第四百八十二話 友達


 フリーズドラゴンが『合格』と称して停戦をしてから一時間ほど経過。

 時間はすでに夜と言える時間となっており、ティグレ達はダンジョン内で野営を行っていた。


 「……サージュ寝ちゃった」

 「疲れていたもんね」

 「俺達もクタクタだ、ティグレ先生の時計を見てびっくりしたぜ……アイナちゃん達は眠くねえのか?」


 焚火の灯りでサージュの鼻先が照らされ、アイナとティリアがそれを撫でているとジャックが首を鳴らしながらふたりに聞く。


 「もうちょっと大丈夫だよー。セフィロちゃんとお話もしたいから頑張る!」

 「あはは、ボクとはいつでも話せるから寝てもいいよ?」

 「うーん……わたし……眠い……」

 「ティリア、こっちに来い。パパと膝で寝ていいぞ」

 「んーん……ドラちゃんの手を枕にするの……」

 「にゃーん♪」


 ティリアはフラフラとドラ猫のところへ赴き、ふかふかの前足を抱き枕にして寝息を立て始めた。


 「くっ……ドラ猫に負けるかよ……」

 「ドラちゃんふかふかだもんね! アイナも後でドラちゃんのところで寝るー」

 「ボクもー!」


 アイナとセフィロが『ねー』と元気よくハイタッチをしているのを見てため息を吐きながら、ティグレは正面に座る人化したドラゴンに声をかけた。


 「……さて、サージュはこの調子だが、話はできる。この先ドラゴンはどれだけ出てくる?」

 <ふむ、色々聞きたそうだがのう?>


 グランドドラゴンが楽しげに笑うが、ティグレは干し肉をかじりながら首を振って指を立てて言う。


 「それはロイヤルドラゴンのところで聞けばいい。少しずつよりそっちの方が早そうだからな。どうせついてくるんだろう?」

 <そうだな。質問の答えだがこの先、私達と同じドラゴン種が出てくるのは残り二体だ。正体は明かせないし、どのタイミングで出てくるかは答えられないがな>

 「……なるほどな、残りは風と水だけか」

 <ほう>


 フリーズドラゴンは感嘆したように呟くと、人化した。

 するとそこに、長く青白い髪をし、目つきの鋭い男が立っていた。そして不敵に笑いながらティグレ達へ告げる。


 <まあ、だいたいわかるか。私と同じく四大属性から外れたドラゴンも居るが、このダンジョンには居ないのだ>

 「ロザが火、爺さんが土だからな。氷のドラゴンってのは聞いたことが無いな」

 「なるほど、火・水・土・風ってことか……」


 ジャックが納得したように頷くと、フリーズドラゴンは首を降る。


 <……まあ、ドラゴンは基本的にこの島で生きてこの島で死ぬから人間は知る由もないだろう。ドラゴンにも千差万別だということだ、外で見たかもしれないがワイバーンやラプトールドラゴンのようなものもいる>

 「その割には……いや、いい。ロイヤルドラゴンとやらに会えばわかることだな」

 <生きて辿り着けるといいがな>

 「よせやい……サージュが居ればなんとかなると思うけどな」

 

 ジャックがフリーズドラゴンにそう返すと、少し不機嫌な顔になり目を細めてジャックに問う。


 <そういえば友達と言っていたな。人間とドラゴンが友達になれていると本当に思っているのか?>

 「ああん? 当たり前だろ? こいつがルツィアール国の姫さんを失くし、さらには封印されて一人ぼっちになってたんだぜ? それでもサージュは人間を恨むどころか自分で命を絶とうとしたような優しいやつだ。俺達がサージュを好きにならないわけがねえ! 今はラースの家で暮らしているけど、あの時Aクラスのやつらなら誰でも家に居させただろうぜ」

