第五百二十七話 ポンコツドラゴン達、惨状!


 バチカル達に話をしに行く途中の道で出会ったのはまさかのドラゴン達だった。どうしてここにと思考を巡らせるが、その前に目の前の事態を解決すべく俺はおじさんに声をかけた。


 「……いくらですか?」

 「本当にラース様の知り合いだったのか。串焼き五十六本で五千六百ベリルになるよ、代わりに払っていただけるんで?」

 「まあ、見過ごすわけにはいかないですからね。これで」

 「ん、ちょうどだな。おめえら、あんまりラース様に迷惑かけるんじゃないぜ?」

 <心得ている>


 フリーズドラゴンが串焼きを咀嚼しながら頷き、おじさんが立ち去ったのを見て野次馬たちも『なんだラース様の知り合いか』と離れて行った。前にもあったけど酷くないか……?

 それはともかく、ドラゴン達がここに居る理由を尋ねなければ。


 「ロザ、どうして王都に居るんだ?」

 <転移魔法陣とやらで来たのだ>

 「……聞き方を間違えた、どうして島から出てきているんだって話だよ」

 「それにロイヤルドラゴンさん以外はみんな来ているみたいだし……」

 「人間嫌いじゃなかったっけ?」


 マキナも腰に手を当てて呆れた声を出し、セフィロも首を傾げてドラゴン達を見渡していると、グランドドラゴンが串焼きを飲み込んで口を開く。


 <いや、ワシらもお主達の力になろうと思いロイヤルドラゴンに話をしてこちらに来たのだ。修行したお主らが死ぬとは思えんが、万が一があったらとやはり気になってのう>

 「そりゃありがたいけど、あれから何日経ってると思ってるのさ? あたし達はもう第一波を終わらせたんだけど」

 <まあ、そうですよねえ……>


 ストームドラゴンが肩を落としてため息を吐いてから事情を説明してくれたんだけど、俺達が島を出てから数日経って手助けをしようと話し合いで決め、準備に手間取って今朝到着したのだとか

 

 「ありがたいし嬉しいけど、どうしてこんなに遅くなったんだ? 準備って言ってもこっちに来るだけじゃないか」

 <素材を手に入れるのに手間取ってな、ほら土産だ>

 「え?」


 フリーズドラゴンが担いでいた袋を広げると、そこには大量の牙と爪が入っていた。


 「これ、まさかドラゴンの牙と爪!?」

 <ちっと痛かったが頑張って抜いたんじゃ! 生え変わるのに時間を要してのう、人化した時に歯抜けじゃかっこ悪かろう! うわっはっは!>

 <ま、そういうわけで時間がかかったの。間に合わずに悪かったわね>

 「い、いや、いいけど……これ凄いな……何人分作れるんだ……? と、とりあえず移動しよう。まだ目立ってるし。というか素材よりも来てくれた方が……いや、今後の戦いに必要だしこっちの方が……」


 腑に落ちないものを感じながら呟いていると、串焼きを平らげたストームドラゴンが背後から声をかけてきた。


 <ふう、美味しかったけど量が少なかったかな。ところでラース君、第一波と言っていましたがまだ戦いは終わっていないと?>


 一人で10本くらい頬張っていたのに足りないのか……まあそれはともかく、俺は首だけ振り返りながらストームドラゴンに答える。


 「むしろこれからだよ、その件について話し合いをするため出かけたんだ」

 <なるほど、では一緒にいこうか。……そういえばサージュは居ないのか?>

 <アイナもティリアも見当たらんようじゃが>

 「サージュとアイナちゃんは元々ガストの町に住んでいるからここには居ないわよ? 奪還するために戦ってたんだもの」

 <えー……ワシ張り切って来たのに……>

 「あたし達手伝いに来たんだろ? さっさと行くぞ!」

 <まさかリューゼ達や姉妹も居ないのか?>

 「そうよ、あの島に行っていたメンバーで王都に居るのは私達とミルフィだけじゃない? あ、ヘレナも一回だけ行ったんだっけ」


 マキナの言葉にドラゴン達は見るからにガッカリした様子で黙り込んでしまった。冷静そうなロザやフリーズドラゴンも複雑な表情をしているので、あの修行はよほど楽しかったらしい。

 後でガストへ案内してやればいいので、とりあえず最初の目的を果たすべくレッツェルの屋敷へと向かう。


 「ラースだけど、バスレー先生居る?」

 「はいはーい! ご飯のおとどけですか!?」

 「うわ!?」


 まるで扉の向こうで待っていたかのように声をかけた瞬間玄関が開いて後ずさり、目を輝かせたバスレー先生に現実を教えてやる。


 「いや、朝はもう食べてきたよ。バチカル達は起きているかい?」

 「朝食抜き!? そんな子に育てた覚えはありませんよ!?」

 『なんと!? バスレーが『ラースが来る』というからご飯を食べずに待っていたのにっ! この母を飢え死にさせる気ですかねえ……イシシシ……』

 「いや、勝手に母親面されても困るよ……昼ごはんはなにか作るからとりあえず話を先にさせてもらいたいんだけど」

 「どうぞ』

 「相変わらず変わり身が早いわね……」

 

 バスレー先生がサッと道を開けてくれうやうやしく頭を下げてくるのを見て、悪魔達と対等に渡り合える姿が全く想像できない。リューゼ達が言うには物凄い力らしいけど。

 

 疲れるから早く中へ入りたいんだけど、そこでロザが余計な一言を発する。


 <見たことが無い顔ということは島には来ていない者か、妙な女だ>

 「おうおう、そこの美人なお姉さん! 言うに事を欠いて妙な女とはご挨拶ですねえ? 表へ出なさい!」

 「落ち着けバスレー、ここは外だ。ロザも挑発すんな、こいつは『現状』あたし達と肩を並べるくらい強いんだぞ」


 ファスさんがいきり立つバスレー先生を抑えながらロザにそういうと、眉をわずかに動かしてから口の端を上げて笑う。


 <へえ、面白いじゃないか。後で私と手合わせ願おうか>

 「望むところですよ! 今からでも――」

 「先生、この人こう見えてサージュと同じドラゴンだから止めといた方がいいよ」

 「ならやめときます! 早く家の中へどうぞ!」

 「誤魔化した!?」

 <なによ!?>


 流石のロザもズッコケてしまうくらい切り替えが早かった。まあ、ロザも挑発したからおあいこだと気にせず中へ。

 リビングまで行くとバチカルとエーイーリーが寛いでいるのを発見し、近づいていくと向こうもこちらに気づき、立ち上がろうとしたのを手で制す。


 「あ、そのまま寛いでいてよ」

 『そうか? ではそうさせてもらおう。それより朝早くからどうしたのだ』

 「ベリアース行きの件だよ、口裏を合わせるのと日程を決めないといけないだろ?」

 『ああ、それな。どうすっかねえバチカル』

 『そうだな、一応考えている計画はある。ここにヒッツライトが捕えられているな? 彼を使おう』

 「あいつを?」


 どうやら具体案はもっているらしいバチカルの計画に耳を傾けると――

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