第五百十七話 【貪欲】なる力
「ハアァァ!」
『おのれ……!?』
デダイトさんの一撃は旋風を生み、相手の動きを封じると同時に風がアドラメルクを切り裂いていく。そのまま接近し、叩きつけるように振り下ろした大剣がアドラメルクの頭にヒットする……かに見えたけど、寸前で首をひねり左肩に食い込んだ。
『おのれ奇妙な技を……!』
「君の顔ほどじゃないけどね」
『うるさい! だが、この距離は私の距離でもある、肩を斬ったくらいでは私は死なないが、貴様はどうかな!』
「目の前の敵を見るのは結構だけど、悪魔ってそういうものなのかい?」
<舐めるなよ馬面>
デダイトさんがそういった瞬間、背後に回り込んだサージュがアドラメルクの背中に爪を伸ばして頭に叩き込む。
『ぐお!?』
「今! ‟雷透掌”」
『嫌な予感がする……離れろ!』
「……! この……きゃああ!?」
アドラメルクが私の雷透掌を警戒して拳を突き出してきたので、ぶつけるように叩きつけると反動で私の体が大きく仰け反る。
<マキナ!>
『邪魔だ……!』
<貴様!>
サージュが追撃を止めようとしてくれたが、一瞬アドラメルクの方が体を捌き、私に向かってきた。
『死を感じたぞ小娘! お前から始末しておいた方が良さそうだな、その力を吸いつくしてくれる』
「わわ……!?」
サージュを振り切ったアドラメルクが槍を突き、払いながら攻撃してきたので、私はバランスを保ちながら避け、打ち払う。リーチは向こうの方が上なので、なんとか体勢を立て直して大剣を拾いなおしたデダイトさんがこちらに手を向けて大声で叫ぶ。
「そうはいかないよ! <ファイヤーボール>!」
『チッ……!』
デダイトさんの放ったファイヤーボールを背中に受け、忌々しいとばかりに立ち止まり振り返るアドラメルク。私は一旦距離を取って再び構えながら口を開いた。
「っと……デダイトさん、ありがとうございます! サージュ、このまま三人で行くわよ!」
<うむ。では我から仕掛ける。‟プライマルファング”>
『なんだと、腕が!? お前はまさかあの時のドラゴン!』
<前は図体がでかくて悪かったな、今度は小回りが利くぞ!>
サージュの右腕だけがドラゴンのそれに変化し、覆いかぶせるように振り下ろす。巨大な爪に対抗すべくアドラメルクが槍を構えるが、やはり私達のことを考慮していないので隙だらけだ。
「よそ見をしているとは余裕だね‟ブラストソード”!」
『踏み込みが速い!? くっ、ここは一度回避するしか――』
「今だ、マキナちゃん頼む!」
「はい! 今度こそ!」
『ごぶ……!?』
<マキナ、避けろ!>
今度は雷透掌が『入った』という手ごたえを感じ、勝ちを確信する。
サージュの言葉ですぐにその場を飛びのくと、サージュの爪がアドラメルクの体に突き刺さり、背中の羽が悲鳴を上げるように空中に舞い散った。
「やった!」
<他愛ない、修行した我達に勝てるものか>
デダイトさんが拳を握って歓喜する中、サージュが腕を元に戻しながら得意気に言うのがおかしくて、私は笑いながら近づいていく。
「お疲れ様! デダイトさんの技、凄かったですね風がぶわって巻き起こったから動けませんでしたよこの馬顔!」
「はは、ありがとう。ラースの兄としてこれくらいはね。これで終わりだといいけど」
<さすがにマキナの『セフィロト』の力を込めた一撃と、我の爪で胴体の半分以上を貫いたのだ、核とやらも……いや、待て、おかしいぞ……>
「え?」
サージュが近くに倒れているアドラメルクの姿に目を移して声を低くして呟く。最初は意味が分からなかったけど、私はあることに気づいた。
「そういえば黒い靄が出てこない……!」
「う……これは……?」
「デダイトさん? ……騎士さん達も!?」
急にデダイトさんが大剣を杖にして膝をついたので慌てて支えると、周辺にいる騎士達ももがくように苦しみ始める。
<む、そういうことか……! 肉片も残さず消えろ!>
サージュがなにかに気づき、即座に口から巨大な火球を吐いてアドラメルクを消滅させようとした! しかし、直撃する瞬間、アドラメルクはうつ伏せのまま垂直に飛び上がり火球を避け、私達は驚愕する。
「あの体勢から飛び上がるの!?」
『もう少し力を蓄えたかったが案外頭が回るようだな。危なかったが、まだ私は生きている』
「あれが……核?」
アドラメルクの空いた胸に、赤い色をして三分の二ほどまで欠けた宝石のようなものが見え、直感的にそれが核なのだと思った。
そこでサージュが私に支えられているデダイトさんへ声をかける。
<デダイト、その羽は抜けるか?>
「羽? ……まさか、これが……!? くっ、抜けない」
「わ、私も失礼します! ……ダメ、釣り針が食い込んでいるみたいに固いわ」
『私の羽は一枚一枚を私がコントロールできるのだ、そして触れた者は【貪欲】により、力を吸われる。騎士を大量に引き連れてくれたこと、感謝する。まあ、私も少し危ない橋だったが、結果としてここに居る騎士とその男の力を頂くことが……できた!』
「!?」
アドラメルクは言い切る瞬間、デダイトさんに向けて槍を投げつけてきた!
肩を貸していた私はデダイトさんを咄嗟に突き飛ばし、槍が当たる寸前で脇に挟むようにして受け止めると衝撃で服が破れ、肌に鋭い痛みが走り顔が歪むのが自分でもわかった。
「くぅ……!」
『チッ、まあいい。残ったのはドラゴンとセフィロトの力を宿す者のみ。そして私の力はどんどん増幅していく。いいのか、突っ立っていて? その男はともかく、騎士共は死ぬぞ。フハハハハハ!』
「ぼ、僕も……!」
「デダイトさんは無理をしないでください、あいつは……次の一撃で必ず仕留めます」
「アレを使うのかい……?」
「多分、大丈夫だと思います。ラースも近くにいるはずですし、その時はお願いします」
「……うん、わかったよ」
デダイトさんが私から離れると、アドラメルクが地上に降り、どこからかまた槍を取り出してから私とサージュに突き付けて笑う。
『どうした、臆したか? 見ろ、力がみなぎってくるぞ!』
様子を伺いながら、サージュに近づき小声で言う。
「サージュ、できるだけひきつけてもらえる? アレで終わらせるわ。あいつの言う通り臆していたせいでとどめを刺しそこなったし」
<むう、ラースに怒られそうだが……仕方あるまい。だが、我があの馬面のトドメを刺しても文句を言うなよ>
サージュが渋い顔で首を振ると、アドラメルクへと向き直り指を鳴らす。
『さっきから聞いていれば馬、馬、うるさいやつらだ……!! 好きでこんな頭をしているわけではない!』
<そうか、我は自分の顔が好きだがな>
「ぶ!? ……やめてよサージュ!」
サージュが頭だけドラゴンに戻り私は思わず吹き出してしまう。
<リラックスできたか? では、頼むぞマキナ。さあ、時間も無い、かかってこい>
『馬鹿にしおって! 死ね、ドラゴン!!』
サージュの挑発にかかったアドラメルクが羽をまき散らしながら突撃してきた!
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