第五百十八話 そして次の段階へ
『先ほどはそのインパクトにやられたが、正面から槍に勝てると思っているのか』
<問題ない。最悪急所を避けて受ければいいだけの話だ>
『こいつ……!』
<それに我の間接攻撃、貴様も見ただろう。……カァ!>
仕掛けてきたアドラメルクの槍を、ドラゴン化させた右腕と左手に持った元リューゼの大剣を使い防御するサージュ。反撃に火球を混ぜて三方向に注意を向けさせる。
<どうした、騎士たちの力を吸い取ってその程度か? 悪魔というのも大したことは無いな>
『なんとでも言うがいい、最後に立っていた者が勝者なのだ!』
<では、そうさせてもらおう>
『はああああ!』
防戦一方に見えるけど、サージュの足は下がっておらず、繰り出してくる槍を最小限の動きで捌いていく。
大剣を軽々と振るのも凄いけど、力強い腕の反撃が鋭く、アドラメルクも最後の一歩を踏み込めずにいた。
『チッ……掠るか』
<ふん、お互い速さは互角のようだな>
「凄い……サージュは修行の成果を十分に発揮しているわ。……よし、私も……」
私は戦闘をしているサージュから遠ざかり、側面に回り込むと魔力を集中させる。もちろん雷透掌を放つ予定だけど、【カイザーナックル】との複合技として叩き込む。
そのための集中力を増し、呼吸を整えるため一時離脱したのだ。師匠が使うと昔の性格に戻っちゃうこの技を静かに使う――
『ぐお!?』
<ぐぬ……!? やるではないか馬面>
『でかいトカゲの分際で!』
<言ってくれる!>
『死ね!』
<こいつ、力が……!>
サージュが押され始めてきた……騎士たちの力を吸い取ってサージュを上回りつつあるわね……もう少し、耐えて!
『フハハハハハ、どうした! 勢いがなくなって来たぞ! スキルのひとつでも見せたらどうだ? ‟』
<スキル、か。ふん、貴様に見せるには惜しいのでな、次に生きていたら見せてやる!>
槍を右肩で受けながら左手の大剣を横からアドラメルクの脇腹へ食い込ませ、膠着状態になると、アドラメルクが呻くように声を出す。
『ぐ……!? まだこんな力を! ‟スパイラル”!』
<ぐぅぅう……!>
槍から棘のようなものが飛び出し、回転を始めるとサージュの肩から鮮血が噴き出す。ドラゴンの鱗を貫通するなんて!?
「早く助けないと! ……よし!」
準備ができた私は右拳を握りこんで一気に駆け出す! 師匠直伝の足音のしない歩き方を使い、確実に仕留めるために!
こちらに気づかれないよう声を出さず踏み込んだその時、アドラメルクの目がぐるんとこちらを向いた。
『フハハハハハ! 馬鹿め、散々隙だらけだ馬面だと言ってくれたな? 馬が片目で見える視野は二百十度以上あるのだ! 小娘が移動してなにをしていたのか全て見ていたぁぁぁ!』
踏み込んだ私にどこからともなく槍を出して投げつけてきた……! まずい、この速度じゃ躱せない! かと言って溜めた一撃で槍を壊したらそのあとが続かないっ!
