第五百三話 先の先の話
「いやあ、まさかこんな話になるとはな……」
「僕達を評価してくれるのは嬉しいけどね。心配事は悪魔達だけじゃないのが、ね」
「サージュとシャルルのドラゴンも居るから、奪還自体はなんとかなると思う。悪魔を倒せるかどうかだな」
「ティグレ先生にファスさんやオオグレさんも居るし、今度は確実に倒せるよ」
会議後、俺達は会議室に残ったまま国王様の提案について盛り上がる。
概要は単純で、ガストの冒険者や学院長に先生方、それと俺達に騎士が攻め入ることになった。もちろん半戦闘員のルシエールやルシエラ、ノーラやベルナ先生は王都に残るけどね。
で、各人の両親が現れた理由は割と大胆かつとんでもない話だった。
ガストの町を奪還した後の話だけど、そのまま俺やマキナ、ファスさんにリューゼやウルカといった少数戦力でエバーライド王国に入国することになったからだ。
とは言っても戦う訳じゃなく、あの国の内情をもっと詳しく確認したほうがいいだろうとのこと。
特に城はライム曰く王族がおらず、国を治めるようなそれらしい人物がいるような感じもしないのでもぬけの殻ではないかという。上手くやれば城を落とせるかもしれないのだ。
まあ、俺としてはそこまで楽観はせず、アポスや他に手練れを置いている可能性の方が高いと睨んでいるけどね。
そんなわけで危険な作戦のため、事前に本人と両親に話をするため呼んだというわけだ。
「どちらにしてもガストの町を奪還しないとね。そこから遠征になるんでしょ?」
「みたいだね、ベリアース王国はエバーライド王国を落としてからなりを潜めているけどルツィアール国を狙っている噂があるし、オーファ国は派手じゃない小競り合いを何度かしているからね」
「だからアルジャンさんが忙しいって言ってたもんね」
アルジャンさんが儲かっているのは国から頼まれている装備品らしいんだよね。
それはともかく、メンバーはガストの町を奪還したときに元気なメンバーが選出される予定だ。
「ティグレはベリアースにはいかんのじゃな」
「俺はあの国出身でそれなりに名前が売れてるからな……目つきの悪いガキだったから、ヒッツライドみたいに覚えている奴もいるかもしれねえから、ファスさんに任すぜ」
「うむ。サージュとシャルルが居ればだいたい何とかなるじゃろ……尻尾は隠してもらいたいが」
そういってファスさんがシャルルを見ると、スカートの中に尻尾を隠して目を泳がせる。
<ぜ、善処しますわ……ぐぬぬ、後から人化したのにサージュの方が上手いなんて……!!>
「古代竜ってちゃんと覚えれば凄いって言ってたじゃねえか……ロイヤルドラゴンの子供だし、お前も練習すりゃいいだろ?」
<頑張りますわ>
「えっと、シャルルさんだったかな……? ウチの息子とどういう関係か家でゆっくり聞かせてくれるかな?」
<ええ、もちろんですわ!>
ジャックに励まされふふんと鼻を鳴らすシャルルに、ジャックの親父さんが冷や汗をかきながらチラチラと見える尻尾を見ていたが、ひとまず休息のため家へと帰ることになった。
ついでに両親もいるしちょうどいいだろうとこの場で解散することに。
「それじゃ、出発は二日後だ。またな、みんな」
「おう! 親父、帰ろうぜ」
「そうだな。しかしまた逞しくなったかリューゼ? あのまま領主でなくて良かったのかもしれんなあ……」
そんな会話をしながらリューゼとブラオが会議室から立ち去り、続けてウルカとヨグスが口を開く。
「それじゃ僕も行くよ。ミルフィにも話をしないとね」
「ヘレナにもよろしく言っておいてよ。あとで顔を出すつもりだけど」
「伝えとくよ!」
「僕はずっとルツィアール国だったから、たまには家族の団欒をしておくよ。……結婚しろって五月蠅いんだよな」
「ヨグス、あんた夢中になったらそればっかりになるから母さん心配なんだよ……Aクラスの子の誰かと一緒になると思ったんだけどねえ」
