第五百二話 策略と計画


 転移魔法陣を抜け、馬車を庭に置いてから城内へと向かう。

 馬車を置いている間にオルデン王子が国王様に話を通すと言い、ライド王子と一緒に先行して中へ行った。


 「こんな汚い恰好で大丈夫かしら……?」

 「俺もこんなんだし、一応ピュリファイしておくかな?」

 「気にすんな、王子が来いって言ったんだからな。それより急ぐぞ」

 「緊張する……」

 <しっかりしなさいな!>

 「結局ついてきたんだ……ほら、もうすぐ謁見の間だから止めなよ」


 ウルカが呆れ笑いをしながらジャックとシャルルのじゃれ合いを止めていると程なくして謁見の間へと到着した。


 「ここは兄さんかな?」

 「分かった。デダイト=アーヴィング、他数名、戻りました」


 すると扉のからフリューゲルさんが出てきて、俺達へ言う。 


 「よく戻った。早速で悪いが会議室へ行くぞ」

 「はい……って、もう会議室なんですか?」

 「王子が出て行った時点で、決定したんだ。……忙しくなるぞ」


 神妙な顔で俺達を誘導し、サンディオラのアフマンド王を招待した以来の会議室へとやってくる。


 「失礼します」

 「あ、ラース君来ましたね! どうです、レガーロとわたし、半分ずつ出てこれるようになったんですよ」

 『イシシ……これで同時に話すことができまさぁ』

 「気持ち悪いよ!?」

 「うわあ……」


 出迎えてくれたのは顔の半分だけレガーロになったバスレー先生だった。

 右半分はいつものバスレー先生だけど、左半分は模様と目の色、それと髪の毛が少し逆立っているそれはいいんだけど、きっちり半分そうなっているので見た目が程よく気持ち悪い……


 「バスレー、事態は急を要する。下がってくれ」

 「ちぇー」

 「なんで不満気なんだよ……そういや一か月姿を見ていなかったな」

 「相変わらずなんだな……」


 ヨグスが首を振って呟くと、国王様が咳ばらいをして話を続ける。


 「そろそろいいか? まずは取り急ぎ帰って来てくれて感謝する。早速だがガストの状況を伝えたいと思う。入ってくれ」

 「は、失礼致します」


 別の扉からハウゼンさんが入って来ると、一礼して俺達に向き口を開く。……俺が最後に立ち寄った時よりも傷が多い……


 「知っての通り俺はガストの町付近で様子を見るため駐留していた。だが、丁度十日ほど前、異変が起きた」

 「異変じゃと?」


 ファスさんの言葉にゆっくり頷くと、表情を険しくして続ける。


 「……信じられんことだが、町の中から魔物が現れた。それ自体はあり得ると思っていたんだが、出てきた魔物はどれもこれも黒い靄を口から吐き出していた。見たことある魔物ばかり……それこそジャイアントビーも居たがそいつらはけた外れに強かった」

 「ジャイアントビーなんて俺達が十歳のころでも倒せたのに……」

 

 リューゼが口と眉を曲げて口を出し、他のみんなも同意見だった。特にハウゼンさんはギルドマスターであると同時に屈強の戦士だ。ジャイアントビーにやられることなど万に一つも無い。

 

 「見れば分かる、というところだな。後は黒い靄が少しずつ小さくなってきている気がする。魔物はなんとか対処できるが、こっちの方が重要だと思って報告に戻って来たというわけだ」

 「リリス、どう思う?」


 悪魔のことならということでバスレー先生と同席していたリリスに尋ねてみることにした。すると物凄くショックを受けた顔をした後ぐっと拳を握る。


 『良かった……出番あった……! こほん……そうね、一か月以上経つし、そろそろ復活ってところかしら? 魔物が出始めたのは恐らく意識が少しずつ覚醒しているからだと思うわ』

 「それ以外には?」

 『は? え? え、えっと……魔物が強力なのは靄の力で』

 「それはだいたい分かりますよ。それ以外は?」

 『……』

 「それくらいにしてあげましょうバスレー先生? ほらぁいじけちゃった」


 頬を膨らませて部屋の隅で体育座りを始めたリリス。バスレー先生の言い方はアレだけど、覚醒し始めてガストの町周辺にいるハウゼンさん達をうっとおしく思って襲わせたというなら納得がいく。

 そこでマキナが手を上げて口を開いた。


 「すみませんハウゼンさん。その靄の魔物は退治できたんですか?」

 「いい質問だマキナ。実を言うと、いくらでも湧いて出てくるから退治は不可能でな、ただ、ある一定のラインからは出てこれないようだからギリギリの線で騎士や冒険者が牽制している」

 「なら、俺達はガストの町へ救援ってことか? でもベリアース王国に攻めるって話もホークさん達から聞いたぜ。俺はどっちでもいいけどな!」

 

 リューゼはやる気に満ちた顔で拳と手をパンと合わせるが、黙っていたレッツェルが顎に手を当てて呟く。


 「……一定のラインまで、ですか? 妙ですね、もしそれだけ強力な魔物なら領内に広げれば混乱を招くことができると思うのですが、そこまで意識が覚醒していないということでしょうか?」

 「確かにそれはありそうだけど……」

 

 と、兄さんもまだ不自然な感じがすると首を傾げると、リリスが立ち上がり俺達に言う。


 『それ! 早く対応した方がいいわ、魔物が靄を吐いているって言っていたわよね? 私はしないけど、多分その靄を広げて範囲を広げているはずよ。だから徐々に魔物達が動ける範囲も自ずと広がっていくわ』

 「なるほどのう、少しずつならまだ大丈夫かと思うし、気づきにくい。こちらを油断させておるということか」

 『恐らくね。逆に言えば今は外にも力を使い、覚醒中……攻めるなら好都合、かも? フフ、流石に分からないけどぉぉぉ!?』

 「陛下、この女悪魔の言うことは恐らく合っていると思います。計画、発動する時かもしれません」

 「う、うむ。……ふう……皆を危険な目に合わせるのは気が乗らぬが……すまん、任せるぞ」


 リリスの口を伸ばしながらキリっとした顔で進言するバスレー先生に困惑しつつも俺達に頭を下げてくる国王様。


 「いえ、ガストの町を奪還するのは町に住み、戦える僕達がやるべきことです。陛下、計画をお聞かせいただけますでしょうか」

 「ふふ、デダイトはもう領主として相応しい風格があるな。なあ、ローエン」

 「え? 父さん?」

 「あ! お、お父さんにお母さん……!?」

 「げ、親父も!?」


 国王様がハウゼンさんの入って来た扉に声をかけると、俺達の父さん、マキナの両親、ブラオにソリオさん、ウルカやヨグス、クーデリカの両親がぞろぞろと入って来て驚いた。


 「ど、どうしてここに?」

 「うむ、それは――」


 そして話し出した国王様の計画内容にみんな驚愕の声を上げた。

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