第五百十九話 謀る?
「靄が晴れた……! ということは悪魔達を倒したのか」
「あ、それじゃあ三人の悪魔達はマキナちゃん達がやったんだね!」
「恐らく……これで一安心のはずだ」
月明かりが町全体を照らし出し一か月以上靄に包まれていた建物が姿を現す。特に朽ちていたりはしておらず、むしろ時間が止まっていたかのような状態だ。
「ラース君、とりあえず黒い魔物を倒そうよ!」
「だな。セフィロ、どうした?」
「わ!? なんでもないよ、良かったなって思って! 行こう!」
空をじっと見ていたセフィロが険しい顔をしていたので不思議に思い声をかけると、びっくりして我に返り俺の手を取って走り出す。
ホークさんは騎士達を連れて行けと言っていたけど、断って俺達三人で行動している。俺は魔法を使うことが多いから町の中ならむしろ少数の方が動きやすいためだ。
「これくらいは全然平気だね、やあ!!」
「<ファイアアロー>! それにしてもちゃんと悪魔達を倒せたんだな……セフィロの力が必要だって聞いていたけど、マキナ以外は実を食べていないのに」
「あいつらのことはボクも完全に分かっているわけじゃないからなあ」
靄の魔物は元々暗闇では出てこれないのと、悪魔達が死んだので、増殖しなくなった。そのため数はどんどん減っていき、やがて完全に消え去る。
「ふう、これで終わりかな?」
「そうだね! みんなを迎えに行こうよ、多分無事だと思うけどね。……あ、ホークさんとアンナさん達だ」
クーデリカが目を向けた先にホークさんを含む騎士達がこちらに歩いてくるのが見えた。当然だけど全員無事のようでなによりだ。
「ラース君、急に靄が晴れて魔物が減った。これは終わったということだろうか?」
「俺も確認した訳じゃないけど、ホークさん達の方も魔物を倒し切ったなら多分マキナやティグレ先生達が悪魔を倒したんだと思う」
「ま、これで一件落着ってところかしらね? あんまり役に立たなかったけど私」
アンナさんが肩を竦めて冗談めかしてため息を吐くと、騎士達から笑いが上がる。今は俺の方が強いけど、この人も国で上位になる魔法使いなのだ、役に立たないなんてことは絶対ない。
「それじゃあ、皆で迎えに行きましょうー!」
「うん! 早く家に帰ってみんなに帰って来てもらいたいよね! アイナちゃんもお家に帰れるよ」
「うーん、あいつはあっちに残りたいって駄々を捏ねそうな気がするけどな……」
「ラース君は転移魔法陣があるし、いつでも来れるからいいんじゃない? わたしも王都にまた行きたいし♪」
セフィロと両手をタッチしながらそんなことを言うクーデリカに呆れながら歩き出そうとしたところで、鋭い視線を感じて俺は顔を向けた。
「誰だ!」
「僕ですよラース君」
「……なんだ、レッツェルか。そっちはどうだった?」
白衣のポケットに手を突っ込んだレッツェルが口元に笑みを浮かべながら広場の奥から現れ、俺は口を尖らせて尋ねると、その場で立ち止まって口を開く。
「収穫はありましたよ」
「収穫……?」
どういうことか聞こうとした瞬間、レッツェルが指を鳴らす。すると、スッとリースとイルミが現れ、それと――
「……そいつらは何者だ?」
彫りが深い顔に黒い髪を短く切りそろえた男と、長いワカメのような紫髪の男がレッツェル達の背後に立っていた。目を細めてリリスを見ながら聞くと、彼女はクスクスと笑い、
『ふふ、ラース様なら分かるんじゃないかしら? 彼らは十神者よ』
「な……!? お前達まさか!」
「少し彼らに協力することにしましてね、まあ福音の降臨のよしみというやつです」
愉快だという感じで笑うレッツェルを見て俺は苛立つと同時に裏切ったかのかと、何とも言えない感情になった。そこで十神者と紹介された男二人が
『お初にお目にかかる。私は十神者の一人、バチカル』
『同じく、エーイーリーだ、よろしくな坊主』
「なんだと!?」
その名前を聞いて俺は驚愕する、こいつらクリフォトの中で一位と二位じゃないか!? 俺が冷や汗をかいた瞬間、バチカルが駆け出してきた!
