第四百九十三話 絶賛修行中……!


 「やああああ!!」

 「足元、それと目線に注意せい!」

 「は、はい! ‟瞬迅”」

 「目線で移動先が丸わかりじゃぞ」

 「あう!? いったぁ……」

 「そこまでだ。流石だなファスさん、だけどマキナも初めての技ながら悪くないと思うぜ?」


 瞬迅雷撃拳の高速移動部分だけを使う、瞬迅を使えるようになった私と師匠の勝負は、回り込まれて転ばされ、私の顔に拳を突き付けた師匠の勝利となり、ティグレ先生のストップがかかる。


 「わしが後継と決めたんじゃ、これくらいはやれると信じておる。だが、やはり実戦経験が足りんのう。ティグレやリューゼでもいいのじゃが、武闘大会のようにあらゆる強者が集まるような場所じゃと面白いんじゃが」

 「ま、それは追々でいいんじゃねえか? 今は悪魔どもを倒すために修行しているし『人外』相手ならドラゴンやラプトールなんかの方がいいだろ」

 「それはそうじゃが、肝心のドラゴンがあれではのう」

 「あはは……」


 そう言ってため息を吐く師匠の視線の先には、人間の姿になったサージュが居る。それだけならいいんだけど、アイナちゃんとティリアちゃんと遊んでばかりいるので悩ましい限りだ。

 話によると今までよりも強くなっているみたいだし、ぜひ両方の姿でお手合わせ願いたいものなんだけど。


 <うむ、これはいいな。アイナを抱っこするのも爪がないからヒヤヒヤしない>

 「おー」

 「くおーん」

 「ボクは大きいサージュ君の方が好きだけどなあ」

 <うむ、ありがたいぞセフィロ……しかし、同時に二人までか、そういう意味ではドラゴン形態の方がいいな。とりあえず父殿と母殿に見せたいところ……!>

 「『ところ!』じゃないでしょ? 浮かれる気持ちは分かるけど、ちゃんと修行もしないと」

 <おお、マキナか>


 私が腰に手を当ててサージュに言うと、アイナちゃんとセフィロを降ろしてこちらに顔を向けたので、そのまま話を続ける。


 「ティグレ先生やジャックもダンジョンでドラゴンと戦った聞いたわ。ジャックは教えてくれないけど、なにか掴んだみたいだし、私と戦ってくれない?」

 <む、そうだな……そういえばロザの奴はルシエール達と一緒に山へ行ったんだったか。よし、この体で戦いはやっていないから慣らす意味でもいいかもしれない>

 「武器は?」

 <持ったことがないから、まずは拳で良かろう>

 「お、サージュやんのか? 次は俺な!」


 名前を付けたラプトールドラゴンと木剣で戦っていたリューゼも嗅ぎつけて近づいてくると、師匠やティグレ先生もこちらへやってくる。


 「こいつ、かなり強くなったって豪語していたから戦いがいがあると思うぜ?」

 <うむ。ではやるか>

 「オッケー♪」


 というわけでまずは私が様子見を兼ねてサージュの相手をすることになり、距離を取って構えと師匠が審判になってくれたらしく間に立つ。

 さて……いきなり全力でいくか、様子を見るか……私は拳を握りサージュを見据える。


 「始め!」

 

 師匠の合図でまず動いたのは私で、地面を蹴って素早く懐へ飛び込んでいく。

 狙いは重い一撃で、ロザは人化しても尻尾が残っていたため、恐らく皮膚は硬いはず……となれば手数より一撃がいいと思う!


