第五百十話 直前の戦闘


 「<ファイアアロー>! 僕も魔法で援護するよ」

 「ラディナは俺達の馬を。シュナイダーとアングリフは騎士たちや冒険者の馬を守って! 正面はラースがやってくれるかい!

 「オッケー兄さん、<ハイドロストリーム>!」

 「あおおおおん!」

 「シマの魔物にクラベレバ雑魚ダナ。動く木はマカセロ」

 

 何事もなく現地へ到着……というわけにはいかず、六日目に靄の範囲に近づいてからは黒い魔物の襲撃が激しくなった。

 俺達がオーファ国のアルジャンさんのところへ立ち寄った帰りよりもさらに広がり、半径十キロは靄に包まれている。幸いなのはレフレクシオン王国に向かってのみなので、まだ範囲内に近隣の町や村が入っていないことだろう。


 「リューゼ、右から来たぞ、おっ払え!」

 「あいよ!」

 「徒歩の人はきついわね、私も降りて戦うわ」

 「ではわしも行くとしよう」

 「ごめん、数が多いや頼むよ」


 言うが早いかマキナとファスさんは飛び掛かってきた黒いジャイアントビーに飛び蹴りを入れながら馬車から離脱。


 「ひぇ!? 無茶すんぜ……怖くねえのかよ……。行かせるかっての! 【魔法剣】‟ウインド”吹き飛びな!」

 「それに【氷結】を合わせてあげるわ」

 「すごーい! やっぱり夫婦だとそうなるんだ!」

 「「まだ違う!!」」


 リューゼとナルも負けじと空中から群がる魔物を一掃していき、クーデリカが感嘆の声を上げていた。

 二人の自爆を横目に、地上の敵を倒すため俺は魔法を連発する。そんな中、少し離れたところに居るレッツェル達も荷台から応戦しているのが見えた。


 「まったく、落ち着いて休むこともできませんね」

 「<シャドウバインド>っと、リース後はお願い」

 「ほれ、硫酸の雨だ消えるといい」


 メスを投げて的確に急所を攻撃するレッツェルに、影を使った蜘蛛の糸のような魔法で、奇しくも蜘蛛型の魔物を動きを止めるイルミ。そこへリースのえげつない薬品が襲う。

 

 「あいつら流石に一緒に居ただけあって連携は見事だな」

 「子供のころよくあいつを倒したよねラースは。おっと、大物だよ!」

 「大丈夫! <ファイヤーボール>!」


 兄さんが【カリスマ】を駆使して俺達に指示を出しながらレッツェルを見て目を細める。

 根にもつタイプではないけど、俺や両親を陥れた張本人なので、口には出さないけど思うところもあるのかな。俺と同じで家族大好きだし。

 

 「騎士で壁を作り魔法使いで殲滅だ、散開!」

 「ホークさんの邪魔をするわけにはいかないか、ラディナ、馬達と加速だ!」

 「ぐるおおお!」

 「ひひーん!」

 「どわ!? おい、ラース気をつけろよ!」

 「悪い!」

 <ふむ、我の素材で作った武器、悪くないではないか>


 サージュは俺のドラゴンブレイドを軽々と振るい、黒いヴァイキングウルフの首を落としていき、身体の動かし方はもう問題なさそうで安堵する。……ドラゴン形態と使い分けが肝心だからな。


 「さて……」


 マキナとファスさんの様子をチラリと見た後、突っ切るため騎士達に向かう魔物を一体ずつ丁寧に駆逐。

 後続はジャックとシャルルが付いているのでマキナ達を拾ってくれるはずだと、先を急いだ。


 そして、そこから三十分ほど経過したところで俺達は野営をすることになった。


 「ただいまー!」

 <戻りましたわ>

 「よう……こいつ、ただでさえでかいのにめちゃくちゃ速く飛ぶんだよ……」

 <きちんと乗っていたではありませんか♪ さすがジャック>

 「そりゃどうも……うえっぷ……」

 「あはは、私がサージュに初めて乗った時みたいになってるわね」

 「とりあえず水を飲んで休んでもらおうか。みんなお疲れ様」


 待っていたけど中々戻らないので、探しに行くか考えていると、マキナとファスさんを乗せたシャルルが帰って来た。道中、騎士達の進軍を手伝っていたらしい。

 俺達は先ほどまでこの駐留場でしつこく襲われていたから救出に行けなかったけど、処理できたらしい。

 ……というか、陽が落ちるにつれて数が減っていったのが真相のようだけど。


 「黒い靄の中だからいくらでも湧いてくると思ったけど、そうじゃないんだな」

 『そうねえ。陽が無ければ影はできないでしょ? 夜の闇では出てこないってことおぉぉぉ!?』

 「どうしてそんな大事な話を言わなかったんですかねえ……!」

 『痛い痛い!? ……そりゃ聞かれなかったからよ。ペラペラとお喋りする奴は信用ならないって聞かない? 実は恋人相手に甘えるバス――』

 「ふう……」

 「は、速い……!?」

 <ぜ、全然見えませんでしたわ……>

 「あーあ、こりゃ目が覚めないぞ」

 「リースの薬でも無理なのー?」

 

 リースが匙を投げた瞬間、とりあえずリリスは荷台へと乗せられた。みんな苦笑しながら思い思いの場所へ散り出したので俺は料理を始めることにした。


 「今日はなににするのじゃ?」

 「疲労困憊って感じじゃないからスタミナをつけるために生姜焼きにしようと思う」

 「ふむ、承知した。わしのはニンニクを入れてくれ、頼むぞ」

 「オッケー」

 

 それだけ言って軽い足取りで荷台に乗ると横になって鼻歌を歌い出す。その様子を見てマキナが苦笑しながら俺に言う。


 「ふふ、師匠嬉しそうね。可愛い」

 「あの姿でやられたら絶対惚れる人が居るよね、美人だし。あ、マキナ、冷蔵庫から暴れイノシシの肉を出してもらっていい?」

 「はーい」


 玉ねぎを切りながらマキナに指示を出していると、不意に気配を感じ、顔を上げるとそこにはなんと――


 「お、おい、ラース……あの美人は誰なんだ!? お前ばっかりずるくないか!?」

 「ロイ!? 参加してたのか!」

 「おう! 報酬がいいのと、お前んとこの町だって聞いて参加した。そ、それより、あの人は……」

 「うーん、ごめん。ファスさんは既婚者だから諦めよう」

 「!? お前か! お前が娶ったのか! くそ、なんでラースばっかり! いや、金もってて強いし、わかるけどよ!」

 「うわあ!? 包丁持ってるから! まあ、俺じゃないけど諦めなって。同じパーティにも女の子いるじゃないか」

 「お前は妹と結婚できるのか?」


 妹だったのか……


 「無理だな……。まあ、ロイはいいやつだしすぐ見つかるよ。でも、まさかロイが居るとは思わなかったよ」

 「はあ……残念だ。超好みだったのに……。他にも居るぜ? サンディオラでドンパチやった後、ギルドに来ねえしよ」

 「ははは、忙しくてね……心強いけど無理はしないでくれ」

 「分かってるよ。宰相経由で伝わって来た話は聞いているぜ。大物は任せた」


 俺はロイの言葉に頷くと、生姜焼きが美味そうだと妹達を連れてきたので、量を増やさないとと料理に夢中になった……。ちなみにファスさんに話しかけていたけど、軽くあしらわれていた。

それにしても夜は安全か、普通は逆なのにと思いながら戦略を考えるのだった。

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