第五百二十二話 次の戦いへ


 <エバーライド城>


 「今の音は……!?」


 ラースがバチカルと戦闘を開始したころ、自室で浅い眠りについていたアポスの目が大きく見開かれ隣の部屋へと駆けこむ。

 そこには大きめの丸いテーブルが真ん中に置かれ、十個の髑髏が円を描くように並べられていた。

 その中の三つが割れていたり砕けるなどしており、アポスはそれを見て目を細める。


 「……悪魔が倒されたのか? 奴らは自決できない……しかし、アレを倒せる人間が居るとはな」


 小さく『絶対ではないがな』と呟いた後、崩れた髑髏を殴りつけて粉々にして口の端を歪めて笑う。


 「くく……それならそれで問題ない。悪魔達でレフレクシオン王国を蹂躙できれば良し。全員倒されたら……それはそれで、な……」


 暗い情念の光を宿しながら、アポスは髑髏を見つめるのだった――



 ◆ ◇ ◆



 「ベリアースへ行く!?」

 「ああ、十神者とレッツェルと一緒に潜入してくるよ」

 

 ――全てが終わり、ガストの町に静寂を取り戻した俺達は、騎士達の治療と帰還に尽力した後、家の庭に集まって話をしていた。

 リューゼの右腕が切断されたと聞いたときは青ざめたけど、セフィロの実を食べたことでなんとかくっついたそうで一安心。だけど、セフィロが俺に内緒で渡していたのは聞かないと……


 という中、取り急ぎバチカル達との会話をみんなに話すと、先ほどマキナが驚いて俺に詰め寄って叫んだのである。


 「だ、大丈夫なのかよ……」

 「危険なところだし油断はできない。それを承知で言うけど、俺と一緒に誰か来て欲しいんだ。福音の降臨の信者候補として行くってことにするから」

 「私、行くわ!」

 「お、俺も行くぜ!」


 すぐに痛そうな顔で腕を上げるリューゼと、立ち上がって言うマキナ。俺は二人に頷き、セフィロを膝に乗せて返す。


 「もちろんマキナにはついて来てもらうよ、それとセフィロも」

 「うん!」

 「お、俺は?」

 「リューゼは当初の予定通り、エバーライドに潜入する方を頼めるか? 引率はファスさんで」

 「もちろんいいよ。あたしが居ればそこにいる悪魔でも倒してやるからさ」

 

 ファスさんが勝気な目で隅に座っているバチカル達に目をやり、違和感を感じているとマキナが口に手を当てて言う。


 「あれ、師匠まだ戻ってないんですか?」

 「ん? ああ、ちょっと深く集中しすぎたみたい。まあ、そのうち戻るって」

 「オッケー、ならリューゼとファスさんはエバーライドだ、他のメンバーは――」

 「僕――」


 と、俺が他のメンツを口にしようとした瞬間、兄さんが手を上げたので俺は即座に却下を宣言する。


 「――兄さんはダメだよ、ノーラとここでガストの町を守ってもらわないと」

 「いや、僕は兄だしラースばかり危険な目に合わせるわけにはいかないよ」

 「いやいや、領主の息子だし顔を知られているかもしれない」

 「いやいやいや、それはラースだって同じじゃないか」

 「俺はいいんだよ、冒険者って肩書だし」

 「まあ、ラースの言う通りだな。俺もベリアースへはいけねえから諦めろデダイト」


 言い合っていると、ティグレ先生が兄さんの頭に手を置いて笑い、珍しく不服そうな顔をして頷いていた。さて、他には誰をと思っているとバチカルが口を開く。


 『教主様は若い女を好む。そこの斧使いの娘などいいかもしれん』

 「え、わたしですか? 若い女だなんてそんな」

 「違うわよバスレー先生、斧使いって言ってるじゃない」

 「マキナ、確信犯だから無視していいよ。というかそれは別の意味で危ないだろ」


 性的な目で見られるだけならいいが、万が一襲われでもしたらたまらないとバチカルに口を尖らせていると、エーイーリーが口をはさむ。


 『いや、教主サマの判断を鈍らせるならいい手だぜ? とりあえず囲っておけって判断するだろうしなあ。お前が強さを見せて、女は全部自分のだと知らしめてやりゃいいだろ』

 『そうだな。もう何人か女を連れて行けるか?』

 「はい」

 「お前は本当にすげぇな……」

 

 手を上げたバスレー先生と呆れているアルバトロスは放置だ。というかなんでアルバトロスが生きているのかも問いたださないとならないんだよな……

 そんなことを考えているとクーデリカが両手を胸の前で握りみんなに言う。


 「わたしいいよ! 変なことされそうになったら【金剛力】で潰せばいいもんね?」

 「……」

 「? どうしたの?」


 クーデリカの無邪気な言葉に、俺を含む男性陣は無言で腰が引けた。マキナ達が首を傾げて尋ねてくるが俺達はそれに返す言葉が無かった。

 

 「ま、まあ、それはともかく、よろしく頼むよクーデリカ」

 「うん! 頑張るね」

 『ふむ、他にも色気のある者が欲しいところだが……』

 「それじゃあただのエロ親父じゃないか……お前の趣味じゃないだろうな」

 『私は性というものに縛られてはいないから安心しろ、あくまでも教主のことだ』

 「悪魔だけにあくまでも……」

 

 バチカルが女性陣を見渡しながら真面目に唸っていると、ジャックがエバーライド方面への話について口を開く。


 「とりあえずベリアースへは顔が知られていないメンツだとそれでいいだろうぜ。俺も行きたいけど、シャルルは尻尾がな」

 「ああ、尻尾がねえ……」

 <な、なんですのウルカまで!?>

 『流石に尻尾が見えているドラゴンの人化は無理だ。そっちの男だな、来るとすれば』

 <ふん、もちろん行くつもりだったぞ。……ラース達を騙していたら引き裂いてやるからな?>

 『肝に銘じておこう』


 サージュがバチカルを睨みながら威圧し、緊迫した空気が流れて俺達は一瞬無言になる。そこでバスレー先生が頭を掻きながら喋り出した。


 「……ま、なんにせよベリアースへも引率は必要でしょう。それは私が行きます。こっちにはヒッツライトとアルバトロス、そして十神者が居るので、誤魔化しは利くはずです」

 「バスレー先生が真面目なことを……」

 「だまらっしゃい! ……で、エバーライド行きはファスさんがいればいいと思いますが、レオール商会に頼んでそれらしく見せましょう。ルシエールちゃん達も商会の娘なので真実度がアップしますし」

 「ちょ、ダメだよバスレー先生!? ルシエール達を巻き込んだら!」

 「嘘の中に本当を混ぜるとバレにくくなるんですよ? 大丈夫、エバーライド方面なら旅人で通用しますよ」

 「うーん……」

 「まあ、行くのは決定しているし他にも戦える人を募ろうぜ」


 嬉々として語るバスレー先生に俺は不安しか感じなかった。そもそもレオールさんも協力してくれるか分からないし……

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