第五百十四話 【拒絶】する者
「師匠達が戦った悪魔は同じところに居たんでしたっけ?」
「そうじゃな、同じところにおれば御の字じゃが、恐らく同時撃破を避けて別行動をしていると考えるのが無難じゃろうな」
私の問いに師匠が周囲に目を向けながら答えてくれる。悪魔は三体で部隊は五つ。必ずどこかの部隊は遭遇しないことになるため、散開する前に悪魔が二匹いた場所へ私の部隊と、師匠の部隊で様子を見行く途中だ。
「二体同時ならそれはそれで楽できそうだけどな」
<いや、そうでもないぞ。スキルが強力な者達だ、連携されたら我たちはともかく騎士たちに甚大な被害が出るだろう。できれば各個撃破と行きたいところだ>
「あー、そういう考え方もあるか……確かに【拒絶】は面倒だな」
<拒絶……どういうスキルですの?>
「私も聞きた――」
「む! 皆の者、ご注意を!」
シャルルがジャックに尋ねた瞬間、スケルトンのオオグレさんが叫び、見えない何かに数人が吹き飛ばされる。
「今のは……」
「くっ……みんな大丈夫!?」
<うむ、我は問題ない>
「僕も大丈夫だ。うん? ここから先に行けないな。見えない壁があるような……?」
「こっちからも無理そうだな。ファスさん、どうする?」
デダイトさんとジャックが顔を見合わせて手を伸ばすけど、透明な壁に阻まれているみたいね。
騎士さん達も三分の一が師匠達の方に取り残された……でいいのかしら? そういう状況になり、ジャックが師匠にどうするか尋ねる。
「……」
すると師匠は無言で暗闇の中へ全力で石を投げ、酷く鈍い音が響き渡った。それと同時にこの場に殺気が膨れ上がるのを感じ、思わず身構えた。
「居るな? この技は恐らく拒絶……お主の名はルキフグス、じゃったか?」
『その通りです。また会えて嬉しいですよ』
「こっちもじゃ。あの時はラースが居たが、今回は無し。お主もアドラメルクが居らんようだから、心置きなく全力を出せるな」
師匠が不敵に笑うと、シャルルが眉根を潜めて口を開く。
<あれが悪魔、ですのね。見た目は女性のようですが、あの鞭、マズイ代物ですわ>
『ふん、新しい仲間を連れてきたようね? なにを連れてこようと完全な力を持った私に勝てると思わないことね』
「最初の計画が潰れたぜファスさん、どうする?」
「どうもこうもなかろう、ジャック。こっちに居るのは誰じゃ」
「え? 俺とシャルル、ファスさんにウルカ、それと騎士さんが二十人ってところだな」
「なるほど、お主狙ったな?」
師匠がそういうと、ルキフグスは目を半月状にして笑みを浮かべ、ゆっくりと頷く。
『当然……そこの小娘と貴方の連携はさすがにもう食らいたくありませんからね? そちらの骸骨は少々手に余りますが、近接しかできない剣士など【拒絶】の前には意味を成しません。そして子供二人はそれほど強くない。脅威はあなただけですが、連携もできないので勝ち目はありませんねえ? くっく……』
「さて、それはどうかのう? マキナ、ここはわしらでなんとかする。お前達は残りの悪魔を探せ」
「分かりました! デダイトさん、サージュ行きましょう!」
私が口にした瞬間、デダイトさんが私の前に立ち大剣を構え、轟音と共に笑い声が聞こえてくる。
『よくぞ避けた……! 私は逃げも隠れもせん。領主の屋敷で待つ!』
「分散させる気満々だね、僕達の家を返してもらうよ!」
「ありがとうございますデダイトさん! ええ、急ぎましょう! 騎士さん達もお願いします!」
「「任せてください!」」
<頼むぞファス、ウルカ、ジャック、シャルル>
<……くく、お任せあれ>
シャルルの不敵な言葉を背に、私達はラースの家へと駆けだした。
◆ ◇ ◆
『良かったのですか? もしかしたらこの中に入れて助けが貰えたかもしれないのに』
「挟み撃ちを食らうのが目に見えておるからのう」
