第五百二十五話 父母、難色を示す


 住人をガストの町へ戻すのにだいたい七日ほどで終えることができた。

 王都に呼ぶ時よりも時間がかかったのは、王都に住み続ける選択肢をする者や、逆にガストの町へ引っ越す者が居たからだ。

 仮設住宅も気合を入れて作っていたので、普通に住む分には上等なため、ガストの町の家を建て直すために残るなかなか肝の据わった家族も居たりしてややこしかったのもある。


 「ナルの部屋も作らねばならない。金はある、家を建て直すまでこっちで暮らさせてくれ!」

 「まあ、建て直しするのはいいけどなあ……」

 「親父、恥ずかしいから止めろよ!? ラースの親父さんになに言ってんだ!?」

 「気が早い人ねえ」


 ……まあ最初に言い出したのはブラオだったりするんだけど。


 それはさておき、家屋についた黒い靄はバチカルに聞いたところ、三人の悪魔がこの世から消え去ったため悪意なども無いようなので塗り直す人はそうする、みたいな感じだ。

 

 で、転移魔法陣は国王様の意向で残すことに。

 王都とガストの町に専用の厩舎を設けて、通行料を支払うことで行き来できるようにした。

 タダで通れるように、と言ったんだけど国王様が『料理と一緒で作成者に還元すべきだ。それと監視にもなる』と返されこのようになった。

 料金の八割は設置者の俺に入って来て、二割は土地代として国庫へ行く。一回百ベリルだからちょっとした息抜きに行き来する人が居ると儲かるかもしれない……。

 ただ、アイナが家に遊びにくるのが大変だなと俺は身震いする……

 そういや魔物の園、どうなったかな? 後で行ってみようかな。


 そんなこともありつつ、なんとか一通り仕事が終わった俺達アーヴィング一家も屋敷に戻り、リビングでくつろいでいるところだ。


 「んー、やっぱり自分の家は落ち着くわね。ラースの家も自宅みたいなもんだけど」

 「ああ。ウチもそうだけど、他の家庭も逃げた時のままだったらしいから良かったよ。王都にもちょっとした金額で行けるようになったし、町としてはかなり優遇された気がするよ」

 「アッシュといつでも会えるね!」

 「くおーん♪」

 「お小遣いはちゃんと残しておきなさいよアイナ?」

 「はーい。ティリアちゃんのお家に行こう!」

 「あ、ダメだぞアイナ。アッシュは俺が一緒じゃないと連れて歩いちゃ」

 「ううー……じゃあ、呼んでくるもん!」

 

 アイナはアッシュを俺に押し付けると、駆け足で外へ出て行った。流石に勝手知ったる町中だけど、心配だ。


 「オラがついていくよー。お散歩してくるねー」

 「ごめんよノーラ、ちょっと父さん達に話があるから頼む」

 「うんー!」


 アイナはノーラに任せてちょうどいいかと、父さん達にバチカル達のこと、それに次いでベリアースのこと告げる。


 「――というわけで俺とマキナはベリアース王国へ潜入することになった。国王様から許可は貰っている」


 渋々だけど、とは言わず両親の反応を伺うと二人とも目を見開いて驚いていた。しばらくの沈黙の後、父さんが首を振りながら俺に言う。


 「……エバーライド行きでも危険だというのに、よりによってベリアース王国だと? 俺は反対だ。お前が強いのは知っている。だが、万が一ということもあるし、なによりファスさんやティグレ先生が行けないのに、マキナちゃんやクーデリカちゃんが行くというのはな……」

 「私もね。ラースがいかないといけない理由がないもの」


 ありゃ……『仕方ないわね』みたいな感じで許可されると思っていたけど、本気で怒っているぞこれ……。

 国王様もいいと伝えたから呆れながらも行って来いと送り出されるかと思ったけど、


 「ちょっと王都に行ってくる、陛下に確認をしてくる」

 「そうね、私もお供します」

 「ちょ、ちょっと待ってよ! 俺は大丈夫だから!」


 国王様に難色を示されているところに父さん達が抗議に出たら間違いなく行けなくなると、俺は慌てて二人を座らせて説得にあたることにする。

 

 「福音の降臨に十神者ってのがいるんだけど、そのトップである二人が協力してくれる手はずになっている。それに戦うのは騎士達が遠征してからになるし、それまでは大人しくしているつもりだよ」

 「……にしても敵の喉元だぞ? サンディオラの話を聞いた時も肝が冷えたのに、さらに上を行く危険度だ。親としては行かせるわけには……」

 「気持ちは嬉しいよ、俺も子供が出来たら多分そんなことはさせられないと止めると思う。だけど、俺には力があるし、十神者の二人も『俺が行く』から協力してくれるんだ、大丈夫。いざってときは転移魔法陣と――」


 俺はインビジブルの魔法を使って姿を消して見せた。

 この魔法を両親に見せるのは初めてで、なぜかと言うといたずらに使ってると思われるのが嫌だったからだ。


 「消えた……。うーん……危なくなったら絶対帰ってくるって約束できる? 自分より先にマキナちゃんやクーデリカちゃんを逃がす。これができると言えなければ行かせられないわね」

 「もちろんだよ。俺になにかあっても、ふたりは無事に帰す」

 「マリア……いいのか?」

 「ま、言っても聞かないでしょうし、黙って行かれるよりはね。サージュも行くんでしょ?」

 <うむ。家を空けることになるが、アイナには上手く言っておいてくれ>

 「そうねえ……あんたが居ないのはこっちが心配だけど……それでいつ出発するの?」

 「母さん……ありがとう。とりあえずこっちがひと段落したし、明日から王都の家に戻ってバチカル達と打ち合わせかな? 教主に近づくにはあいつらがいると楽なんだ。……まあ、完全に信用しているわけじゃないけどね」


 バチカルの案では、ガストの町に攻めたエバーライドの兵士はレフレクシオン王国との小競り合いで戦死か捕虜だというのだそうだ。倒した悪魔三人は倒されたことを正直に話すことで、真実味が増すだろうとも。

 要するに『レフレクシオン王国には悪魔も倒せる人材がいる』ということを知らしめて、実際は懐に居る俺がそうだというオチ、というわけである。


 「今回は一緒に行けないけど、気を付けるんだよラース」

 「分かっているよ兄さん。ノーラ達には内緒にしておいてよ、特にアイナは何をしでかすか分からないし」

 <……>

 「なんだサージュ、黙りこくって」

 <い、いや、なんでもない>

 「?」


 サージュが珍しく慌てて誤魔化したので、俺は訝しむがその理由までは分からなかった。ともあれ、これで心置きなく旅立てると、俺は胸中で安堵するのだった。




 ◆ ◇ ◆


 一方そのころ、王都では――


 <ここが人間の町か>

 <賑やかだな。サージュやラースを探さねば>

 <しかし時間がかかったのう……>

 <準備に時間をかけすぎなんですよ、もう色々終わってるんじゃないですか?>

 <なら町を散策して帰ろうではないか! 酒が飲みたいのう>


 ――物凄く遅れて、ドラゴン達が王都に足を踏み入れていた。

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