ガストの町を奪還せよ
第五百四話 嵐の前に①
「わーい、久しぶりのおうちだ!」
「くおーん♪」
俺の家についた早々、アイナとアッシュがバタバタと家の中へ入っていくのを追いかけてアイナへ言う。
「アイナ、先にお風呂に入るよ。アッシュも真っ黒じゃないか」
「そういえばアッシュはまだ茶色いよね。ラディナみたいなるのっていつなんだろう」
「もっと大人になってかららしいよー」
「くおん?」
ソファにダイブしようとしたアイナとアッシュを摑まえて引き寄せると、兄さんがアッシュを正面に見据えて誰にともなく呟くと、ノーラが答えていた。流石【動物愛護】俺より詳しい。
「私と入ろうかアイナちゃん!」
「ラース兄ちゃんとがいいけど……うん、いいよ! アッシュもね」
「もちろん!」
一応、ドラゴン達の島でも温泉があったので入ってはいたけど、念のため汚れは落としておきたい。上着と装備を部屋に戻してからリビングに戻ると、母さんが寄ってくる。
「さて、とりあえずゆっくりとはいかないみたいだけど、休みなさいね」
「ありがとう母さん」
「で、この戦いが終わったら結婚するの?」
「ぶ!?」
母さんがいきなり意味不明なことを言い出し、俺は噴き出してしまう。
「まだ旅に出て半年くらいだからしないよ。後、その言葉は不吉だから止めてくれ」
「ふむ、マキナはまだまだ皆伝というわけにはいかんが、いいんじゃないと思うがのう」
「ファスさんまで……俺達は俺達の考えがあるからいいんだって」
「ははは、それくらいにしてやれ母さん。ウチはデダイトがもう結婚しているからラースは自由でいいじゃないか」
「あなたがそういうなら仕方ないわねえ。まだまだラースはお子様かー」
と、肩を竦めて俺を撫でる母さんをジト目で見ていると、父さんが話を続ける。先ほどまでと違い、深刻な表情だ。
「……気をつけるんだぞ? お前は強いしマキナちゃんやリューゼ君も実力がある。だが、万が一ということも少なからずあるからな」
「うん。そのための修行をしたし装備も後でサージュに頼んで取りに行くつもりだよ。できれば兄さんは残って欲しいんだけど。こっちは俺達がなんとかするよ?」
「いや、戦力は少しでも多い方がいいと思う。悪魔と直接戦わなくても、周辺の魔物を処理するくらいはできるしね」
「オラも行きたかったけど、旦那さんが止めてくるからねー」
「当たり前だよ……」
ノーラが目を細めて口を尖らせて兄さんに言うけど、そりゃ奥さんを危機に陥るような場所に連れていくわけが無い。
「町を奪還したら転移魔法陣をすぐに設置して帰ってくるから我慢してくれノーラ。今回は本当に危ないんだ」
「そうよノーラ、待つのも奥さんの務めなんだからね」
「お義母さんがそう言うなら待つよー……」
「ふっふ、愛されておるのうノーラは」
「うんー! ファスさんの旦那さんはー?」
ノーラが聞くと、珍しくファスさんの顔が険しくなり庭へ出る扉へと歩き出した。
「ふん、あんな薄情な奴は知らん! わしは小屋におるからなにか用事があれば教えてくれ。たまに揃った一家団欒の時間もよかろう」
「あら、マキナちゃんの師匠なんですから家族みたいなものですよ? さ、こちらに座ってくださいな」
「お、おい、マリアンヌ殿……」
肩を掴んで回れ右をしてソファに引き戻す母さんに困惑しながらされるがままに座るファスさんに、父さんも声をかける。
「そうですよ、今までこの家で過ごしていたみたいですし、俺達がお客さんだと思いますしね」
「う、うむ……やれやれ、お主の家族というのがよく分かるわい」