 「はあ! ‟雷塵拳”」

 <む……! 速い、避けきれん……ならば!>

 「あいつ!?」


 リューゼが驚くのも無理はない、なんせ私の拳に対し、拳をぶつけてきたのだから。

 拳はいわば点の攻撃なので、それに合わせるのは針に糸を通すくらい繊細な目が必要になる……やるわねサージュ。


 ……と、思ったのも束の間で――


 <ごふ……>

 「ああ、サージュが!?」

 「くおーん!?」

 「わわ、膝から崩れたよアイナちゃん!?」

 「ちょっと、サージュ大丈夫!?」


 ――私の拳がサージュのお腹にクリーンヒットしていた。


 <う、うむ……大丈夫だ……な、なるほど、きちんと防御は意識しないとダメだな……元の防御力はあるが、マキナの威力が上がっているようだ>

 「そ、そう?」


 サージュが地面に横たわりながらそんなことを言うと、師匠が顔を覗かせて口を開く。


 「威力が高いのは間違いないが、大きさの問題もあるのじゃろう。体が大きいことはそれだけで武器になる。じゃが人間の姿となると、ダメージが分散しにくいからのう」

 <ふむ、なるほど……人間というのは便利であり、不便でもあるのだな。勉強になる……よし、リューゼ、次はお主が相手をしてくれ>

 「おお! ……ていうか、これじゃサージュの修行になりそうだなー」


 リューゼが苦笑しながら大剣を担ぐと、ダンジョンがある方角から誰かが歩いて来るのが見えた。


 「あれは……?」

 「ん? おお、あいつらは!」


 ティグレ先生が嬉しそうに駆け出していき、なにやら話しながらこちらへ連れてくる。もしかして、と思ったらやはり彼らはドラゴンだと言う。


 「初めまして! 私、マキナって言います!」

 「俺はリューゼだ」

 「ワシはファスという、よろしく頼むぞ」

 

 師匠やリューゼと一緒に挨拶をした後、私は気になって尋ねてみる。


 「でも、サージュ達の話だと、ダンジョンを守っているって聞いていますけど、ここに居て大丈夫なんですか?」

 <うん、大丈夫だよ麗しいお嬢さん。バーンドラゴンのロザと僕達が君達の修行の相手をさせてもらうつもりだ>


 薄い緑色の髪をしたイケメンが私に笑いかけながらそう言うと、セフィロが私の足元でひょっこり顔を出して口を開く。


 「マキナおねえちゃんはラース兄ちゃんのお嫁さんだからストームドラゴンさんはダメだからね? シャルルドラゴンさんみたいに一人の人じゃないと」

 <う、うん、わかっているよ>

 「?」


 何故か慌てるストームドラゴンと言われた人に首を傾げていると、青い髪の女の人がきょろきょろしていることに気づく。


 「どうしたんですか?」

 <ええ、ジャックを探していましてよ。ここには居ないのです?>

 <ジャックはルシエール達と一緒に鉱石堀りへ出かけたぞ。しばらくしたら戻ってくるはずだから――>

 <女の子と一緒!? こうしては居られませんわ、わたくしもそっちへ……ふむ、匂いは……>

 「ええー……」

 

 青い髪の女性はさっさとこの場を立ち去り、山へと向かって行き、ティグレ先生が頭を抱えて呟いていた。 


 「あいつ、何しに来たんだよ……」

 「意外とドラゴンも面白い性格をしておるのう」

 <ま、人間と話すのも久しぶりじゃからのう。どうじゃ、年寄りどうし、お手合わせ願えんか? わしはグランドドラゴン。足は遅いが、防御は硬いぞ>

 「ほう、面白い。お主は強そうじゃ、ひとつ願おうか」

 「師匠の戦い見たいです!」


 私がそう言うと、師匠がにやりと笑い指を鳴らして位置につく。

 他にはフリーズドラゴンというドラゴンも居て、そちらはリューゼと戦うことになったみたい。


 結局サージュは人間の体に慣れるため、木剣を持ったアイナちゃんやシュナイダー、ラディナ達と戦うらしい。

 ふふ、ラースがサージュを見たらどういう顔をするのか今から楽しみだと思いながら、私は師匠の動きをしっかり見ながら勉強に励むのだった。

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