第五百二十話 悪魔の誘い


 「こいつ! <ファイヤーボール>!」

 『セフィロトの援護があるとは言え、なかなかやるものだな』

 「ボクは今ちょっと全力を出せないだけだよ。やっ!」

 『それには当たってやれんな』


 セフィロの光の刃を杖で受け止めながら、俺のファイヤーボールを片手で地面に叩きつけ爆発させるバチカル。魔法を素手で相殺するのはマキナの【カイザーナックル】くらいでしか見たことが無い。


 「近接ならどうだ! 〝ドラゴンファング〟!」

 『来るか』

 「わあ!?


 杖を払ってセフィロを吹きとばし、バチカルが俺に向きなおって迎撃の態勢を取るが、攻撃は完全に見えなかったようで、杖に一瞬だけ剣が触れたがもう一撃は脇腹を切り裂いていた。


 『む……!』

 「浅いか! ならもう一撃……! 〝ドラゴンバイト〟」

 

 立て続けに新技であるドラゴンバイト竜の噛みつきを繰り出す俺。この技は渾身の上段斬りから胴を振り抜く二段構え。ドラゴンファングのフェイントと違い、完全な二段攻撃な上、そのまま払い抜けるように胴を薙ぐので距離を取るのにも使えるのだ。

 

 『重い一撃だ、その体のどこにこれほどの力が……〝魔王の杖〟よ、闇の中で輝け』

 

 胴を薙いだ手ごたえはあったが、振り返ると腹から黒い靄をだしながら、バチカルが掲げた杖から『黒い輝き』が放出され、レーザー光線のようにセフィロと俺に真っすぐ飛んできた!


 「んんんん!!」


 セフィロは光の刃で受け止めると、踏ん張った体が後ろに下がり、地面をえぐり取る。


 「大丈夫かセフィロ! <レビテーション>!」

 『逃げられんぞ?』

 「くっ……! <オートプロテクション>!」


 俺の立っていた場所を通過すると思っていた黒い輝きは、角度を変えて上昇してきた。咄嗟に防御魔法を使うも、魔法が激突した瞬間、鈍い衝撃と共に俺は落下する。


 「なんて威力だ、オートプロテクションをここまで割るとは……」

 『では、ここで終わりだ』


 落下地点にバチカルが立ち、バットを構えるポーズで俺を待ち、そんなことを言う。杖はそういう使い方しないだろとは思うけど、あの杖自体に嫌な感じがするので一撃をもらった場合、死ぬのではと直感が告げる。

 ま、そう簡単に食らうわけにはいかないんだよね……!!


 「<ドラゴニックブレイズ>!」

 『その体勢で撃ってくるか……!』

 

 初めてバチカルが困惑とも歓喜とも取れる声を上げるが、これで終わりじゃないと、俺はさらに魔法を使う。


 「<レビテーション・アクセル>!」

 『なに!? 魔法の中を突っ込んでくるだと……!』


 レビテーション・アクセルはただ飛ぶだけのレビテーションに加速付与をしたもので、一定方向に飛ぶだけなら爆発的な移動を可能にしている。持続時間は魔力量に応じるけど、今のように一瞬の爆発力を生むことも可能。

 オートプロテクションで守られた俺は剣を構え、ドラゴニックブレイズと共にバチカルへと突撃する!


 『面白い、ならばこの魔王の杖がお前を星に変えてやろう! むうん!』

 「お兄ちゃん!」

 「食らえぇぇ!!」


 ドラゴニックブレイズの咢が大きく開くと同時に、魔王の杖を振り抜くバチカル。


 『ぬうううううう!』

 

 お互いの攻撃がバチバチと拮抗し動きが止まり、ほぼ互角の威力だとわかる。が、俺自身の攻撃はまだ繰り出していないのでこのまま押し切るため、仕掛ける。


 「ドラゴンバイト!!」

 『ぬおおおおお! やむを得ん……〝堕天使の一撃〟!』

 「え? うわあああああ!?」


 剣が首筋にヒットし、このまま切り裂けると思ったけど、バチカルが驚愕の顔でなにか叫ぶと杖から強大な魔力が集中し爆発する。


 お互い反発するように吹き飛び、俺は背中かから地面に落ち、バチカルは顔面から落ちて引きずられるように地面を這っていった。あれ、顔面の皮がはがれるんじゃないか……?


