第五百二十一話 十神者


 「死ね!」

 『てめぇが死ね!!』

 「ティグレ殿、ここは俺が! ‟ハンティングホーク”」

 『痛ぇ!? やるじゃねぇか騎士ぃ!』


 ティグレ先生とエーイーリー、そしてホークさんが死闘と言って差し支えない戦闘を繰り広げていた。口汚く罵っているので悲壮感はないけど、お互いボロボロ。

 そこでホークさんの新技が決まり、エーイーリーの左腕が落ちて黒い靄が漏れ出す。


 ――というか


 「え、ちょっとアレまずくない!? このままだとどっちかが死ぬぞ!」

 『あの人間もやるものだ。エーイーリーが不利か。まあ、その時はその時だ』

 「薄情だな……!? クーデリカ、あの三人を止めてくれるかい? 多分アレなら早いと思うし」

 「え?」

 「あれだよ、編み出した技」

 「あ! うん! よぉーし……‟アースクラッシャー”」


 クーデリカが三人の下に駆け寄りジャンプして体を捻ると、【金剛力】を使った一撃を地面に叩きつけた。


 「うお!? う、動けねえ!?」

 『チィ!? 邪魔すんじゃねえ!?』

 「これは……!?」

 「ごめんなさい! みんな離れて!」

 「「『ぐえ!?』」」


 動けなくなったところでクーデリカが掌で吹き飛ばすと、潰れたヒキガエルのような声を出しながら三人は地面に転がる。


 「クーデリカの勝ち、かな?」

 「えへへ!」

 「ちくしょう、一体なんだってんだ……?」

 「ごめん、ティグレ先生。どうも俺達に話があるらしいよ」

 

 俺はリリスを見ながらティグレ先生にそう答えた。



 ◆ ◇ ◆


 『――というわけでトップ2であるお二人に声をかけたというわけですね』

 「信用できるのかよ?」

 『基本的に悪魔を信用するべきではない。こちらとて利が無ければ全面戦争でも構わないのだからな』

 「……へえ、あんたは信用できそうだ。仲間がやられているってのに冷静ってのは気に入らないが」

 『面白いことをいう。が、お前もなかなか信がありそうだな。それはいいとして……まずは我等のことを話すべきか』

 『まあ、俺はあんたに任せるぜ……っと。まあ、俺達は消滅するが、この世界で死ぬって訳じゃねぇからなあ』


 エーイーリーが腕をくっつけながら、不満げな表情でバチカルへ告げる。どうも最後まで戦えなかったことが不満のようだ。

 こちらの味方……いや、協力者になってくれるならエバーライドの人達を開放してもらいたいな。 


 「とりあえずその体から出ることはできないのか? エバーライドの重鎮らしいし、あの国を取り戻すためにも必要なんだけど」

 『出来ないことは無いが得策ではないな。姿が変わることで教主様が訝しむ可能性が高い。同じ理由でリリスも同行させることはできない』

 

 俺の質問にそう答えてくれるが、いくつか気がかりなことがあるため再度尋ねようとしたところ、先にティグレ先生が口を開いた。


 「ならその体はいつ返せるんだ? 悪魔達が出れば元に戻るんだろ? それとお前達の目的……召喚主を蹴る理由も聞かせて欲しいぜ」

 

 聞きたかったことを全部行ってくれたので、目配せをしながら頷くと、エーイーリーが肩を竦めて話し出した。


 『俺たちゃ言ってみればこの世界じゃ異分子ってやつだろ? ここでやりたいことなんて別にねえし、とっとと戻りたいって感じかねえ。召喚主は契約上『俺達じゃ』殺せないから教主サマが戻れと言わない限り駒として扱われるだけ。世界征服でもするってんなら楽しみもあるが、国一つをつまらねえ手で落とそうとしているだけだから甲斐がねえんだよ』


 「なるほど、現状に不満があるということですか」

 「なんか、不憫だね。ボクの【実験】材料にならないかい?」


 エーイーリーが話し終えたころ、レッツェルとリースも俺達のところへ来てそんなことを口走る。が、リースのは完全に自分のためだろ……。

 

 そんなことを考えているとバチカルがセフィロを見ながら質問を投げかけた。


 『人間に使役されるのは仕方ないが、存在意義が薄いから『なぜ呼ばれた』のかが分からん。人間でいう『面倒なこと』というやつだ。それとセフィロト、お前がここにいるということも謎だ、神はどうなっている?』

 「……気づいたらボクはこの世界に落ちていて記憶も無かったからそのあたりは覚えてないんだ。レガーロって悪魔さんが言うには居なくなったって」

 「それは俺も聞いたな。というか【無神論】なのに神様を気にするのか?」

 

 俺の知る限りバチカルは【無神論】エーイーリーは【愚鈍】のはず、それとなく尋ねてみるとバチカルはあっさりと答えた。


 『よく知っているな。意味合いが少し違うのだが、それは今告げるべきではないな。それにしてもお前は何者だ……? まあ、いい。とりあえずこれからだが、私とエーイーリー、それとアルバトロスと共にラース、君が同行してもらう。レッツェル達もいいな?』

 「ええ、福音の降臨を裏切ったということはまだ知られていませんし、案内できるかと思います」

 「ボクはラース君が居れば問題ないよ、ようやく落ち着いていちゃつける」

 「……欲望に忠実過ぎない? マキナって子に今度こそ殺されるわよ?」

 「大丈夫、ボクは死なない……!」


 確かにこのメンツならアポスに顔が知れているから隙をつける可能性があるか……あわよくば捕まえるなりして、ベリアースから引きはがせるかもしれない。

 まだ信用できないので、エバーライドに侵入するのは教えない方がいいかと、俺は今考えた案を口にする。


 「福音の降臨に入信するって名目でついていくってのはどうだ? 俺だけだと怪しいから他に何人かでさ」

 「いいと思います。洗脳に強そうなメンバーがいいので、リューゼ君あたりは却下ですかね」

 

 くっくと笑いながらレッツェルがそういった瞬間、前のめりに倒れ、次に怒声が広場に響き渡る。


 「んだとてめぇ!! 俺を馬鹿だと言いたいのか!」

 「おっと、戻ってきましたか」

 

 さして問題ないとばかりに起き上がりつつ、レッツェルが目を向けた方を見ると、バスレー先生やナル、それと騎士達が合流していた。


 「ええ、終わりましたからね。……レガーロがこいつらも悪魔だと言っていますが、倒すんですかね?」

 「ちょっと事情が変わったんだ、マキナ達もすぐ来るだろうし集まったら話をしよう」

 「なんだぁ、一体……?」

 「すぐに分かるよ」


 俺はとりあえず待っている間、向こうへ帰るための転移魔法陣をバチカル達に分からないよう作り始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る