 <……>

 <くっく、言いよるわい。今、ここに古代竜が来たのも運命と言うやつなんじゃろうかのう>

 「……? どういうことだ?」

 <おっと、口が過ぎたか。わしも寝るかのう>

 「じいじ寝るのー?」

 <うむ、一緒に寝るかの?>

 「ううん、ドラちゃんと寝るー!」

 <とほほ……そっちの人間の気持ちがなんとなくわかったわい……>

 「へっ……」


 グランドドラゴンがそう言って嘆くのを見てティグレが苦笑すると、アイナがアッシュを抱えてフリーズドラゴンに近づいていく。


 <……? なんだい?>

 「えっとね、アッシュも友達なんだよ! セフィロちゃんも人間じゃないって言ってるけど友達だよ」

 「くおーん♪」

 「うん! ドラゴンのことは分からないけど、人間とかそういうのはあまり関係ないんじゃないかなってボク思うよ?」

 <……フッ。私も疲れた、もう寝るとしよう>

 「はーい! ドラちゃんのところへ行こう、アッシュ、セフィロちゃん」

 「俺も寝るかな……ティグレ先生も休んで体力を回復させないと……ふあ……」

 「ああ、すぐ寝るよ」


 アイナは笑顔でフリーズドラゴンに挨拶をすると、ドラ猫の下へ駆け出していき、セフィロも後をついていき、ジャックもあくびをしながら持ってきた小さめの毛布にくるまり横になる。

 

 「……へっ、泣くなよ」

 <……泣いてなどおらんわ>


 そんな中、ティグレはサージュに近づいて声をひそめて声をかけていたのだった。


 ――そして


 <ぬうう!>

 <やりますね……! 僕の風を受けながら前進してくるとは!>

 <抗うのではなく、受け流す……! 先ほどお前が見せてくれたことの応用だが、どうだ!>

 「やったぜ!」

 <み、見事……です……!>


 ――ストームドラゴンを撃破し……


 <ほっほっほ……古代竜は資格があるようだが、人間をロイヤルドラゴンに会わせる資格を試させてもらおうか……人間だけでわらわと戦え!>

 「上等だ……今までロクに全力が出せなかったから本気でやらせてもらうぜ?」

 「アイナもやるよ!」

 「パパのお手伝いするもん!」

 「ボクも今は人型だからいいよねー?」

 「お、俺だって……!」

 <は? え、ちょっと待――>


 ――アクアドラゴンをティグレ達が撃破し、ダンジョンの奥へと足を進め、そのまま四人のドラゴンと共にロイヤルドラゴンの下へ向かう。

 最後に戦ったアクアドラゴンがドレスのような服の裾を力強く握りながら納得がいかないといった感じで口を開く。


 <なんじゃこの人間どもは!? 子供は可愛い顔して剣を振り回して魔法を放ってくるわ、おっさんは滅茶苦茶だわ、そっちの男は……ふむ、なんとも不思議なスキルであったな。わらわ好みの顔だし>

 「おおう、耳に息を吹きかけるのは止めろ!? ……不思議ってどういうことだ?」

 <【コラボレーション】といったか? 触れた相手のスキルどころか魔法や剣術をも模倣できるようだな?>

 「まあ……そうだな。触っていないといけないから不便だけど、それ以外だと結構使えるんだよな。釣りのスキルを持っている人を掴んでいると、こう……極意みたいなのが頭に浮かぶんだ」

 <恐ろしいスキルな気もしますね。僕たちの力も触れていれば使えるってことですし>


 ストームドラゴンも神妙な顔つきで顎に手を当てて呟く。

 

 <ジャックはいつも支援してくれるな。ウルカの霊術も使えたか? ドラ猫もスキルだろう>

 「だな……あまり気にしたことは無かったけど」

 <さて、おしゃべりはここまでだ。この扉の向こうにロイヤルドラゴンが居る>

 <わしらも行くが……覚悟はいいか?>

 「なんの覚悟かわからねえが、ここまで来て引き返す選択はねえだろ。……行こうぜサージュ。人化の方法、教えて貰え」

 <うむ。……開けるぞ>


 サージュが扉に手をかけ、開いていく――

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