第五百八話 嵐の前に⑤
「国王様どうしてここへ……?」
「ちょうどフリューゲルと広場へ向かうのが見えたのでな。……それにしてもよくここまでの知識を持っているな」
「あ、いえ、俺……私の記憶は前世の記憶を含んでおりますのでそれを活かしているだけですから」
「ふふ、そう畏まらなくても良い、ここは私達しか居ない」
「それは恐れ多いです……」
俺がそういうと国王様は俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で、歯を見せて笑う。
「お前は命の恩人だ、遠慮することは無いぞ? で、これでいけると思うか?」
「恐らく。こっちにはドラゴンが二人に、ドラゴンを相手として相応の修行をしましたから、ガストの町を奪還することは可能でしょう。そのためにこれらを集め、作ってもらいましたし」
「うむ」
そう言って雑だけど設計したクロスボウ、槍斧のハルバード、タイヤ付きの馬車、馬用の装甲、固定砲台として使うバリスタ、魔力で動く扇風機といったものに、俺達がベリアースへ潜入する長期戦に備えて食材を持ち運べる簡易冷蔵庫ともいえるクーラーボックスや簡単に張れるテント、飯盒などの思いつく限りのキャンプ用品雑貨などを作り、揃えてもらった。
遠距離武器をメインに作ったのは相手が得体の知れないこともあるけど、手を触れらることが一番危ないためである。
他にも俺がコックさんに作ってもらった簡易食料なんかあるけど、概ねこんな感じのものをとにかくできるだけ作った。
ゴム風船とかも作ってみたけど、環境に悪そうだから俺しか持っていない……ただ、騎士たちの剣にゴム素材を使い、グリップは完璧にしてある。一ヶ月ちょっと採取したゴム樹液はほとんどない。
できればプラスチックを作りたかったけど石油と天然ガスはなかったので今回は見送りだ。
「料理もコックが驚いておったぞ、ハンバーグにパンを挟んで食べるハンバーガーとやらは私も気に入った」
「ハンバーグを焼いて冷凍保存しておけば後はちょっと火を通せば簡単に食べられるのと、ハンバーガーはサンドイッチと同じで具材を変えれば好きなようにアレンジもできますしね」
「あ、私はテリヤキチキンが美味しかったわ」
「私は『魚のフライ』でしたかな? 年寄りには肉より魚ですわい」
国王様がハンバーガーを食べる真似をして笑うと、マキナとフリューゲルさんも好物を口にする。揚げ物もフリーズしておけばそれなりに持つしね。
「……死ぬなよ、ラース。お前が居ればこの国はもっと発展する。元気な子を作って欲しいしな、マキナ?」
「は、はひ!? がんばりましゅ……」
「あ、そういうのはやめてくださいよ! 俺達は自分たちのペースで進むんですから」
「はっはっはそういうな。もっと嫁を取って欲しいくらいなんだぞ?」
「……もう、国王様まで。あ、そうだ、この辺の強力な武器を作りましたけど、他国を攻めるためには使わないで欲しいです。守るためにだけ使っていただけると」
「そうだな。約束しよう、お前のへそを曲げたらこの国が無くなりそうだ。では、出発までゆっくり休め」
「冗談がきついですよ……でも、昔から国王様はこんな感じでしたっけ。学院長も――」
「あいつの話はやめてくれ……」
「呼びましたかな?」
「「うわあ!?」」
急に現れた学院長に、俺と国王様は飛び上がって驚く。
「な、なんでもない! 私は行く、ラースよ出発前に会おう」
「あ、はい」
「ふむ、良くわからぬが……まあ、アルバートだしのう」
ニヤリと笑う学院長に、多分わざとだろうと思っていると、マキナが学院長へ話しかけた。
「どうされたんですか? というより、城にいらっしゃるんですね」
「そうだよマキナ君。ガストの町から避難してきた人も相当いるから、連携を取るためにね。町の外にも仮設住宅が建って、村みたいになっているだろう?」
