第五百十五話 その瞬間が命取り


 「【霊術】……うん、スケルトンとゴーストは呼べるみたいだ。僕は騎士さん達の援護に回るよ、オオグレさんはファスさんの方へ」

 「承知した。危なくなったらすぐに呼ぶでござるぞ!」

 「もちろん! でもロザさんのダガーがあるし僕も鍛えたから魔物くらいは大丈夫だよ」


 ウルカはアンデッドを引き連れ、沸いてくる魔物を騎士と挟み撃ちするように攻撃を仕掛けていく。それを横目で見ていたジャックが肩を竦めて言う。


 「うへぇ、あいつどんどん凶悪になっていくのな……」

 「能力は希少でござるからな。幼少のころは自信さえあればと思っていたところに、ルツィアール国の一件で頼られたことや、対抗戦で成長機会があったのは僥倖だった。ラース殿にも感謝したい。というかお主の【コラボレーション】もなかなかに凶悪だと思うでござるよ」

 「まあな……っと、それよりファスさんの援護だ!」

 <承知していますわ! ‟フロウソード”まずはわたくしが行きます>


 シャルルがスカートと尻尾を翻しながら、水の剣を作って斬りかかる。

 超圧縮した水は石をも切り裂く威力となり、容赦なくルキフグスの首を狙う。


 「シャルルか! あたしの邪魔はすんなよ!」

 <もちろんですわ、殴られたくありませんからね! 覚悟!>

 『【拒絶】する!』

 <あん!?> 

 『ぐぅ……忌々しい女め……!?』


 ファスの攻撃を防ぎながら、さらにシャルルにも【拒絶】をルキフグスはフロウソードの一撃を免れた。

 だが、今までファスの攻撃を片手ガードにしたため、大きく壁に叩きつけられていた。

 

 <斬れないとは思いませんでしたわ>

 「あいつは攻撃を返すことはできるけど、自分に向かっていない殺意や攻撃は返せない。そこが狙い目ってところよ」

 <力押しじゃマズイってことですわ……ね!?>

『私の攻撃が【拒絶】だけではないのですよ!』


 ファスとシャルルが弾かれた反動で後退しながら話していると、ルキフグスが地面を走らせるようにシャルルへ鞭を振るう。


 <なんの! ですわ!>

 『トカゲかと思いましたが、ドラゴンでしたか。しかしそれで避けたとは思わないことです!』

 <伸びて……!?>

 

 シャルルは咄嗟に背中から羽を出して空へと逃れたが、炎の鞭はうねりを上げながら伸びて襲い掛かってきた。


 「なんの!」

 「落ちてこいシャルル!」

 <は、はい!>

 『鞭を弾いた!? 触れたものを灰燼にするこの鞭を……!?』

 「ファス殿!」

 「あいよ!」


 シャルルはジャックの腕にすっぽりと収まり、驚愕したルキフグスへファスとオオグレが迫る。


 『戻れ、炎の鞭! 【拒絶】した後、灰にしてやりましょう――』

 「‟雷塵拳”」

 「剣技……‟椿三連”……」

 『【拒絶】! ……できない!? 何故!』


 ファスの拳が右頬に突き刺さり、オオグレの剣閃が左腕を切断。


 「トドメ!」

 『まだよ!!』


 ルキフグスは驚愕の表情を浮かべながらも、右手の鞭を振りかざし、炎の壁を作ってファス達の攻撃を防いでいた。距離を取ったファスとオオグレは構えを解かないまま、口を開く。


 「くっく……あたしがなんの意味もなく拳を叩きつけていただけだと思っていたのかい? マキナを離したからあの連携ができないとでも? バーカ、それくらい想定して修行しているんだよこっちは」

 『生意気な……!』


 左腕から出る靄を抑えながら呻くように吐き捨てた後、ルキフグスは靄を再度形成して左腕を再生した。


 「面妖な……!」

 「核とやらを壊さない限りこいつらは死なないって言ってたろ?」

 『くは……! その通りよ。だけど、わざわざ核の場所を教えるつもりはないわ』

 「聞く必要はない。跡形もなくバラバラにすればいいだけでござるからな」

 「ま、そういうことだね。行くよ!」

 『どいつもこいつも、ぶっ殺してやる! 唸れ‟獄狩炎歌”』

 「それがあんたの本性かい? 受けて立ってやるよ!」


 苛立ちを隠しきれずにルキフグスが火炎の渦をファスに放つと、彼女はそれに構わず突き進もうとした。そこへオオグレが割って入り、刀を回転させて炎を散らしていく。


 「‟蓮の太刀”! 当たったら死ぬでござるというのに無茶をする!」

 「いいぞオオグレ! あたしが突っ込む!」

 「ちょっとは拙者の話を聞くでござるよ!? 旦那はさぞ苦労をしたであろうな……」

 『調子に乗るんじゃないよ! <ファイヤーボール>!』

 「なんの! 熱っ!?」

 「ファス殿! わわ、拙者の足が黒く!?」


 突っ込んでくるファスに対し、ファイヤーボールで牽制をしつつ炎の鞭を地面に広げて足元から焼き尽くそうとするルキフグス。


 <ここはわたくしが!>

 「悪い!」

 『チッ』


 炎にまかれそうになった二人を、ドラゴン形態になったシャルルがすぐに回収して高く舞い上がる。


 「かたじけない! 奴め炎の範囲を広げる気か。このままでは焼けるか蒸し焼きでござるな」

 『是非そうなって欲しいものね……! でかい図体が目障りなんだよ! ‟裂尖炎羽”』

 <きゃあああ!?>

 「シャルル!? てめぇ!」

 

 炎の羽が無数に飛びかい、シャルルの巨体とファス達を包み込むとシャルルはたまらず落下して地響きをたてた。引き裂かれたシャルルとファスが立ち上がったところに炎の鞭を巻きつけようと鞭を伸ばす。


 「オオグレさん! ちょっと借りるぜ」

 「おお!? 拙者を背負ってどうするつもり……む、なるほど」


 ジャックはオオグレを背負ったまま、自分の持つ剣を使いルキフグスに向かって切り込んでいく!


