第五百九話 ガストの町へ
「気を付けてー!」
「いってらっしゃい!」
「しっかりやるんだよー!」
「やあやあ、わたし達にお任せください!」
「ナゼ、ここニ……」
町の人たちから声援を受け、ワイバーンのアングリフと一緒に屋根に乗っているバスレー先生が手を振っていた。
というわけで俺達ガストの町奪還を目的とした騎士、冒険者、学院教師といったメンツが王都イルミナートから出陣していく。
騎士団長二人の内、ホークさんだけこちらに来てイーグルさんは待機。前回は転移魔法陣で繋がっていたからいつでも帰れたけど、今回は片道七日かかるため留守番もいる。
まあそれはいいとして、俺はすでに疲労が蓄積されていた。
「ふう……」
「大変だったわね……」
「アイナちゃん泣いたんだって?」
「ああ、そうなんだよリューゼ。セフィロが行けるのに自分はいけないのかって。アッシュも置いて来たんだけど珍しく俺の足を噛んで離さなかったよ」
ちゃんと甘噛みしてたけど、引きずられてモップみたいになってたアッシュにはアイナを守るように言いつけてなんとか引きはがした。
アイナには父さんと母さん、それとノーラに任せて急いで出てきた次第だ。途中、見送りでニーナとトリムが来てアイナを慰めていたからなんとかなったと思いたい。ナイスだトリム。
「まだ小さい子だしな。今回はサージュも完全にこっちだし、置き去りにされたと思っても仕方ねえか。とりあえずこいつを使ってさっさと終わらせるのが一番だな!」
そう言いながら鞘からロザの大剣を少しだけ抜いて笑うリューゼ。
実際、手合わせをした時に【魔法剣】のフレイムソードを使ってきたんだけど自信ができるくらいの威力があった。本気でやったらお互い無事じゃすまないほどの大剣だ。
そこでマキナが口を開く。
「そういえばダガーはどうしたの?」
「あれは僕が預かっている。ウルカかナルの方がいいと言ったんだけど、万が一ということでね」
「私のスキルと相性が良くないから、勿体ないけど辞退したわ」
ヨグスがチラリと懐のダガーを俺達に見せ、ナルが肩を竦めて言う。やはり氷のスキルと相性は最悪レベルでダメらしい。
「いいなあ、わたしも魔法系の特技か武器が欲しいよ」
「クーデリカは刃の部分を新サージュの素材で強化したんじゃなかったっけ?」
「そうだよラース君! でも、力任せって馬鹿っぽくない?」
「それを言ったら私の【カイザーナックル】も似てるし」
「マキナは技があるからいいんだよー。グランドドラゴンのお爺ちゃんに素材貰おうかなあ」
「グランドドラゴンと一番戦ってたのはクーデリカだもんねえ」
だいたい苦手とするドラゴンが居たけど、グランドドラゴンだけは装甲の厚さがとんでもないので、マキナの技以外で気絶させた人間は俺を含めていない。
クーデリカの【金剛力】でも肉薄したくらいだろうか? それでも武器の角度や緩急といった力以外に必要な強さを手に入れていた。
「とりあえずその辺は無事に帰ったら相談してみよう。さて、事情を一番知っているのは俺達と向こうの馬車にいるレッツェルだ。着いたら合流するぞ? で、様子見予定だけど、黒い靄が広がっているなら予断は許さない状況だと思う。最悪、俺が全力で魔法を撃ってみる」
『靄を吹き飛ばそうっていうの?』
「やってみて損はないだろ? 門はこのラディナ号でぶち破る」
どうせ町には誰も居ないし小難しく考える必要は無いのだ、少しくらい無茶をしても問題ない。そう思っているとファスさんがリリスに尋ねる。
「それで良かろう。出方がわからんのはいつものことよ。それよりもリリス、お主はこのまま行っていいのか?」
『まあ、仲間ではあるけど好き勝手するのが私達だからいいんじゃないかしら? 手は出さないけど、向こうに協力もしない。後、一応言っておくけど、私達ってあくまでも召喚された形だから『死』という概念はないわ。消滅はしてこの世界に干渉は出来なくなるけど』
「悪魔だけにあくまでも、ですか。こちらの世界から消えてもらうだけでも充分ですけどね? そこはセフィロ君がなんとかしてくれるということで?」
『びっくりしたぁ!?』
突然天井から顔を出してきたバスレー先生がリリスの言葉に反応してそんなことを言う。すると俺の膝に座っていたセフィロが決意に満ちた顔で頷く。
「うん。マキナおねえちゃんとラースお兄ちゃん、それとバスレー先生はすでに悪魔に対抗できるからそれぞれ別れて戦ってもらいたいかな。ボクの実を食べる人をどうするかは向こうで考えるよ」
「わしも除外していいぞ。自分の力で制して見せるわい」
「わかった」
「さて、アクゼリュス……いえ、アスモデウス。次は必ず消し去ってやりますよ」
『犠牲は出したくないですしねえ……イシシシ』
珍しく真面目な顔で眉間にしわを寄せたバスレー先生とレガーロが不敵に笑い、俺達は頷き結束を固める。
そこで、外を出たところに作っている、エバーライドの兵士達が居る仮設の村からも兵士達が歓声を上げていた。
「彼らのためにも計画は成功させないとね」
「ああ、ライムやライド王子が帰れるように。兄さんも家に帰りたいだろ?」
「そりゃあね。王都も面白いけど、自宅が一番だよ」
旅行に行った時のようなことを言う兄さんに苦笑しつつ、俺達はガストの町へと進軍を開始した――
◆ ◇ ◆
『……ふむ、あの三人がここまでやられるとは、この世界の人間もやるものだな』
「いやあ……まさかアンタがくるとは思わなかったですわ……」
『来いと言ったのはお前だろうアルバトロス』
「アンタもな……十神者の上から二人が来るなんて思うかよ」
『それはそうだろう。三位とはいえシェリダーもやられているのだぞ? どんな奴等か見ておきたい。教主様といつか戦うことになるだろうしな』
『とりあえずどうするバチカル? 復活するまで我等で相手をするか?』
紫の髪を逆立て、妙に痩せている男がほりが深く、短い髪を切りそろえた長身の男に尋ねる。
『いや、復活は間近のようだし、そいつらが来るのを待とう。ここでやられるならそこまでだと言うことだ』
『逆に言えば、教主サマの言いなりにならなくていいから悪くないと思うがね』
「……アンタ達、教主様直属の部下じゃねえのか?」
『そうだが? ああ、そんな口を聞いていいのかとでも言いたいのか? 部下ではあるが、作られたものだからそこまで気にするものでは無い。問題は奴が死んだあと、だろうな』
バチカルと呼ばれた男はアルバトロスに言うわけではなく、自分達が確認するような言い方をしていた。
「(ふーん、どうも教主サマとこいつらにも色々ありそうだな。突けるか?)」
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