第四百九十六話 最強の嫁


 「落ち着けシャルル!?」

 <これが落ち着いていられますか! その娘たちはジャックのなんですの!?>

 「え、えーっとぉ?」


 メキっとアシッドアントの頭を握りつぶしながら、アクアドラゴンのシャルルは一歩ずつ近づいてくるのを見てベルナが困惑していた。そこでノーラが首を傾げて口を開く。


 「オラ? オラはデダイト君の奥さんだよ?」

 「ちなみに貴女は? ジャックの知り合いみたいですけど」

 

 ノーラがデダイトと手を繋いでシャルルに尋ねると、怪訝な顔をし、尻尾を地面に叩きつけながら腕を組んで答えた。


 <わたくしの名はシャルル。アクアドラゴンですわ。名前はそこのジャックにつけてもらいましたの>

 「あ、そうなんだね! わたしはクーデリカ! ジャックの友達だよ。わたしはラース君が好きだから安心して?」

 「私はルシエールです。ジャックとは同い年のクラスメイトでしたけど、ラース君が好きだから大丈夫です!」

 「わたしはベルナよぉ。ダンジョンに居たドラゴンさんなら、ティグレを知っているかしら? 旦那よ」

 <そ、そうですの……? ティグレ……あの目つきの悪い男ですわね。でも、心はとても綺麗な人でしたわ>

 「ルシエラよ。私たちがジャックと居るのをそこまで怒るってことはまさか――」


 ルシエラが容赦ない自己紹介の後、ジャックを見ると、ため息を吐きながら頭を掻く。


 「ああ、そうだよ。俺の、こ、こ……」

 「こけこっこ?」

 「違う!? 恋人だ! くそ、寄ってたかって、ラースラースって……ある意味、お前だけだって分からされたよ!」

 <あら、んふふ。浮気じゃなかったんですのね、良かったですわ>

 「ぎゃあああああ!?」

 

 ジャックがシャルルに駆け寄り、シャルルもジャックへ駆けよると、ジャックは思いきり抱き締められ嫌な音が響いた。


 <こらこら、アクアドラゴン殺す気か?>

 <おっと、いけませんわ!? バーンドラゴンさん、お久しぶりです>

 <ああ。ところで、お前本気で人間と?>

 <ええ、つがいになる予定ですわ。ロイヤルドラゴンも承知していますし。それとわたくしのことはシャルルと呼んでくださいな>

 <わかった。私はロザだ、そう呼んでくれ>


 シャルルが頷くと、ルシエラが口を開く。


 「つがい……ってことはジャックはドラゴンと結婚するの?」

 「凄いねー!」

 「げほ……まあ、成り行きだけど俺もこいつと戦って修行していたら気に入ったんだ。美人だし、強い。それにアクアドラゴンだから海に飛んで魚を獲ることもできるしな」

 <んもう、お世辞が上手いんですから!>

 「ぐは……」

 「ああ、ジャック君!?」

 「人間の姿でも力は強いから気を付けないとよぅ?」

 <ご、ごめんなさいですわ……>


 背中を叩かれ膝をついて崩れ落ちるジャックをデダイトが支え、ベルナが回復魔法でジャックを治癒していると、ルシエラが腰に手を当ててため息を吐く。 


 「前途多難ねえ。でもドラゴンと人間の恋って面白いわね、ロザはサージュ狙いだからドラゴン同士だからさ」

 <あら、ロザあなたはサージュを?>

 <そうだ。まだ内緒だけどな?>

 

 そう言って不敵に笑い、人差し指を口に当ててウインクをするロザにシャルルはフッと笑って返した。


 <いいと思いますわ。根性はありそうでしたし、彼。それにしても、人間がいっぱいいるのは新鮮ですわ>

 「私達もサージュ以外のドラゴンと会えたからとても楽しいです。それに私は初めてスキルを使って鉱石を探せるのも来て良かったと思ってます!」

 「この島の魔物って強いからわたしも【金剛力】が目一杯使えて楽しいよ」


 ルシエールが手を合わせてシャルルに微笑みかけ、クーデリカがシャルルの両手を持ってぶんぶん振って話すと、シャルルが二人に尋ねる。


 <貴女達も面白いスキルを持っているのね? ……そういえばラースという男が好きだと言っていましたわね。ジャックもティグレ、それにサージュも彼は凄いと言っていましたが、どういう人間ですの?>

 「ラースは僕の弟だよ。それとダンジョンに小さい女の子が行ってたと思うんだけど、アイナは僕とラースの妹なんだ」

 <あら、アイナの? なるほど、あの子は愛らしかったですわ。是非あんな子が欲しいですわね。ティリアがティグレの娘というのが疑心暗鬼でしたけど、貴女を見て納得がいきましたわ>

 「うふふ、ありがとう♪ さて、おしゃべりも楽しいけど、ここで野営するわけにもいかないし進みましょう? ルシエールちゃん、他に石がありそうな場所は?」

 

 ベルナがティリアのことを褒められて微笑みながら移動を促す。こういうところは教師であるところを思い出させてくれる一面だ。

 恐らくベルナが居なければこのまま世間話に花を咲かせて一歩も進まなくなってしまうに違いない。

 

 「あ、そうですね。こっちにクリスタルの匂いがします、行きましょう!」

 「硬いならクリスタルの鎧とか欲しいなあ。そういえば水晶のドラゴンとかいないのかな?」

 <面白い発想をするなデダイトは。基本的には元素……火や水を冠しているドラゴンが基本だ。雷を司るプラズマドラゴンというのも居る。世界は広い、鉱石を冠したドラゴンが居てもおかしくはないかもしれないな>

 

 見たことはないがなとロザは最後に付け加え笑う。

 その後も魔物と遭遇しながら行軍し、大量のクリスタルを掘り当てたところで陽が暮れたので一行は野営に入っていた。


 「これくらいで大丈夫かな……?」

 「悪魔相手にどれくらい効果があるか分からないけど、種類は集めたし必ずなにかの役に立つと思うよ」

 「うんー! 掘ったところに必ず鉱石があるの凄いよねー」

 「えへへ、楽しかった」


 ルシエールがノーラに抱き着かれてはにかむと、クーデリカがパンを飲み込んでからデダイトとジャックへ声をかけた。


 「ジャックはもうダンジョンで修行してきたんだよね? なら、戻ったらデダイトさんとわたしも修行しないとダメかも? 結構魔物と戦ったけど、悪魔ほどの強さはなかったもん」

 「そういえばクーデリカちゃんは戦ったんだっけ」

 「ナルちゃんもですよ! バスレー先生が来なかったら死んでいたかも……ってくらい強かったから、もっと強く、それこそロザやシャルルと戦って勝てるくらいにね」


 クーデリカが決意に満ちた目で笑うと、ロザが目を細めて人間達を見まわして言う。


 <……正直な感想を言うと、クーデリカがスキルを使えば、他の魔物程度なら一蹴できるだろう。デダイトにしても動きが悪いということはない。そのお前達がそこまで言う悪魔という存在、興味深いな>

 「できれば一緒に戦って欲しいわねぇ。ティグレも相当苦戦したみたいだし、死なせたくないもの」

 <わたくしは行きますわよ。ジャックを殺させるわけにはいきませんからね>


 ベルナの困った顔に、シャルルが鼻息を荒くしてそう言うと、笑いが起こった。

 そして、もう一日鉱石を掘り進め、ルシエール達が拠点へと戻ると――

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