第四百九十四話 ドラゴンとの修行
「‟剛雷撃”!」
<むう、わしの足さばきについてこれるか人間……!>
「当然じゃ、わしの本当の姿を視たのじゃろう? 伊達に年を食っておらん! ‟錬気掌”」
<ならばアースナックル!!>
「うぬう!?」
「そこまで!」
グランドドラゴンと幾度か交戦した師匠。
最後はグランドドラゴンが繰り出した岩の塊のような拳を受けて師匠が吹き飛んだところで決着となった。
新しい技を二つ見せてもらったけど、それを使わないといけないくらい強敵だったということ……。
私は……ワクワクが止まらなかった。師匠を一対一で膝をつかせることができるってことは相当強いもんね。
「ぐぬ……大地のドラゴンだけあって硬いわい」
<ふぉふぉ、それを打ち砕くお前さんも大したもんじゃ。……それ>
「おおお……!」
グランドドラゴンはドラゴンの姿になり、私たちに腕を見せてきて、よく見れば皮膚にヒビが入っていた。骨には達していないようだけど、あの硬い鱗を破壊していたみたいね。
「ふむ、まあまあじゃな。む、そういえば硬い敵に有効な秘技が……いや危険か……?」
師匠が珍しく満足気に頷いた後、眉を顰めて誰にともなく呟いていた。なにか秘策、かな?
「よーし、私も師匠みたいに一撃与えられるかな?」
「すげぇなファスさん。待ってくれマキナ、次は俺だ! ストームドラゴンだっけ? いけるか?」
<もちろん。お手合わせ、お願いするよ>
「あ、ずるい!」
前に出たリューゼに口を尖らせていると、師匠が私の肩に手を置いてにやりと笑い、みんなから離れてから喋り出す。
「まあ、待て。一撃を食らわせるだけなら【カイザーナックル】があればグランドドラゴンの鱗くらいは貫ける。折角じゃから、もう一つ上を目指そうかのう」
「もう一つ上?」
「うむ。今から一つお前に技を教える。恐らくドラゴンや悪魔どもと戦う際に役に立つじゃろう」
「師匠はこの前の戦いの時には使わなかったんですか? 奥義、とか?」
私が尋ねると、師匠は深く頷き話を続ける。
「使わなかった、というより忘れていたというのが正しいかのう。久しくドラゴンやラディナのような強力な魔物と戦う機会が無かったからな。何故なら――」
「……!? ええー……」
師匠の説明に冷や汗をかく。
奥義とは違うけど、確かに使う機会が殆んどないという言葉には納得がいくものだった。だけど、覚えれば強力な一手が出来ると思うので、早速訓練に取り掛かる。
「先生ー、私たちちょっと技の練習をするから向こうに行ってるね!」
「おう! なんかあったら呼べよ! おいリューゼ、そっちじゃねえ! 火の魔法剣が風で返されてるだろうが!」
<しかしあの大剣はお前と同じく厄介だな>
「当たり前だろうが、あいつは俺の弟子なんだぜ! フリーズドラゴン、お前もやるか?」
<フッ、後ほど頼もうか>
ストームドラゴンと戦うリューゼに野次を飛ばすティグレ先生は自分も戦いたいのだろう。戦争とか人殺しは嫌いだけど、戦うこと自体は好きなんだよね。
「やるぞ、マキナ」
「はい!」
うーん、私もドラゴンさん達と戦いたいけどもう少し我慢かあ……。
「わふ」
「ぐるう」
「あれ? シュナイダーにラディナじゃない。どうしたの?」
「む? 今から技の修行をするから相手はできんぞ?」
師匠がシュナイダーの頭を撫で回してやると、首をドラゴン達に向けてじっと見る。すると、こちらに気づいたグランドドラゴンがこちらに歩いて来た。
<どうしたのじゃ? その魔物達が修行の邪魔をしておるのかのう>
「わんわん!!」
「グルォォ!」
「わ! 威嚇するなんて珍しいわね? うーん、ノーラが居れば分かるんだけど……」
何を主張しているのかノーラが居ればすぐわかるんだけど、残念ながら今はルシエール達と山へ行っているのよね……
すると、サージュと一緒に遊ん……修行をしていたアイナちゃん達も集まって来た。
「どうしたのー? シュー、怒ったらダメだよ?」
「うおふ」
怒ってないと主張するようにアイナに首を振るシュナイダー。
「ラディナはどうしたいの?」
「ぐるう」
<む? ……ほほう、そういうことか。この魔物達はどうやらわしと戦いたいらしいわい>
「そうなの?」
「わんわん!!」
私が尋ねると、シュナイダーが尻尾を大きく振って吠えたのでどうやら本当にそうらしい。
「なるほど、ラプトールドラゴンとじゃれていたと思っておったがドラゴンと戦いたいということか」
「えー、私もまだ戦っていないのに」
「ぐるう」
抗議の声をあげると、ラディナが私に鼻の頭を擦り付けて了承を得ようとしていた。
<わしは構わんぞ。……デッドリーベアにヴァイキングウルフと言えど、普通なら怯えて近づくこともせんがこやつらはそうではない。あのアッシュという子グマもそうじゃが、お主達は本当に面白い>
<我が一緒だからドラゴンを怖がらないのだろうか?>
そこでサージュが口を開くと、グランドドラゴンは口元に笑みを浮かべてサージュに返す。
<それもあるが――>
「うううう……!!」
「グルウウウウウ!」
<!?>
「凄い威圧……!」
「わしと戦っている時はしばしば叩きつけてきておったぞ」
だけど、怯むことなくシュナイダーとラディナはアイナちゃん達を庇うように立ち、唸りを上げていた。
<どうしても主人……それと主人が守ろうとしているものを守りたいと。良かろう、わしが鍛えてやる、あの人間達と一緒にな>
「あ、ちょっと!」
そう言ったグランドドラゴンと一緒に、二匹は意気揚々と歩いて行った……
「ラースのテイムしている魔物だけど本人が居ないのに勝手にさせていいのかしら……?」
「多分大丈夫だよ! サージュ、ちょっと休憩しようか」
<うむ、そうだな。マキナよ、少し休んでくる>
「行ってらっしゃいー……ふう、ようやく落ち着いて修行できるわね。これをまとめていたラースってやっぱりすごいわ」
「じゃなあ。ラースは今後、もっと凄い男になる気がする。それこそ、賢者とでも呼ばれるのではないか?」
不意に師匠がそんなことを言い出し、私は目を見開いて驚く。賢者という称号は、大昔に世界を救ったと言われる人がたった一度だけ与えられたものだから。
「……でも」
ラースならあり得るかもしれない。すでに悪魔と戦えるだけの力はあるからだ。
そんなラースを誇りに思うと同時に、私一人で独占していいものかと、不安にも感じる。
「ほれ、やるぞ」
「……っ! は、はい!」
私は頭を振り、まずは目の前のことをこなそうと頬を叩いた。
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