「帰ってくるときに見ました」
「私はそういったところの架け橋にならねばならんので、一緒には行けぬが頑張ってくれ、アルバートの言葉ではないが死んではならんぞ?」
「はい、ありがとうございます!」
「みんなで無事に帰ってきますね」
俺とマキナが笑顔で返事をすると、学院長は城へと戻って行った。本当に俺達が見えたから声をかけただけなのだろうか? そんなことを考えているとフリューゲルさんも口を開く。
「では私も戻るとしようか。駐留している騎士と交代で人を寄越すし、冒険者も多数参加してくれる予定だから、作戦は成功するだろう」
「ええ」
フリューゲルさんは片手を上げて立ち去り、残された俺とマキナで物品の確認をしてから家へと戻った。
「今日はヒレカツですか、ソースがまた合いますねえ」
「バスレーせんせいはどうしてここに居るの?」
「アイナちゃんの無邪気な言葉が刺さる!?」
そしてやっぱりご飯時に現れる妖怪バスレー先生と一緒に夕飯を終え、お風呂に入って自室のベッドに寝転がると、久しぶりに一人で居るなと目を閉じる。
「……明後日には進軍か。どれほど黒い靄が広がっているのか……俺達が先行してもいいけど……」
「ラース兄ちゃん入っていい?」
「ん? セフィロか? いいぞ……あ、マキナも一緒だったのか」
「うん。セフィロが三人で話すからって」
部屋にある椅子にマキナが座り、セフィロが俺の膝に乗ると、俺の顔を見上げながらセフィロが言う。
「……ボクの実、まずはマキナおねえちゃんに食べてもらおうと思うんだ」
「前に言っていたやつか? まずはってことは他にも候補が?」
「うん。リューゼに、ウルカ君は確実かな? 先生達はこの先クリフォトを生み出す悪魔と教主と顔を合わせるかどうか分からないから七つは保留するよ。ティグレ先生は無くても強いしね」
「まあ、前回も悪魔とは戦えていたし、今回はさらに鍛えているからティグレ先生は大丈夫だと思うけど、すぐ食べなくて大丈夫なのか?」
「実力はみんなあるから、ピンチの時に食べてもらうのもアリかなって。はい、おねえちゃん」
「わあ、すごく美味しそうね! 皮ごといけるのかしら」
「種まで食べられるよ!」
懐から取り出した実は桃に似ており、甘い匂いが部屋に漂っていた。嬉しそうにマキナへ食べるよう勧め、果実を食べる。
「ん、甘い……なんだろ……不思議な味ね」
「……美味そうだな。そういえば俺は食べなくていいのか?」
「ラースお兄ちゃんは神様の居た世界を通っているからボクと繋がっているみたいなんだ。だから、ボクの力が欲しいときは念じてくれれば多分大丈夫! でもお兄ちゃんはボクより強いから必要ないと思うけどね」
となると、セフィロより力が弱い人が食べると効果があるってことか? 確かに【ソーラーストライカー】状態は俺でも驚くほどの強さを誇るけど……
「はぐ……ふう、ごちそうさま! 食後のデザートには最適だったわ。でも、特に変化はないけど?」
「大丈夫、すぐに効果は出てくるよ。さ、今日は一緒に寝ようかな? アイナちゃんはアッシュと一緒にもう寝ちゃったし」
「って、潜り込むの早いな!? まあ、たまにはいいか……」
「それじゃあ私も!」
「マキナも? 狭いけどいいのかな……」
「いいのいいの♪ たまには、ね?」
そういって両脇にマキナとセフィロがくっついたかと思うと二人ともすぐ寝息を立て始めた。
「はは、疲れていたんだな。……さて、気を引き締めないとな」
翌日はファスさんと軽く手合わせをし、リリスを劇場に連れて行ったら臨時アイドルにさせられたりしたが概ね平和に終わり、負けられない戦いへと進軍を開始する。
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