<ははは、アーヴィング家は貴族だが大らかだからな。おかげで我は助かった。……しかし、進軍は二日後で大丈夫だろうか? ガストの町は我の故郷でもある、先行してカタをつけるのもアリだと思う。シャルルも居るしな>
「今回は国王様が計画に噛んでいるからそれはやらない。だけど場合によっては単独行動をするつもりだよ」
「そうじゃな。幸いと言っていいかわからんが、わしらは騎士達に劣らぬ力がある。サージュといった足もあるからそれは問題あるまい。混戦すると各自で判断せねばならんことも多い」
ファスさんの言葉に頷く俺に父さんが尋ねてくる。
「戦いのことはさっぱり分からんから任せるとして。ラース、お前陛下に色々頼んでいたんだってな?」
「ああ、そうだった! 会議の時に聞きそびれてたけどどうなったかな」
「俺も手伝ったんだが、結構いい感じだ。明日、登城して確認しよう」
「オッケー! ありがとう父さん。それじゃ、今日は俺が料理を作るかな? お風呂に入ったら買い出しに行ってくるよ」
「いいの?」
母さんが首を傾げるが、俺はちょっと作りたいものがあることを言うと楽しみだと顔を綻ばせていた。すると兄さんも口を開く。
「おっと、唐揚げが食べられるのかな?」
「ふふふ、唐揚げっぽいけど、兄さんはもしかしたら気に入るかも?」
「オラはハンバーグがいいなー。チーズが入っているやつ!」
ノーラも手を上げてリクエストしてくるが、今回は新料理も挑戦するつもりだ。国王様がアレを作ってくれていれば大量生産も考えた方がいいかもしれないな。
そんなことを考えていると、大人しく座っていたセフィロが喋り出す。
「ボクもお買い物一緒に行くね! お日様に当たりながらお散歩したいんだ」
「お、行くか? お前のその姿も慣れたな……」
「セフィロちゃんも可愛いわよね。いっそウチの子にしてもいいんじゃない?」
「んー、ボクはお兄ちゃんと結婚するからそうなるかも!」
「なに言ってんだお前」
「えへー」
だらしない顔で俺に抱き着くセフィロはアイナみたいだなと苦笑する。
そして予定通り、お風呂と買い出しを終え、久しぶりにゆっくりとした時間を過ごす。
自重せずに作ったチキン南蛮と生姜焼きは全員に好評で、特にピュリファイで雑菌を取るという荒業からのマヨネーズ作成、タルタルソースの流れは鶏肉が好きな兄さんが物凄く喜んでいた。
キレイにする魔法だからもしやと思ったんだよね。鑑定したらちゃんと雑菌が取れていた。
「これ……凄いね。ラースはお店をしても儲かるんじゃないかな? ほら、誰か料理のスキルを持っている人を雇って教えてさ」
「あーそれも面白いかも? レオールさんあたりに相談してみようか」
「オラ、タルタルソースだけおかわり!」
「アイナも!」
「私は……生姜焼きがいいわね。ご飯に合うわ」
「じゃな。ふむ、無言になるのう……」
ひとまず鶏肉、豚肉、牛肉を使った料理を作ったし、厨房を借りてまた国王様に食べてもらおうかな――
「うわ!?」
「どうしたのラース? ……ひい!?」
「……なにをしとるんじゃあやつは……」
小さく窓を叩く音がしたので庭に繋がる扉に目を向けると、いつかのように窓に張り付いて恨めしそうに俺達を眺めるバスレー先生が居た。夜だったら小さい子が見たら泣くぞと思いつつ招き入れると、
「その新しい料理、食べさせてください!」
「え、用事があったんじゃないの?」
「いいえ? 美味しそうな匂いがしたので」
特に用事もなく、集りに来ていただけだった……三軒隣でよく分かったな……
そして昼食を食べた後、俺はサージュと一緒にアルジャンさんの下へ向かうことにした。
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