第四百九十二話 折り返し地点


 「チッ、先のドラゴン素材と違ってこいつは……」

 「難しい?」

 「ああ、硬さが段違いだ。これは長期戦になりそうだ」

 「なら、とりあえず以前の装備を修復してもらっていいかい? バーンドラゴン素材の装備はまた改めて取りに来るよ」

 「すまねえ、すぐに終わると言っておいてこのザマとは情けないぜ。お前の言う通り、先に仕上げられる方からやるとしよう」


 翌日の早朝からバーンドラゴンの牙と爪を加工しようと四苦八苦していたアルジャンさんが渋い顔で俺に言う。

 どうやらサージュのものよりさらに強固で、形を整えるところからすでに難しいのだとか。

 

 「後一日待ってくれるか? 今日はそっちに尽力する」

 「分かった」


 さらに一日滞在すると、見事にリューゼの鎧や大剣、俺の装備の修復が済んでいた。丁寧に磨かれたそれは新品と変わらないくらいだ。


 「もう行くのかい?」

 「はい。まだやらないといけないことはたくさんありますから」

 「気を付けてな。こっちは十日でなんとか仕上げておくつもりだ、悪いな」

 「初めての素材だし、仕方ないよ。元々装備の修復だけで、バーンドラゴンの素材は急だったんだよ」

 「そうか? とにかく、死ぬんじゃねえぞ。お前らが死んだらつまらねえからな」


 アルジャンさんが笑いながら俺達を見て言うと、オオグレさんが頷いて返す。


 「無論、そうさせないために戦うつもりだ。ありがたく借り受ける」

 「おお、頼むぜ! あんたの刀もなんとかしておくからよ」


 依頼を受けてもらい、俺達はアルジャンさん達に見送られて町を出る。


 「これで終わりかあ。私達が来る必要はなかったんじゃありませんか先生?」

 「いえ、そんなことはありません。どこでなにがあるかわかりませんからね、ラース君が動けない場合、僕達が受け取りに来るくらいのことはできるでしょう」

 「そんなことがあるとは思えませんけどねえ……」

 『私はともかく、ガストの町に居る相手がアスモデウスにアドラメルク、ルキフグスなら一人相手にするだけでもかなりきっついから復活が早ければそうなることもあるわね。逃げきれたのは運が良かったんじゃない?』


 リリスがイルミの意見にそう返すと、納得がいかない感じで口を尖らせていた。そこでバスレー先生が口を開く。


 「あれは相当でしたからねえ。レガーロの力を持ったわたしでギリギリ互角ですし。レッツェルさんなら不死身を活かして特攻すれば相打ちくらいには持っていけるんじゃないかくらいでしょう」

 「手厳しい……ですが、恐らく今の僕ではその程度が関の山でしょう。今はさっぱり鍛えていませんからね」

 「暗躍ばかりするからだな」


 リースが不敵に笑いながら嫌味を言うけど、逆に考えれば――


 「まだレッツェルにも伸びしろがあるってことか」

 「否定はしませんが、スキルが戦いに向いた能力ではありませんから、あまりお役に立てるとは思えませんよ」

 「それでも、力をつけておいて損はしないだろ?」

 「……いいんですか? 僕が強くなると、色々困るのでは?」

 「俺はそれよりも強くなるつもりだから大丈夫だ。あの時と同じように、お前がなにかするなら止めるまでだよ」

 「フッ、覚えておきましょう。ではドラゴンの島へ行くべきでしょうね」

 「はあ、修行か……私泥臭いの嫌いなんですよね」

 「君は戦わなくていいですよイルミ。体は大事にすべきですから」

 「……」

 「?」


 レッツェルが珍しく人を気遣うことをいい、俺は眉根を潜める。なんだかんだでイルミとリースは長くいるみたいだし、大事なんだろうか?

 そんな会話をしていると、アングリフの居る森へ到着した。

 ここは昔、サージュに連れてきてもらった時に着地していた森で、アングリフは小さくなれないのでここで待機してもらうことにしたのだ。


 「おーい、アングリフいるかい!」

 「モドッタか、あるじ」

 「待たせたね。大丈夫だった?」

 「モンダイナイ。突っかかってきたマモノを倒したくらいダ」


 アングリフの視線の先には捕食したであろう、まだ新しい魔物の骨がいくつか転がっていた。さすがにドラゴン種は強い。俺やティグレ先生クラスでないと勝てないくらいに強いしね。


 「ではまたルツィアール国へ出発ですね」

 「うん。ヨグス、見つかっているといいけど」

 「多分、大丈夫だよ。ギルドの人づてで情報はいっているだろうし」

 「期待したいところだな。うーん、やっぱり順番を間違えたかなあ。サージュにここまで連れてきてもらっても良かったかもしれない……」

 「それは仕方ないよ。ドラゴンの島はサージュが居ないと見つからないし、いつ見つかるかも分からないから先に出発して正解さ」


 ウルカにそう言われて、確かにとも思う。しかし、この移動時間を考えると、少々勿体ないという気持ちがあるのも確かだ。

 

 「デハ、しゅっぱつしよう」

 「オッケー。それじゃ、もうひと踏ん張り頼むよ」

 「ひひーん♪」

 「ぶるる♪」


 馬達が勢いよく鳴き、俺達はオーファ国を後にするため馬車を走らせる。

 

 その後、ルツィアール国で無事ヨグスと再会し、事情を説明すると二つ返事で同行してくれることに。

 ガストの町周辺はそれほど変わりがなく、ハウゼンさんやミズキさん達が無事であることを確認すると、そのまま一路王都イルミネートを目指す。

 

 これで役二週間ほどの道程となったけど、マキナ達はどうなっているかな? 


 早く顔が見たいと――


 「くくく……ハンバーグをこうやってパンに挟んで食べると美味いということをラース君から聞きました……」

 『ずるい!? あんた残してたの!』

 「当然。あなたのようにガツガツと食べるわたしではありませんよ?」

 「一番食べていたくせに……」

 「はっはっは、拙者は食べることができないので羨ましいでござるよ」


 ――騒がしい荷台を見てそう、思うのだった……








 ※ちょっと短いですが、体調不良のためこれ以上はきついので申し訳ありません……明日からはマキナ達の方へ移行します……うぐ……

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