「や、やめてくれよ母さん……そ、それじゃ行くよ」
ウルカとヨグスも家族と一緒に出ていき、クーデリカも口を開く。
「わたしも行くね! ふふ、今度はラース君と一緒に戦えるかも? あの島で鍛えたから見ててね!」
「ああ、期待しているよ。俺も新技を使えるようになったしな」
「うん! お母さん、行こう!」
俺が手を振って見送っていると、ノーラが誰にともなく言う。
「相変わらずだねー、クーちゃん。ラース君が好きなままだよー」
「そうね、私も好きだから分かるけど、簡単には諦められないわよ」
「ルシエールちゃんもねー。ラース君がなあー」
「……さて、俺達も帰ろうか」
俺にとってあまりいい話にはならなさそうなのでそそくさと部屋から出ようと歩き出すと、後ろでクスクスと笑う声が聞こえてきた。
「それじゃわたし達も家に帰ります。今度はヒンメル兄ちゃんも同行してくれるので、心強いですよ。他の大臣は万が一のため城の防衛に回りますしね」
「ああ、レッツェル達も行くのか?」
「すでに戦闘力ではあなた方に劣っていますが、搦め手ならまだいけるでしょう。……それに、悪魔というのを見ておきたいですしね」
「ボクも行くぞ! ラース君のために生きて、ラース君のために死んでやろうじゃないか」
「不吉なこと言うなよリース……」
「まあ、バックアップくらいならできるから安心して怪我しなさい。伊達に看護師をやっていたわけじゃないし」
バスレー先生達も屋敷へと戻り、準備をするそうだ。残されたのはアーヴィング一家とティグレ先生一家、それとマキナの両親となる。
「ラース様、もうマキナは成人していますし、私達の手を離れました。それでも大事な娘です。何卒、よろしくお願いしますね」
「はい、もちろんです。俺が守る……までもないかもしれませんけど、守りますよ」
「どういう意味よ!」
「まあまあ、マキナが強くなったってことじゃよ。わしもおる、心配はいらん」
「はい。それでは私達はこれで……出発前に一回くらいは帰って来なさいよマキナ」
「うん! って、どうせ帰るんだから一緒に行くわよ」
「ははは、マキナちゃんの言う通りだ、俺達も帰ろうか。といってもラースの家だけど」
「遠慮することはないと思うけどね。ティグレ先生達も帰るよね」
俺が尋ねると、ティグレ先生は顎に手を当ててから口を開く。
「いや、俺達はちょっと学院長のところへ行ってから帰るぜ。またな、ゆっくり休めよ」
「オッケー、それじゃ!」
<そういえばラディナ達も迎えにいかないとな>
「うん! アッシュもお留守番しているしね」
「……」
みんなで歩き出すと、俺達家族は何気に人数が多いなと思う。
とりあえず久しぶりに一緒だし、なにか料理を作ろうかな? そんなことを考えていると、難しい顔をして歩いていた母さんがアイナを抱っこしているサージュに目を向けて俺に聞いてくる。
「ねえラース、このイケメンは誰なの? アイナと仲がいいけど、最近友達が増えた?」
「あ! 言ってなかったっけ? サージュだよその人」
「「え!?」」
「そういえば紹介する前に会議に入ったから分からないよね」
驚く父さんと母さんに、サージュが頭を下げた。
<なんとかドラゴンの姿から人になることができるようになった。これもひとえに皆のおかげだ、これからも守っていくのでよろしく頼む。父とも会うことができた>
「……そうか、いや、ドラゴンの姿もかっこよかったよサージュは。それにお父さんと会えたのか……良かったな」
父さんが肩に手を置いて微笑むと、サージュも笑い頷いた。
ガストの町を奪還すればもう攻められることは無さそうだなと俺は肩を竦めながら家路につくのだった。
あと二日、準備は念入りにしておかないとね。
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