 「‟柘榴の舞”だ!」

 『鋭い!? ガキが見よう見まねでやるかい!』

 「【コラボレーション】元のコピーはほぼ完璧に再現できるんだぜ? 今じゃ手を握ってなくても触れれば出来る!」

 『やるわね……! 【拒絶】』

 「くっ……! まだだ、シャルルを傷つけたこと許さねえからな!」

 「ぐぬ、足が焦げてさえなければ! ファス殿、早く!」

 「分かってるって……! ジャック、無茶すんじゃないよ!」

 <す、すみません、熱くて動きが……ジャック、およしなさい、貴方では無理ですわ!>


 ファスが焦りながらシャルルをどかそうとしながら怒声を上げると、ジャックと打ち合いをしているルキフグスが笑みを浮かべる。


 『……なるほど、あなたは大事にされているようですね? なら――』

 「う!? な、なんのつもりだ!?」

 「むう!?」


 ルキフグスが左手でジャックの首を掴み、持ち上げると背中のオオグレがずり落ちてしまい【コラボレーション】が解除された。


 『くく……私が直接あなたを縊り殺してやろうと思いましてね! あの女達の絶望に歪む顔が目に浮かびますよ』

 「や、止めろ!」

 『それ、首の骨が音を立てる……』

 「あ、が……な、なんてな! 近づいてくれてありがとよ、どうやって近づこうか悩んでいたんだ、ぜ!」

 『……? 気でも触れましたかね? あなたが私を倒すことなど不可能ですが』


 ルキフグスがそう言った瞬間、ジャックは首を絞めている腕を掴み、強引に身体を前にすると、もう片方をルキフグスの顔面に手を当てて不敵に笑う。


 「そうだな、確かに俺は戦う力が弱い。冒険者じゃねえただの魚屋だし、多分ウルカにも負けるだろうぜ。だがな、俺には【コラボレーション】というスキルがあるんだぜ?」

 『それがどうした、他人の力を借りることしかできんスキルでなにをするつもりかしら?』

 「くっくっく……借りるんだよ、他人の……お前の力をな! 【コラボレーション・カウンター】!」


 ジャックが魔力を込めたその時、右手と左手がゆらりと光を放ち始める。するとルキフグスの体ががくがくと震え出し、悲鳴に近い声を上げてジャックを引きはがそうともがき始めた。


 『き、貴様!? こんなでたらめを! わ、私の【拒絶】をこんな使い方――』

 「おっと、逃がさないぜ? ドラゴン達と修行した俺の腕力はちょっとしたもんだ、どうした? 首を折るんだろうがよ!! 【拒絶】!」

 『あ、あああああああああ!? き、消える!? わ、私が私を拒絶する!?』

 「俺の【コラボレーション・カウンター】は放出するだけじゃなくて別の誰かに内包することもできるようになった……触れていれば、お前の【拒絶】を誰かに『使わせる』ことだって可能なんだよ。今回はてめぇのスキルで自滅しな……!!」

 『ば、かな!? あの女かドラゴン……剣士のスケルトンならまだしも、貴様のようなやつにぃぃぃぃぃぃ!』


 ジャックの首を掴んでいた手の力を強めるが――


 「おせえ。とっとと消え去れよ、魚屋に倒された憐れな悪魔さんよ」

 『お、お……おあああああああ――』


 ジャックが目を細めてそう言うと、黒い靄を目や口から吐き出しながらルキフグスは消滅するのだった。


 「ふう……修行した甲斐、あったな」

 「ふっふ、あえて隙を見せて本丸を叩く……見事でござる!」

 「おう! おっと、シャルルを助けてやらねえと! おーい無事か!」

 <大丈夫ですわ! さすがわたくしの旦那様です!>

 「ま、魚屋にしちゃよくやったんじゃない? あたしが一番強いと思わせるために頑張った結果だぞ?」

 「たまには褒めてくれてもいいのによ……ってか、まあセフィロの実のおかげだからそれも言えねえか」

 <ふふ、わたくしがいつでも褒めますわ♪ そういえばウルカさんを助けに行かないと>

 「だな! 行くか!」

 「せ、拙者も頼むでござるよ! 一度土に帰れば治るのですが!」


 ジャックは肩を竦めてオオグレを拾うと、ウルカ救出に向かう。気づけば【拒絶】で作られた檻は無くなっていた。


 「ありがとうみんな! とりあえず一人、だね」

 「この調子で全員倒しちまおうぜ!」

 「マキナを追うわよ。アドラメレクを追った筈」


 ファスがそう言って駆け出し、ジャック達や騎士達も続いて後を追う。


 そしてアドラメレクが待つアーヴィング家の屋敷では――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る