 「いってぇ……」

 「ラース君!」

 「ラース兄ちゃん無茶しすぎだよ!」


 背中を打って横たわる俺にクーデリカとセフィロが駆け寄り、声をかけてくる。背中は痛いけど、オートプロテクションとサージュ鎧のおかげで骨が折れているようなことは無さそうだ。


 「大丈夫だよ。それよりあいつを!」

 「ま、まだ立ってるよ……!?」

 「さすがはトップだけはあるね、お日様が出てたらボクが確実に倒せるんだけど、この体じゃやっぱり上手くいかないや……」


 【ソーラーストライカー】は陽が出ていないと使えないと嘆いているセフィロをよそに、バチカルは顔を抑えながらこちらに歩いてくる。


 『ふむ、確かに人間にしては強い。魔王の杖を使えとリリスが言った時は頭おかしいんじゃないかと思ったが……』

 『失礼ね!?』

 

 リリスが声を荒げる中、バチカルは俺の前まで来て手を差し出してきた。


 「……鼻血は出ないんだな」

 『人間らしく、見世物として出すならできるが?』

 「ふん、どういうつもりなんだ? 手加減はしていないけど、殺すつもりはなかったな?」

 『そう思えていたのなら君は強者だ。私は二回殺しにかかっている』

 「あっち行ってよ!」


 さらりと言うバチカルにクーデリカが激高する。だが、バチカルは気にした風もなく、俺に目線を合わせたまま続ける。


 『まあ、それでも私の真の姿と戦うにはまだまだだ。強くなれ、少年。その時は君の手助けをしてやろう。そうでなくば、アポスを倒すのは難しい』

 「なんだって……?」

 『ちょっと、ラース様の力は見たでしょ? 十分じゃないの?』

 『これでは足りん。が、まだ伸びしろもあるのは事実。ラースと言ったか、ここは引かせてもらう』

 「おい! 逃げるのか?」

 『逃げるのではない。時間をやろうというのだ。現時点で私と互角であれば、真名を言った後の私と戦うのが厳しいことはわかるだろう?』

 「……」


 確かに、こいつが『サタン』であるなら、空想上の存在としては超一級クラスの強さを誇るはずだから、簡単には倒せない。こいつを倒して全てが終わるなら命を賭けて倒すのもやぶさかではないけど、引いてくれるならそれに越したことは無いか。


 「分かった……戻ったらお前達はどうするんだ? アポスを狙っていると報告するのか」

 『無論だ。十神者が三人倒されているのだから報告は必要だ。ガストの町を攻めているという事実がある以上これは仕方がない』

 「そうしたら戦争になるんじゃ……」

 『どちらにせよ、そっちもそのつもりだろう? ただ、ベリアース王は小心者だ、我ら悪魔が倒されたとなれば攻めることはしない可能性が高い。あるとすれば教主様が単独で攻めるというところだな。我等を駒として使える以上、残り六人で一斉にかかれば落とすことは容易い。で、向こうへ行っている間、ラース君は私と一緒に来てもらう。私の技術などを教えてやろうではないか、それで私より強くなれる』

 「はあ!? 一緒にって、ベリアースに行くのか……?」

 『そうだ。む、エーイーリーの方も動きがあったようだぞ』

 「あ!? ティグレ先生だ!」


 見ればホークさんとやりあっていたエーイーリーがいつの間にかやってきたティグレ先生と戦闘をしていた。


 「てめぇも十神者か!!」

 『凄い迫力だな人間! ははははは!!』

 

 バチカルがこの態度なら、向こうも殺し合いにはならないだろう。どちらにせよエバーライド王国にはいくつもりだったしバチカルについていくというのはアリか……?

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