第五百二十三話 審議
「眠くなってきたよお兄ちゃん……」
「もうちょっと我慢してくれ、国王様に報告しないといけないからな」
「ほら、手を繋いでいきましょ」
<慌ただしいですわね>
「人間の世界ってのはこんなもんだ」
夜明けと同時にガストの町奪還に参加した主要人物は登城するため大通りを歩いていた。ただ、バチカルとエーイーリーを謁見させるわけにはいかないので、ティグレ先生とファスさんはレッツェル達の家で待機してもらうため途中で別れ、引率はバスレー先生とホークさん、それとアンナさんだ。
「結局悪魔と戦ったのはバスレーとホークだけだったのよね。報告はバスレーに任せるわ」
「そうですね、なんとか倒せたのは僥倖でした。逃げられてもやむなしと思っていましたし……。すみません、陛下とお話したいんですけど朝食中ですかね?」
「バスレー殿! それに皆さんも戻られましたか! すぐに陛下に声をかけますのでお待ちください。会議室でお会いしましょう」
すぐに会ってもらえるということでフリューゲルさんが早足で奥へと下がり、俺達は先に会議室へと向かう。
「いつ来ても緊張するぜ……」
「それより腕は大丈夫かリューゼ? 無理してこなくても良かったんだぞ」
「ああ、一応この通り、指が動くからくっついたことはくっついたぜ。痛みはまだあるけどな。国王様と謁見するなんて早々ねえからな、同行させてくれよ!」
「もう、心配するこっちの身にもなってよね」
「あは、ナルちゃんも大変だね」
「い、いいだろ俺達の問題だし……」
クーデリカがふたりのやり取りに笑うと、俺達もつられて場の雰囲気が和む。そこへリースが口を開いて話し出す。
「ボクのラース君についていってアポスをどうにかするとして、ベリアースはどうする? あの国王は始末しておいた方がいいんじゃないか?」
「始末って……それとラースはあなたのじゃないからねリース? それはともかく、アポスに唆されて悪いことをしているならそこまでする必要はないんじゃないの?」
「甘いぞマキナ君。忘れたか? 元々エバーライドはベリアースが狙っていたということを。あわよくばオーファ、ルツィアール国も攻め入ろうとしていたことを! ……あいた!?」
「なんで嬉しそうなんだよ」
リースが大仰に両手を上げながら何故か楽し気に口走るので、俺が頭を引っぱたいてやった。
そこで、俺達が入ってきた方とは違う入り口から声がかかる。
「その子の言う通り、ベリアースはなんらかの処置を取らねばならん。各国へ戦争を仕掛けてくるような王だ、殺すまではないにしてもこの機に失脚はさせておくべきだろう」
声の主は国王様で、ヒンメルさんとフリューゲルさん、オルデン王子とライド王子、それとライムにイーグルさんを伴って会議室へ入ってきた。
立っていた俺達は国王様に座るよう促され着席すると、開口一番でレッツェルが話し出す。
「ええ、小心者なクセに確実な手があれば強引にねじ込んで来ますからね。打倒してできれば関係ない人間に即位させたいですね。息子もあまり評判のいい人物ではありませんし」
「そうなのか?」
「そうよ、バチカルが言っていた『女が多い方がいい』というのは王子にも関係があるのよ。私も誘われたことがあるもの」
俺の問いにイルミがうんざりした顔で答えてくれ、表情からすると本当に嫌だったのだろうと推測される。
「まあ、それは追々でいい、まずは福音の降臨を……」
「いえ、陛下、それほど遠い未来じゃありませんよ。まずは報告と行きましょうか――」
バスレー先生がガストの町で起こったことをありのまま報告し、俺が見ていなかった悪魔達との戦いは現場にいたマキナ、ウルカとジャック、リューゼにバスレー先生がそれぞれ語り、確実に倒したことを言う。
だが、最後に俺が告げた十神者と俺のベリアース潜入に対しては難色を示した。
「……ベリアース王国へ単独で潜入か、ラースは我が国にとって貴重な人材。エバーライドならと許可したが、敵陣の真っただ中にいくのは避けて欲しいのだが……」
「え? いや、俺は冒険者ですし危険なところに行くのは構いませんよ。国のためにもなりますし」
俺が進言すると、オルデン王子がひと際大きなため息を吐いて困ったように笑いながら俺を指さしてこんなことを言い出した。
「ラース。君の知識と能力はすでに放置していい段階を越えているんだ、もう少し自覚した方がいいよ。もし死んだりしたら向こう百年は僕達一族が肩身の狭い思いをすることになる」
「そんな大げさな……」
「いえ、ラース君のハンバ……料理は後世にまで伝えるべきですから死なれたら困ります。食べてない料理がたくさんあるはずですし」
<いいことを言ったはずなのに終始食べ物の話ばかりですわ!?>
「いつものことだから気にすんな……」
オルデン王子は俺が居なくなると物凄く勿体ないと言い、バスレー先生も言い方はアレだけどできれば大人しくしていて欲しいといった感じの言い方だ。さらにバスレー先生が続ける。
「……とはいえ、ラース君が居なければこの作戦が上手く行かないのも事実。陛下、わたしの命に代えてもラース君はここに帰します。でなければ黙って行きます」
「色々台無しだよ……」
「諦めろウルカ」
真剣なバスレー先生の表情を見て、国王様もため息を吐いた後、少し考えてから口を開く。
「わかった。だが、くれぐれも無理をするな? ラース以外にもついていく者は全員無事で帰れるよう尽力してくれ」
「承知しています。誰一人欠けることなく戻りたいと考えています。……まあ、転移魔法陣でこっちに帰れるようにできればとも思っていますけどね」
「そういやそれができるんだっけ。父上、この戦争勝ち確定じゃない?」
「かもしれんな……」
「では、報告は一度ここまでということで、後は詳細な計画を詰めてからまたお話をさせてください」
国王様が頷いた後、ずっと黙っていたライド王子が口を開く。
「エバーライドに行くなら僕も連れて行って欲しいけどどうかな? 向こうの城下町なら案内できるよ」
「いや、それはダメだ。ライド王子とライムは顔が知られているから、一緒に居て万が一バレたらリューゼ達が危ない。悪いけど、ここで待っていてくれ」
「くっ……」
「やはりそうですよね……王子、ここは彼らに任せましょう」
ライムは分かっていたようで、ライド王子の肩に手を置いて首を振っていた。冷たいようだけど、ライド王子が死んだりすれば、俺よりも大変なことになるしね。
「ホーク、修行の成果はどうだった?」
「手ごたえはあった。だが、まだまだ修行が足りないと感じたよ。せめてティグレ殿くらいにはならないとな」
「私もよ、ちょっと訓練を増やさないといざ攻め込まれた時に勝てませんでしたは通用しないわ」
ホークさん達も健闘したと思うけど、邁進するようだ。そんな会話の中、俺達は休むため立ち去ることにした。
「それでは私達はこれで失礼します。また作戦メンバーなどが決まり次第お会いできればと思います」
「うむ」
俺達は会議室を後にし、城を後にする。十神者のこと、アポス、ベリアース王国。
問題は山積みだが、やるしかないと俺は決意を胸に歩き出した――
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