第四百九十七話 合流につぐ合流


 「ただいまー!」

 「戻ったよ、アイナ。……どうしたんだいこれ?」

 「おかえり、デダイト兄ちゃん、ノーラちゃん!」

 「くおーん」


 採掘から戻ったデダイト達は後ろからアイナとアッシュ、ティリアに声をかけると、元気よく振り返って挨拶をした。しかし、さらに先にある光景にデダイトは眉根をひそめていた。


 「なにがあったのぉティリアちゃん?」

 「あ、ママ! えっとね、マキナおねえちゃんがファスおばあちゃんとしゅぎょうしててね、ドラゴンさんと戦ったらああなっちゃったの」

 「た、倒したの……? あれ、人型じゃないんだけど……」

 

 ルシエラが言う通り、広場には冷気をまとったドラゴンが倒れ、その横には翼の無い黄土色のドラゴンが膝をついていた。


 <フリーズドラゴンとグランドドラゴンがやられたようだな?>

 <まさか、あの娘にやられたとでも? ティグレならわかりますが……>

 「とにかく行ってみようぜ、ファスさんとマキナならなにかやらかしてもおかしくはねえ」


 ジャックの言葉で採掘組は頷いて肩で息をするマキナに近づいていきクーデリカが声をかけた。


 「マ、マキナちゃん?」

 「ふえ!? ……あ、クーデリカ! 戻ってたのね、ルシエールにノーラもおかえり!」

 「ただいまー! 出るときにはいなかったドラゴンさん達だよね? どうしたの?」

 「あ、ああ、これはね――」


 マキナが目を泳がせてノーラに説明しようとしたところで、座り込んでいたファスが足のバネだけで立ち上がり、代わりに話し始めた。


 「戻ったか、さすがに無事なようじゃな。まあこっちは見ての通り、最終奥義ではないが裏技を思い出してな。それを実戦で使ったのじゃが、このありさまという訳じゃ」

 <やられたわい……流石じゃなファス殿>

 「いや、恐るべしは弟子のマキナじゃ。まさかたった一日で覚えるとは思わなかったうえ、【カイザーナックル】に雷透掌を乗せて放ちおった。そこのドラゴンはたまらずひっくり返った訳じゃな」

 「い、いやあ……ご、ごめんなさい、大丈夫ですか!?」


 マキナが目を回しているフリーズドラゴンを揺する中、リューゼとナルが渋い顔で口を開く。


 「……ジャック、デダイトさん。こりゃもっと本気で修行しないとダメだ。俺は人化しているドラゴンの動きは少しついていけるようになったけど、マキナはあっさりあの巨体を倒しちまった」

 「まいったわ。【氷結】で動きを止めてリューゼと一緒に戦うのが精一杯だったところでアレだもの」 

 「みたいだね。どれくらい修行期間がとれるか分からないけど、僕も参加しよう」

 「にしても……すごいね……マキナちゃん、わたしと一緒くらいだったけどどんどん強くなってるなあ……」

 「うん、ボクの実を食べる一人目はマキナおねえちゃんに決まりそうだよ」


 セフィロが見据えるフリーズドラゴンの下腹部は鱗がはげ落ち、やけどをしたような痕になっているのを見てクーデリカが顔を青くして呟くと、サージュが近づいてくる。


 <我もデダイト達と修行だ。アイナとティリアのおかげでこの体にも慣れてきた>

 「お、そうなのか? でも、まだいきなりリューゼ達は厳しいだろうから、俺とルシエラ、それとルシエールとかノーラがいいんじゃないか?」

 <わたくしもやりますわよ!>

 「いや、お前はダメだろ……」

 <はは、助かるぞシャルルよ。もう少し慣れたらお手合わせ願おう>

 

 ジャックの案が採用されると、ベルナとティリアの下へ近づいたティグレが、手を叩いてその場にいた全員に声をかけた。


 「よーし、とりあえず休憩がてら採掘組の話を聞きながら食事にしようぜ。フリーズドラゴンも休ませてやらないとな」

 「じゃな。ルシエールの持っているカゴを見る限り、成果はまずまずと言ったところかのう」

 「それじゃ、用意するわ。リューゼ、手伝ってね」

 「おう」

 

 ナルとリューゼが焚火の方へ向かうと、マキナ達もそれに倣って食卓を囲みおしゃべりが始まる。


 「へえ、鉱石があっちこちにあるのね」

 「うん。匂いでね、わかるんだよ。硬い鉱石だと苦い感じで、サファイアみたいなのだと甘いんだよね。それと間に合うか分からないけど、明日はガストの町の鍛冶屋さんに持っていくつもり。他にも色々あったから持って帰ってるよ」

 「匂ってのいうのが凄いよね。あ、匂いと言えば、見たことない果物があったんだよねー。ロザが食べて確かめてくれたけど、毒は無かったから食べられるよー」

 「途中、ラプトールドラゴン以外の魔物もたくさんいたからひとりでは移動しちゃダメだね」

 <わたくし、なら余裕ですからその果物が欲しい時は行ってくださいまし>

 「シャルルって言い方がきついけど優しいよねー」

 「ちょ!? ノーラ、くっつかないでください!?」


 と、道中やルシエールのスキルや謎の果物の話をする女性陣。そして男性陣は持って帰ったモノで話が盛り上がっていたその時――



 ◆ ◇ ◆


 「バスレー先生達は?」

 「国王様に会うって言ってたから島に行くのは俺達だけだ。それにしても忙しいところ悪いなヨグス」

 「構わないよ。僕が居なくても問題ない遺跡探索より、ガストの町を危機から救う方が重要だ、父さんと母さんは無事だったのが幸いだった」


 俺とウルカはヨグスを連れて城を目指していた。

 アルジャンさんのところから再びルツィアール国へ赴き、無事ヨグスを連れて出発。ハウゼンのところへもう一度寄り、変化が無いことも確認。

 さきほどようやく帰って来たところで、ヨグスの両親に会ってから今、という訳だ。


 「それにしても悪魔、か。ラースは相変わらず色々と巻き込まれているなあ」

 「余計なお世話だよ……旅に出てからまだ半年も経っていないでこれだから流石に自覚はあるけどさ」

 「フフ、いい傾向だ。自分を知ることで、周囲の状況がどう流れていくか予測ができるから自ずと先読みができるようになる。……まあ、遺跡探索の師匠から言われた言葉だけどね」

 「……興味深いな」


 遺跡探索は崩落や魔物といった危険が多い。

 そのため、気弱では探索が進まず、蛮勇では死が早い。だから自分の能力を見極めて、最善を探すと教えられるのだそうだ。


 ……自分の能力、か。


 超器用貧乏は万能だけど、頼りすぎない方がいいのかもしれないなと少し思う。そんなことを考えながら俺達三人と馬車は転移魔法陣を潜り抜けた。

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