<マキナ!? おのれ、オートプロテクションを使わなかった弊害が!>
『フハハハハハ、串刺しだ! 死ね!』
「槍を壊すしかない!」
私がそう決意したその時――
「あ!」
飛んできた槍が、さらに横から飛んできた大剣に弾かれ激しい音と共に散って地面に落ちた。大剣が飛んできた方向には、
「……目の前の敵に目を向けすぎているって言っただろ? マキナちゃんになにかあったらラースが怖いとも、ね」
風の魔法で大剣を操っていたらしいデダイトさんが片膝をついてニヤリと笑う。
「デダイトさん……ありがとうございます!!」
『貴様、真後ろに!?』
「またよそ見をしたわね? 【ライトニングカイザーナックル】!」
『なんだ、小娘の姿が見えな――』
アドラメルクが言い終わる前に、私の拳はすれ違いざまにアドラメルク体をぶち破り、風穴を開ける。急停止しながらアドラメルクへと体を向けると、両膝をつき、両手で頭を抱えて叫び出した。
『あ、ああ!? か、体が、保てない核がな、無くなって……う、うおおおおおおお!? こ、こんなはずは! 私は地獄の――』
目、口、鼻から黒い靄を噴出させながらなにかを言おうとしたけど、その前に体が完全に消えて靄も風に紛れて消えた。
「やったわ……! っと……」
<大丈夫か!?>
「ええ、かなり疲れたけど気絶するまではいかなかったわ。修行した甲斐があったわね。デダイトさんのところへ行きましょう」
倒れそうになったところをサージュが支えてくれたのでこけなくて済んだ。私が指でブイを作って笑うと、サージュが呆れたようなため息を吐いて私を肩に担ぐ。
「あ、ちょっと!?」
<ふん、心配させた罰だ。デダイトのところへ行くぞ>
「凄く恥ずかしいんだけど……あ!」
アドラメルクが完全に消失すると町を覆っていた靄がサァっと消え、月明かりが町を照らし始めた。
「やあ、終わったみたいだね。お、羽が……」
<馬顔のくせに、キレイではないか>
「ふふ、ジョニーたちが怒るわよ?」
デダイトさんに刺さっていた羽が浮き上がり、白い綿帽子のようになって舞い上がり消えていく。騎士や魔法使いたちに刺さっていたものも同じ現象を起こし、少し夢のような光景が広がるのだった――
◆ ◇ ◆
『……まさか全滅とはな』
『面白い奴らだ。この姿ならまだしも、クリフォトの悪魔を倒すとは思わなかった』
「どうするんですかい? このまま報告に戻ります?」
『そうだな――』
と、バチカルが顎に手を当てたところで、背後の気配に気づきバチカル、エーイーリー、アルバトロスの三人が振り返る。
『久しぶりね、バチカル』
『お前は……リリスか! その姿、正体を知られているのか』
『なんで生きているんだ? それにそっちの人間達は何者だ?』
「こんばんは。この顔を忘れましたか?」
月明かりを背にして立っていたレッツェルが明かりの下に顔を晒すと、バチカル達の表情がわずかに動く。
『ま、そういうことで福音の降臨の元メンバーよ。私を含めてね? 悪魔の気配があったから来てみたけど、まさかトップ2が居るとは思わなかったわ』
『こちらのセリフだ。あの三人に加勢もしないでなにをやっている?』
『そっくり返すわよ。私は別契約を結んじゃったから、教主サマの下には戻れないの。やっぱりエバーライドの兵士が戻って来ない件で?』
「おう。姉ちゃんも十神者か? バスレーやラースは来ているのか?」
『へえ、あの二人を知っているのね?』
リリスがそう尋ねると、アルバトロスが目を細めて聞き返す。答えようとしたところで、エーイーリーがため息を吐きながら腕を組んで話し出す。見るからに『面倒臭い』といった感じで。
『アルバトロス、本題が先だ。十神者が三人居て一か月以上報告が無いんだ当然だろう? お前も戻ってきていないしな』
「まあ、見ての通りです。悪魔三人は倒されガストの町は解放されました。……アポスへ報告に戻りますか?」
「それなら全力で抵抗するけどねえ? ラース君をここに呼べば、君達の真の姿を出せる。そうなれば簡単には戻れないだろう?」
「リース……恐ろしい子……」
イルミが冷や汗をかいている中、レッツェルとリースの眼鏡が光ると、考え込んでいたバチカルがゆっくりと口を開く。
『……リリスと契約した者に興味がある。少し話ができるか?』
『ええ、もちろん』
リリスは妖艶な笑みを浮かべて頷いた。
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