『……』
笑みを崩さないルキフグスだが、返さないところを見ると当たりかとファスは胸中で呟くと、刀を手にしたオオグレがカタカタと口を動かす。
「ではここには拙者たちとお主しか居ないということか? それはそれで好都合」
『それでも構わないのですが、まだそこに邪魔な者達が居ますから少し遊んでもらいましょう』
「む……!」
「こいつらは……!」
オオグレの言葉にルキフグスは炎の鞭を振るうと、【拒絶】で作られた壁にランタンのような灯りが点灯し、靄の魔物が現れ騎士たちが即座に構える。
『行け! 私の獲物には手を出さぬように!』
「くそ、シャルル行くぞ!」
ジャックが剣を抜いて手助けをしようとしたところで、襲い来る魔物を倒しながら騎士がジャックを制す。
「大丈夫だ! 蹴散らしてからすぐそっちへ向かう!」
「おお! それまで死ぬんじゃねえぞ!」
「……くっ……」
<彼らの言う通りですわジャック。アレを止められるのはわたくしたちの方が適任です>
「そういうことだね。オオグレさん、悪魔を倒すよ」
「承知」
『くく……威勢だけはいいな……この炎の鞭で悶え死ぬといい』
<‟アクアネイル”! ……やはり侮れませんわね>
「触れたら即死……お前も相性が悪そうだな」
<ですわね。武器がないファスさんは後方で隙を……って、ファスさん?>
不意打ちで放った技を炎の鞭であっさり蒸発させるとシャルルは目を細めて唇を噛み、ジャックが庇うように前に出る。ガントレットすらつけていないファスには辛い相手だとシャルルが声をかけると――
「すぅ……はああああ……」
<あら、もうそれを使うんですの?>
「しかし素手では危ないでござるぞ……?」
深呼吸をして気合を込めているファスは二人の言葉に答えず呼吸を続け、ふとそれが止まった後にファスが口を開く。
「……なあに、あたしのような老いぼれが先陣を切るのがいいってね。オオグレ、あんたも死んでんだ、付き合いな!」
「はあ、この状態になると好戦的になるのはなんとかならないのでござるか?」
「知るか! 行かないってんならあたしから行くよ!」
「あ! 待ってよファスさん!?」
ウルカの制止も聞かず、ルキフグスへ一直線に向かうファスに口を歪めてルキフグスが笑う。
『いくら素早かろうが私の【拒絶】は打ち破れないわよ? 炎の鞭を使うまでもない……! 舐めないで欲しいわね! 【拒絶】する!』
「あははははは! 舐めているのはそっちでしょ! ‟豪破雷鳴撃”!!」
満面の笑みで雷を纏った拳をルキフグスに放ったファスの一撃は【拒絶】されるかに見えた。しかし、見えない壁にぶつかった瞬間ルキフグスの体が大きく吹き飛ばされた。
『な……!?』
「『な……!?』じゃないんだよ! もう一撃!」
『ぐおおお!?』
左拳で追撃をすると、さらに大きく吹き飛びルキフグスが作り出した【拒絶】の壁に叩きつけられ、片膝をつく。もう一度ファスが攻撃を仕掛けようとしたが、炎の鞭を振られて後退した。
ファスは髪をかき上げながらニヤリと笑い、ステップを踏みながら口を開く。
「マキナが居なくてもこれくらいはできるんだよ。一度見た技を攻略される可能性くらい考えておくんだね」
『そんなでたらめなことで【拒絶】を……!! 殺してやる!』
睨みつけるルキフグスに対し、指をくいっと引いて挑発をするファス。それを見ていたジャック達がため息を吐きながら首を振る。
「ああなったら手が付けられねえんだよな……」
「拙者も訓練相手をした時は相当身を削ったでござるよ」
<元から骨しかありませんわよ?>
「そうじゃないよシャルル。さ、ケリをつけよう!」
ウルカが死禁の書を取り出し、全員が頷くとファスの下へと向かった。
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