第四百九十五話 危険な技


 「行くよサージュ!!」

 <全力で来い! うむ、いい打ち込みだ。では我の番だな!>

 「来いー!」

 「くおーん!」


 楽しそうなサージュとアイナちゃんの声が少し離れたところから聞こえ、遠くではドラゴンと戦うリューゼの姿を横目に、私は師匠の前に立つ。


 「それで師匠、思い出した技と言うのは?」

 「うむ。これからそれをやるのじゃが、一つ約束だ。決して人に撃ってはならんぞ」

 「人には……? 格闘の技じゃないんですか?」

 「『近接』という意味では合っているが、格闘ではない。そしてこれを受けた相手は必ず重傷を負うじゃろう。アッシュくらいの魔物なら一瞬でボンじゃ」


 「くおーん!?」


 目を細めてアッシュを見た師匠に気づいたのか飛び上がってキョロキョロした後、私のところへ走って来て足にしがみついた。


 「くおーん……」

 「よしよし、怖かった? 師匠、アッシュを怖がらせたらダメですよ?」

 「ほっほ、すまんすまん。それくらい危険じゃと言いたかっただけじゃ。さて、では早速見せるとしようかのう」


 そう言って師匠はその辺の木に近づき、片手でそっと触れて目を瞑る。

 

 「……フッ!」

 「!?」

 「くおん!」


 師匠が目を見開き、グッと手を突き出した瞬間、凝縮した魔力が木の中に吸い込まれたような感じに見えて私は息をのんだ。アッシュは興味があるのか私の手から身を乗り出して可愛く鳴いていた。

 そして、小さな爆発音がした後、師匠が息を一つ吐いてこちらへ振り向く。


 「ふう、上手く行ったわい」

 「……見た感じ何も変わってないけど……」

 「ううん、マキナおねえちゃんの考えているとおりこれはかなり凄いことになっているよ。ボクが開けてみるね」

 「うひゃ!? セフィロ、いつの間に来てたのよ」

 「アッシュを追いかけてきたんだよ! えっと、こんな感じかな?」


 セフィロが師匠が触れた木に手を当てると、真ん中から二つに切り裂くように割るとその中は――


 「うわ!? 外は全然普通なのに中はおが屑みたいに粉々になってる……!」

 「うむ。魔力を相手の内部で爆発させるとこういう風になるのじゃ。超接近しなければならないから危険度は上がるが、威力は見ての通り」

 

 アッシュを抱っこしたまま木に近づき粉々になった木の内部に触れると、少し熱かった。これを受けたら人間の内部は……考えたくないわね。


 「これなら確かにドラゴンの鱗がいくら硬くても関係ないですね。悪魔にも効きそう」

 「そういうことじゃ。これが必殺技というやつなんじゃろうな。こいつの名は‟雷透掌”。これでドラゴン達を驚かせてやろうではないか」

 「美人な顔が台無しですよ……」


 師匠がいじめっ子のような笑みでくっくと笑い、私はため息を吐いて呆れたように言うと、師匠はふと真顔になり、顎に手を当てて呟いた。


 「そういえば若返っておったから思い出したのかもしれんのう。……ヤツめ、どこまで考えているのやら」

 「レッツェルさん、ですか?」

 「うむ、ラースに自分を殺させたいという考えで動いているから今のところは味方じゃろう。ただ、ことが済んだ後、再び敵に回らないとは限らない。ラースを怒らせて殺させるためにお前達を狙う、とかな」

 「……そういえばルシエール達が人質に取られたって言ってましたもんね」

 「一番危険なのはお前じゃがな……。さ、そうならんためにも習得してもらうぞ!」

 「は、はい!」

 「くおーん♪」

 「アッシュもなにか覚えてみる? ラディナお母さんの技とか」

 「くおん!」


 私の手から飛び降りたアッシュが、セフィロとそんな話をしているのを見て微笑ましく思いながら私は師匠に雷透掌のレクチャーを受ける。

 そういえば、まだ帰ってこないけどルシエール達は大丈夫かしら?


