪魔達はアポスに手を出せないけど、俺達は倒すことが可能だけど、逆に言えば悪魔達を頼れない以上、こっちの戦力はかなり少ないので暴れるのは都合が悪い。

 もうひとつ懸念点があって、マキナ達やバチカル達には言っていないけど、悪魔達がアポスに操られることも視野に入れておかないといざという時に痛い目を見ると考えている。


 「あたしが行ければいいんだけどね」

 「ファスさんはエバーライドの奪還の方がありがたいかな。ティグレ先生も行って欲しいけどヒッツライトみたいに顔を覚えている人だっているかもしれないから、ベリアース王国の兵士が駐留しているエバーライド行きは止めてもらったんだ。だから先生と同じくらいの強さをもつファスさんがリューゼ達の引率であると安心するってこと」

 「ん、分かったよ。リューゼ達も面白いやつらだし、しっかり守ってやる」

 「頼むよ。とりあえず今からそのあたりの話をするためバチカル達のところへ行くけどどうする?」


 お茶を飲みほしてから椅子から腰を上げて二人に質問すると、


 「もちろん行くわよ! あの悪魔二人とはあまり話していないし、これから一緒に行動するから人柄を知っておきたいわ」

 「あたしもね。ちょっと手合わせしたいんだけどどうかな?」

 「町の外ならアリかもしれないけどね。ドラゴンくらいの強さはあったよ」

 「ふーん、それじゃ支度するわね♪」


 是非ともといった調子で二人とも乗り気で立ち上がり、出かける準備をするため部屋へと戻っている間に俺はアッシュと一緒に庭に出てラディナ達の様子を見に行くことにした。


 「おはようラディナ」

 「ぐるる」

 「くおーん」

 「留守番するかアッシュ? たまにはお母さんと一緒に居てやれよ」

 「くおん」


 俺の言葉に反応したアッシュは飛び降りてラディナのお腹に乗ってゴロゴロと顔を埋めて甘える姿を見て、久しぶりに親子の団欒を見た気がする。


 「お風呂も入れておくから留守番頼むぞ。シュナイダーは散歩がてら行くか?」

 「ぐる!」

 「わん!」


 シュナイダーはちょっと大きい犬みたいな感じだからラディナと違って連れて歩いても問題ない。魔物の園に行くつもりでもあるため丁度いいかと思ってチョイスした。


 「……」

 「お前は……いや、いい。留守番頼むぞ」


 サンドタートルが足元に来てなにか言いたげだったが、俺はそっと丸太椅子の上に置いて庭から外に出ると、丁度マキナとファスさんも着替え終わって出てきたところだった。

 

 「それじゃ行こうか、鍵はかけたかい?」

 「うん! んー、いい天気ねー。あら、今日のお供はシュナイダーなのね」

 「おん!」

 

 尻尾を振るシュナイダーの頭を撫で、俺達はバスレー先生やレッツェルの居る家へと歩きだす。とはいっても近くなのですぐ到着するんだよな。

 そんなことを考えながら歩いていると、通りが騒がしいことに気づく。


 「あんたらどこから来たんだい? お金を持ってねえって」

 <うむ、遠いところから知り合いを尋ねて来たのだ>

 「知り合いが居るのか? なら、その人に立て替えてもらうから家を教えてくれ」

 <それがずっと探しているのじゃが見つからないのだよ>

 <ラースやマキナ、ティグレと言った名前に心当たりはありませんか?>

 「ラースだって……!?」

 

 おじさんが俺の名を呼んで驚きの声をあげたので、慌てて人だかりに寄っていく。


 「私の名前も出たわね、というかこの声って――」

 「あ!?」


 俺やマキナの名前が出てきて人だかりの場所へ行くとそこにはなんと――


 「ロザじゃないか!?」

 <おお、噂をすればだな。すまない、お金というものを貸してくれないか?>

 <ふん……なんとかなったな……>


 ――串焼きを大量に口に入れたロザ達人化したドラゴン達が立っていたのだ……なんでここに……?

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