第五百十六話 屋敷in悪魔?
「馬男、どこにいるのかしら……?」
<まあ、屋敷の中だろうな。マキナの一撃でカタがつきそうだが>
「んー、接近するまでが大変だから、サージュにも手伝ってもらわないとだめだと思うわよ?」
屋敷まで辿り着いた私達は、周辺の探索をしてアドラメルクとかいう馬男を見つけるため行動していた。周囲には気配が無く、私とサージュは門の前で庭に行ったデダイトさん達が戻ってくるのを待っているところだ。
サージュと話をしていると、騎士さん達と一緒に門の前まで戻ってきた。
「お待たせ、あいつはいなかったよ」
「それどころか魔物一匹いなかったですねデダイト様」
「僕は領主じゃないから『様』はいりませんよ。それじゃ、やっぱり突入するしかないみたいだし行こうか」
「そうですね! 屋敷内は三人とも良く知っているし、私達だけで行きましょうか?」
師匠達のところより騎士さんが多く残ったので、ぞろぞろと屋敷に入るより少ない人数の方がいいと私は考えたのだ。
「し、しかし、騎士たる我々が行かないのはさすがに……盾にもなりますよ」
<それは分かるが、我はマキナの意見に賛成だ。広くはあるが、身動きが取れなくなるのは困る>
「というわけだから僕達の家は身内で奪還します。けど一時間経っても出て来なかったら突入してもらっていいですか? 五人ずつ五分毎という感じで入り口で詰まらないように」
「……わかりました。お気を付けください」
「それじゃ、開けますね」
私が先頭になって玄関を開ける。
完全な闇となった屋敷は、私達が知っている明るいアーヴィング家とは程遠い空間が広がっていた。
「……靄の魔物が出てくる可能性もあるけど、こう暗いと動けないね。<ライト>」
「中は荒らされたりしてませんね」
一階のリビング、食堂、応接室に足を踏み入れてみたけど静かなもので、綺麗なままだった。
「話を聞く限り悪魔達もギリギリの状況で靄を振り撒いたみたいだし、そこまで手をくわえられなかったんだと思う。さて、本命は二階と三階、どっちかな」
<プライドの高そうな馬面だったからどうせ一番上だろう。それよりマキナはこの暗闇が怖くないのか?>
「え? あー、そうね。今は平気よ。……師匠とウルカに散々修行させられたからね……」
<う、うむ、そうだったな>
私の声色が変わったのでサージュが『あの時』のことを思い出して慌てている。ウルカがゴーストを呼んで話をする、という修行をしていたんだけど、最初は怖かったわ……。百人くらいゴーストの死んだ切っ掛けを聞いたりしているうちに恐怖が薄くなってきたんだけどね。
<ラースが大変だったな……>
「首を締められたりしていたもんね。まあ、ラースは優しいから怒ってないと思うけど」
「で、ですね……うん、二階も居ないみたいです、馬悪魔」
「なら三階に潜伏している、か。ここからは僕が先頭に立つから慎重に行こう。マキナちゃんになにかあったらラースが怖いからね」
「だ、大丈夫ですよ!?」
冗談めかして言うデダイトさんに慌てて手を振りながら答えると、サージュが先頭に立ってから私達に振り返る。
<それを言ったらデダイトもノーラが怖いだろう、我が先頭に立つ。それでいいな?>
「はは、ならお願いしようかな? その姿でもドラゴン形態と同じ硬さなんだよね」
<そうだ。それにちゃんとブレスも吐ける。一番の利点は小回りが利くことだろうな>
「最初は酷かったけどね」
<それを言うな>
と、周囲を警戒しながら談笑しつつ、私達は三階の廊下に到達する。
「静かですね……」
「どこかの部屋に居るにしても――」
デダイトさんが話し始めたその時、外から爆発音と怒声が響き、私達は腰を低くして身構えた。
「今のは……!」
「外ですね! しまった、そういうことか! ごめんなさいデダイトさん、先に行きます!」
<マキナ!>
私は玄関側の窓を開けて縁に足かけて外に飛び出すと、眼下では騎士たちが入り乱れて展開し、その中心にはあの馬面悪魔のアドラメルクが居た!
「騎士さん達が狙いだったのね!」
壁を蹴り、近くの木をクッションにして地上に降りると、そのままアドラメルクへ一直線に飛び掛かる。
すると、騎士の一人を槍で刺したままこちらを振り向いて口を開いた。
『フハハハハハ! 私の【貪欲】は相手の力を吸収して無限に強くなる。前回の雪辱を晴らすために雑魚どもには糧になってもらうのだよ』
「こいつ……! ‟雷塵拳”!!」
『おっと! さて、搾りかすをくれてやる』
「きゃ……!? な、なんてことを……」
騎士は青い顔で気を失っており、刺された場所からはおびただしい出血をしており、このままでは命に関わるほどだ。そういった騎士と魔法使いがすでに七人地面に横たわっている。
「化け物め! <ハイドロストリーム>!」
『くっ、邪魔をするな……! 貴様も吸収してやる』
「ハッ!?」
地面に倒れた騎士へ槍を刺すアドラメルクに、魔法使いの女性が魔法を放って止めさせようとしたが逆に目をつけられて襲われる。
「させないわ!」
『チッ!』
「う……! ま、まだです! <ファイヤーボール>!」
即座に追いついてアドラメルクを殴るとバランスを崩し、槍が脇腹を掠めた。女性は呻きながらも至近距離でファイヤーボールを爆発させ転がるように後退した。さすが、肝が据わっているわね!
「す、すみません、力が急に抜けて……」
それでも力は奪われるらしく、女性は肩で息をしながら尻もちをついて項垂れた。
「あとは私がやるわ! やっ!」
『おっと……! 前にも見た顔だな、女。あの男は居ないのか?』
「ラースのことなら別行動よ!」
『チッ、ヤツに借りを返さねばならんのにアテが外れたか……! まあいい、引き裂いたお前を手土産にしてやろう!』
「簡単にできると思わないことね。‟雷爪”!」
『やるな……力を吸収すれば私はさらに……ぐ!?』
私の拳を槍で捌いたはずなのにアドラメルクが呻く。掠ったのかと思ったけど、その理由はすぐに判明する。
「悪いけど君はここで終わりだ。修行の成果を見せてやる! ‟ワールウインド”!」
『ぬう……!?』
影から現れたデダイトさんが大剣で打ちつけ、ストームドラゴンとの修行で会得した技でアドラメルクへ仕掛けた!
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