 ◆ ◇ ◆


 <ふむ、この辺りか?>

 「あ、はい。そこをこう、ずごごっとやってもらえると」


 ――山に入ってからルシエールとロザを先頭に、鉱石を掘りながら突き進んでいた。程なくしてジャックが合流し、結構な人数になっていた。 


 「【ジュエルマスター】って凄いねー、匂いで分かるんだもん」

 「町じゃ絶対役に立たないスキルだから、あまり好きそうじゃなかったけど、あんなに生き生きしている我が妹見るのは初めてかもしれないわねー」


 ルシエラが優しい顔で妹を見ていると、クーデリカが苦笑しながら口を開く。


 「あのかごをみると対抗戦を思い出すね! 相手のかごに物を放り投げていたのは凄かったよ」

 「あったなあ。あれは頭いいなと思ったぜ」

 「学院は楽しかったよね。僕とルシエラも同じ学年なら楽しかっただろうなあ」

 「デダイト君はノーラと一緒だからでしょ?」


 ルシエラが口を尖らせると、デダイトは『まあね』と悪びれずに笑っていた。そんな中、ロザに掘って貰った石を手に、ルシエールが歓喜の声を上げる。


 「これ、アダマス石だ! 貴重な石で、硬さと弾力があって鎧にいいんだよね。図鑑でしか見れないらしいよ」

 <ほう、この島は殆んど開発されていないから、もしかするといっぱいあるのかもしれないな>

 「はい! でもダイヤモンドは武器や防具にできるけどサファイアやトパーズは装飾品にしかできないから残念です……」

 「そうなんだ、でも綺麗だからわたし売って欲しいな」

 「加工したらみんなにプレゼントするよ! お給料は貰っているし、王都に来ている職人さんに頼むつもりだよ」


 クーデリカの言葉にルシエールが笑顔で答えると、ロザがかごに入った鉱石を取り出し、片目で見ながら口を開く。


 <なあに、使い道はある。ふむ、もっと掘っていこう。面白いものが作れるかもしれん>

 「面白いもの、ですか? 楽しみです! ところでこの山、ちょっと違うところを掘ると色々な鉱石が出るから不思議ですね」

 <この島は私達が来てからそれほど変化が無いから元々そういうものなんだろう……っと、お客さんだぞ>

 「……ですね。みんな僕の後ろに!」


 ロザが真面目な顔になると、デダイトが大剣を構えてロザが見ている方を見据えた。すると、木陰から巨大なアリが三匹姿を現す。


 「さっきも倒したアシッドアントか」

 「手伝うぜデダイトさん」

 「わたしも!」


 ジャックとクーデリカも武器を構えて前に出ると、アシッドアントが少しずつ距離を詰めてくる。デダイト達が飛び掛かるチャンスを伺っていると――


 <あ、見つけましたわジャック!>

 「げ!? シャルル!? なんでここに……!」

 「知り合い? 可愛い子だねー」

 <む、女の子がたくさん……! ジャック、浮気は許しませんわよ!>

 「ち、違う! ていうかそこに魔物が――」

 「ギシャァァァァ!」


 突撃してくるシャルルにジャックが注意を促すが、構わず近くのシャルルに狙いを定めるアシッドアント。


 <ええい、邪魔ですわよ!>

 「ギェ!?」

 「うわ……!?」


 シャルルに襲い掛かろうとしたアシッドアントはシャルルのパンチで吹き飛ばされていた。一撃、たった一撃で粉々になり、戦慄する一行。


 <さ、こっちに来て♪>

 「お、おう……」

 「いったいその子はなんなのよ……?」


 拳を血で染めながらジャックの腕に絡みつくシャルルを見て、辛うじてルシエラがそれだけ言うことができたのだった――

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