『そして……さようならだ。どうやら君はアポスの邪魔になるらしい』
「くっ……!? バチカル、ということはサタ――」
『それ以上は〝まだ〟言わなくていい』
「だあああああ!」
バチカルはガイコツの頭がついた杖を取り出し、一足飛びで襲い掛かって来たのでドラゴンブレイドを抜いて応戦する。
「ラース君の援護だ!」
『いやいや、そこは俺が居るから無理だぜ! <フレイムレイン>!』
「うわあ!?」
「なんだこの魔法!?」
「無差別に攻撃してくるわね! <プロテクション>!」
『お、やるな』
ホークさんの号令で騎士達が動こうとしたが、エーイーリーと名乗った男による見たことも無い魔法で足を止められていた。
アンナさんのプロテクションで魔法をガードするが、全員を守るとなるとアンナさんが動けない。
「ホーク、悪いけど任せるわ! 騎士と魔法騎士は少数でホークの援護よ。プロテクションの範囲から出てヒットアンドアウェイで、攻めなさい」
「「「はっ!」」」
アンナさんが即座に思考を切り替え、ホークさんを軸に戦いを組み立てる。集団戦をしない俺にはあそこまで早く切り替えられないだろう。
向こうはホークさん達が止めてくれることを信じて――
「クーデリカ、セフィロ! 隙があったらこいつに攻撃を叩きこめ!」
「う、うん! なんだろ、あのバチカルって人を見ると背中がぞわっとする……」
「……あれは最高峰の悪魔だよ、ラース兄ちゃんの前世で語られる中でもね。クーおねえちゃんは後で追ってきて! ボクが先に行くよ」
「あ! セフィロちゃん!」
そんな会話が聞こえる中、俺はバチカルとの激しい打ち合いを繰り広げる。杖というのは弱そうに見えるけど、案外取り回しが良く腕力があれば打撃での威力も期待できる武器だ。
そしてこの世界の杖は魔力を増幅するものも多数あり、どうやらこれはその類らしい。
『<ファイヤーボール>』
「……! <ファイヤーボール>!」
バチカルの放った恐ろしく魔力の凝縮したファイヤーボールを同じくファイヤーボールで相殺する。
『ふむ、なるほどこれを相殺するのか……』
「ファイヤーボールとは意外だったよ、あっちみたいに知らない魔法でくると思っていたからな」
『基礎は疎かにすべきではない。基本が強ければいくらでも派生はできる。しかし君にはそれが備わっているようだ……これならどうだ。<ケイオスワール>』
「なんだ……!?」
杖を俺に向けて知らない魔法を口にすると、俺とやつの間に黒い渦が生まれ、身体が吸い込まれるように渦へと動き出す。
「くっ……」
『剣を地面に刺して耐えるか、悪くないが……<ハイドロストリーム>』
「この態勢でも魔法は撃てる! <ドラゴニックブレイズ>!」
一撃でケリをつけるつもりで最大の魔法を放つ俺。だが、ドラゴニックブレイズは黒い渦に吸い込まれ消えていき、俺はモロにハイドロストリームを食らってしまう。
「ぐあ……!?」
『得体のしれない相手を一気に倒す。策は悪くないが、一歩及ばずだったな。……む!』
「お兄ちゃん大丈夫!? あの渦はボクが!」
駆けつけてきたセフィロが右手に光の刃を出して渦を切ると、あっさりと霧散し俺は自由になる。
「サンキュー、セフィロ。<ヒーリング>」
「えへん!」
回復魔法で傷をいやしていると、バチカルはセフィロを見て呟く。
『……なるほどセフィロトか。では神もどこかに……? まあいい、決着をつけようラース君』
「こっちのセリフだよ。行くぞ!」
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